第5話 魔力回路の活性化

「高度な訓練って、どんなこと?痛いの嫌だな…。」


「今やっている訓練とそう変わらんから安心しろ。」


「じゃあ、やってみたい。痛くないんだよね。痛かったらすぐ辞めたいけど…、いたくなかったら頑張るよ。僕。」


「痛いか痛くないかは、やってみればわかることだしな。まあ、やってみるか。」


「今から、無属性魔法の中の基本、身体強化をやってみるぞ。魔力の変化が分かったら教えるんだぞ。」


凜とロジャーは、昨日の治療の時と同じように手をつないだ。


「まず、昨日の要領で魔力を循環させるぞ。暖かいものを感じたら、お主の魔力回路に流し込んだ後、儂に戻すんじゃぞ。」


「昨日やったようにやればいいんだよね。それならできるよ。」


「では、魔力回路の中を3周ほど回して儂に戻すんじゃ。できるか?」


「3周だね。分かった。」


ロジャーは、凜に次々に魔力を渡していった。凜は受け取った魔力をコントロールし、魔力回路の中を3周回しては、ロジャーに返していった。魔力コントロールの練習だ。


無属性の魔力は、何も物理現象は起こさない。魔力回路の中で、方向性が決められ、様々な現象が引き起こされる。


火属性や水属性の魔力なら、回路の中を回して放出するだけで、放出系の魔法になる。ファイ―ボールやウォーターボールのような。放出系の魔法を持つ者は、未熟な回路でも未熟なりの魔法が使えるのだ。


しかし、物理現象を伴わない無属性の魔力は、そうはいかない。よほどうまく導いてやらないと、魔力を消費することができないのだ。だから、魔力病を発症してしまうことが多い。無属性の魔力を持つ者は少なくはないのだが、それのみと言うものは殆どいないからだ。


ましてや、無属性の魔力を意識してコントロールし、身体の外に出すことができる者など皆無だ。ロジャーは、その珍しい例なのだ。


「良し、上手いぞ。お主の回路の中を通ってきて、儂の魔力とは違ったものになって戻ってきておるぞ。では、儂の魔力回路の中で魔力を練ってお主に渡す。受け取ることができぬか、先ほどと違った魔力に感じることができればお主の適性が分かるはずじゃ。」


次は、ロジャーが魔力を形あるものにして凜に渡す。今回の魔法は身体強化。放出系ではなく体内をめぐって筋力や可動域、反応速度を上げる魔法だ。練り上げた魔力を右手から凜の左手に渡した。魔力は、スムーズに入って行った。


凜は、身体強化に練られた魔力をそのまま受け取り、回路を三周回してロジャーに渡した。


身体に干渉することもなく、左手で跳ねのけられることもなく、ロジャーが練った魔力は、凜の魔力として戻って来た。


「おい、凛。何か変なことしたか?」


「ん?何にもしてないよ。魔力回路の中を3 周回して返しただけだよ。」


ロジャーは、凜を観察しながら怪訝な表情を浮かべた。


「また、儂が練った魔力を渡す。同じように回路を3周まわして儂に戻すんだ。いいな。」


ロジャーは、回路の中で魔力を練ってストレージを活性化させた。ストレージの活性化など意識したことは無かったようだ、無意識にやっていたことを意識的に行うことは案外、難しかったようだ。


「済まぬ。少し時間がかかった。今から魔力を渡すぞ。」


ロジャーは、右手から凜の左手へ魔力を渡した。


「うん。来たよ。何かさっきと少し違う。色がついているの?」


「お主、手から受け取った魔力が見えるのか?」


「そんなわけないじゃん。ただ、そんなに感じただけ。」


「で、どうだ?回路の中を回しているのか?」


「今、回し始めたところ…。何か、今までより回しにくい。所々で回路に引っかかる感じがするんだけど…。」


「よし。引っかかるところで魔力を中に入れるんだ。お主がもつ回路に必要な魔力が引っかかっているのだろうからな。ストレージが引っかかるということは、空間系の魔法か…。」


「ええ?魔力を中に入れるってどうゆうこと?意味が分からないんだけど。」


とにかく、凜は、苦労していた。空間系の魔法を持っているようなのだが、ストレージではないないようなのだ。そうであれば、ロジャーにはある意味お手上げだ。しかし、引っかかりがあるのならそこに入れてみろとしか言いようがない。


「いいか。引っかかりがあるところには、魔力を入れることができる入り口があるはずなのだ。儂の魔力の色では入らないのなら、少し色を変えてみろ。濃くするか薄くするか色を足すか色々試してみんだ。」


「色を変えてみたらいいんだね。」


凜には、そのヒントがピンと来たようだ。凜の魔力のイメージと一致したのかもしれない。試し方、試行錯誤の仕方が分かったのだろう。しばらくして、目を輝かせてロジャーに伝えてきた。


「引っかかっていたところ全部に魔力を入れることができたよ。」


「ほほう。それで、どのような魔法が出てきた?」


「あていむぼっくす?」


「まあ、なんと。懐かしい魔法が活性化したものだな…。」


それは、ずっと以前に亡くなったロジャーの友が持っていた魔法だった。ロジャーは、その友とたくさんの冒険を行った。そして、その友も地球に転生し、地球から転生していたのだった。


「どうしたの?ロジャーさん。」


「ん…。いやな。昔を少し思い出していたのだ。儂の友だちにお主と同じ、アイテムボックスを持つ者がいたなとな。よし、では、お前に短剣をやろう。魔力回路の活性化のお祝いじゃ。」


ロジャーは、どこから、立派な短剣を取り出し、凜に手渡した。


「アイテムボックス・オープンと呪文を唱えて見よ。」


「あいてむぼっくすおーぷん?」


「もっとはっきり。、じゃ。」


「アイテムボックス・オープン」

「うぁーっ。」


目の前に現れた黒い入れ口に凜は驚いて声を上げた。


「おっ、入れ口が開いたようだな。さあ、その短剣を入れてみなさい。」


ロジャーに手渡された短剣を目の前の入れ口に恐る恐る入れる凜。短剣は、ふっと消えてアイテムボックスの中に収納された。


「消えた。」


「では、もう一度アイテムボックスを開いて、短剣を取り出してみろ。呪文は、同じだ。アイテムボックス・オープンでいい。」


「アイテムボックス・オープン」


「中を覗いてみろ。短剣があるだろう。」


「うん。」


「それに手を伸ばして取ればよい。慣れてくれば、アイテムボックスを念じて中の物を手に取ろうとすれば取り出せるようになる。」


凜は、アイテムボックスの入れ口に手を伸ばした。手には、短剣が握られていた。


「これで、この世界でのお主の魔力病は完治じゃ。地球では、もうしばらく魔力を回す練習をしないといけないだろうな。魔力回路が成熟すれば、魔法を使うことができるようになる。魔法を使って魔力回路を活性化すれば、魔力病は完治するという訳じゃ。もうしばらく、父と魔力循環の治療を頑張るのだぞ。」


「地球でも、もう痛くなくなったから頑張れるよ。でも、もうこっちの世界に来ることはできなくなるの?」


「さあ、どうなのだろうな。まあ、こっちに来ることができれば、一緒に旅をしようではないか。こっちの子どもが目覚めるまでは、お主が飯を食ってあげないと体が元気にならぬからな。」


「本当!一緒に行っていいの。」


「うむ。まずは、町までだな。その後のことは、町について考えようではないか。早速出発するぞ。トイレを済ませておくのだぞ。」


ロジャーと凜。二人の旅は、こうして始まった。異世界での二人の冒険の始まりである。


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