収まってしまった場所

「やったね!! 遅延証明書一年分だあ!!」


 中には賞状風な紙に「おめでとうございます」と書かれた紙が一枚と、数えるのもダルくなるくらいの遅延証明書が入っていた。


「要らんわッ!!」

「絶対に必要よ! だって遅延証って遅刻にならなくなる魔法の切符なのよ!」

「だとしても、こんな要りません……て、え?」


 一枚の遅延証を取り出して、確認してみると明日の日付けが書かれていた。封筒に手を突っ込んで、もう何枚か取り出した。


「これは、来月。こっちは再来週。これに関しては五ヶ月だ」


 隣で先輩がスゴくドヤ顔をしている。


「ふふん。これが我が魔法の能力!! 遅延証を作るのなんて、ちょちょいのちょいよ!」


 く、くだらねえ。だけど、使えるだけまだマシか。ちゃんと日付けも変わってるし。

 自分がいつも乗ってる電車の遅延証だし。


「それから今日の放課後は君にしてもらいたいことがあるから、放課後またここ集合ね。それじゃ、またね」


 先輩は既にお弁当を食べ終えていた。僕のお弁当はまだ半分も残っているのに。

 かき込むようにして残りのお弁当も食べた。冷やご飯が喉につっかえて、咽せた。


 そろそろ、教室に戻ろう。昼休みももう終わるしな。確か次の授業は英語だったな。うわぁ、英語かあ。食後の英語は絶対に眠たくなるんだよな。まぁいっか、どうせスマホいじって終わるし。


 お弁当を雑に片付け早歩きになりながら扉へと向かい、歩きながら屋上の扉を閉めた。


「あれ? 開けるときは先輩の魔法使って開けたから、扉は閉まっても鍵が開けっぱなしになるんじゃ……まぁいっか」


 小走りで教室まで向かった。別に時間がギリギリという訳じゃないけど授業が始まるまでゆったりとしていたい、だから早く教室に戻りたい。


「おう成田!! そんな急いでどこ行くつもりだ?」

「ああ、小鳥遊か。今教室に戻るところだったんだ」


 廊下で小鳥遊と鉢合わせた。右手に財布を持っているから多分、購買に行く途中だったのだろう。にしても、浮かれた顔してやがるな、何でだろう?


「ああそうだったのか。俺今から購買行くけどお前も来る?」


 まぁどうせ教室に戻っても寝るか暇してるかだから、購買でなんか買おう。


「ああ、じゃあ行く」

「よっしゃ、じゃ早く行こうぜ」


 二人で購買に行くことにした。けど、財布を教室に置きっぱなしにしてたんだ。仕方がないから自分の分は小鳥遊に払ってもらって、教室に戻ったらその分のお金を小鳥遊に渡せばいっか。


 購買に行く途中の階段で小鳥遊が話しかけてきた。


「そういや、お前なんで東雲先輩と仲良いの?」

「色々あったんだよ」

「お前まさか……ヤッタのか!?」

「いやごめん。言い方が悪かった。別にヤッテないからな」

「だよな。お前が東雲先輩とヤレるわけないもんな。じゃあどこで仲良くなったんだよ?」


 歩きながら昨日の出来事を小鳥遊に説明した。先輩と僕がどうやって出会ったのか、なぜ自分の教室に先輩がやって来たのかを。事細かに小鳥遊に説明した。


◆◇◆◇


「はぇ〜そんなことがあったのか」


 説明を終えたタイミングで購買に着いた。  

 小鳥遊は納得した表情を浮かべている。


「まぁ頑張れや! 俺は陰ながら応援してるゼ! 結婚式は必ず呼べよ!」


 なんだコイツ。いい奴だ。もっとツッコんで来るのかと思ったがそうではなく、応援された。というかコイツさっきから上機嫌だけど、やっぱなんかあったんだな。


「お前さっきから上機嫌だけど、どしたの?」

「あ〜聞いちゃうのか、知りたいなら教えてやろう」


 小鳥遊は頭の後ろで手を組んで、ニヤニヤとさっきよりも幸せそうな顔でこちらを見てきた。


「実はな、ナリタが東雲先輩に連行された後に1年C組に行ってみたら偶々、美麗ちゃんがいて偶々、美麗ちゃんと一緒にご飯を食べたんだよ」


 1年C組は美麗のクラスだ。コイツは偶々とか言ってるが確実に自分からご飯を誘いに行ったんだ。あれだ、僕が東雲先輩とご飯を一緒にしたから羨ましかったんだ。

 コイツも隅に置けないな。


「ああ、良かったね」

「あれ? なんか反応薄くない? 関西のうどんくらい薄くない?」

「いやだって、僕が東雲先輩に連れられてるときお前教室を爆速で出てったじゃん。怪しいと思ったんだよ」

「んだよ、見てたのかよ。うわー見られてたか」


 なんだコイツのこのわざとらしい態度はクソうぜえ。あとさっきから上機嫌な理由もなんとなく分かった。とりあえず今日帰ったら美麗にどんなこと話したのか聞いてみよ。


 小鳥遊と会話しながら購買の右奥にある自販機の前まで来た。


「成田は何飲む? 俺はコーラでいいや」

「小鳥遊のと同じのでいいや」


 小鳥遊は財布から小銭を取り出して、自販機に入れコーラを買った。中腰になって自販機の取り出し口からコーラを取り出した。


「お前買わないの?」


 小鳥遊が僕を「コイツ何してんの?」見たいな顔で見てくる。


「ああ、買うよ」

「……じゃあ早く買えよ」

「おん、だから買うんだよ」

「お前金ないの?」

「教室」

「しゃあね、教室戻ったらちゃんと返せよ」


 小鳥遊は自分の財布からまた小銭を取り出して、コイン投入口にお金を入れてくれた。


 僕はコーラのボタンを押して、自販機の取り出し口から取り出した。


「マジ、ありがたい。サンキューだわ」

「美麗ちゃんにこのこと伝えとけよ」


ーーキーンコーンカーンコーン


 昼休み終了5分前を告げる鐘が鳴る。通称「アポかリプティックサウンド」と呼ばれている。ここの学生が一番と言っていいほど聞きたくない鐘の音だ。隣にいる小鳥遊もまるでこの世の終わりのような顔をしている。


 僕と小鳥遊は駆け足で購買から出て、教室に向かった。階段は一段飛ばしで駆け上がり、廊下を高齢者ドライバーの如く爆走した。自分の教室は購買から一番離れた所にあるからこれくらいしないと授業に出遅れる。


「ハァハァハァ……」


 なんとか時間内に教室に戻ることができた。授業開始まであと、3分残っている。隣の席からプシュという音が聞こえた。小鳥遊がコーラを開けようとしている。


「マズイ!! 小鳥遊!! コーラを開けるな!!」


 小鳥遊はすぐさまコーラ飲みキャップを反対側に回し、コーラが吹きこぼれないように抑えた。


「俺はプロなんだこれくらい余裕だよ」

「なんだよ、ぶち撒けろよ」

「残念だったな俺はそんな……ワブッ……」


 小鳥遊がコーラの蓋を開けた瞬間、中からコーラが逆噴射しだした。小鳥遊の顔面と机はコーラでべとべとになった。幸い、中の3分の1程度の量しか出てない。


「うわっ、最悪だ。鼻の中にコーラが入りやがった」

「調子に乗るからだよ。もう少し待ってればよかったのにな。今東雲先輩呼んでくるからちょっと待ってろ」

「なんで東雲先輩なんだよ? 普通に教室の前にあるペーパーで拭けばいいだろ。お前もしかして、好きになっちまったのか?」

「いや、好きかどうかは知らない。今ペーパー取ってくる」


 あれ?

なんで今、東雲先輩を呼びに行こうとしていたんだろう?


 教室の前にあるペーパーを取りに行こうとしたとき、ちょうど英語の教員が教室に入ってきた。


「お前ら何してんの?」

「コーラ溢しました」


 小鳥遊がちょっとヘラヘラとした感じで答えた。


「はぁ……早く拭けよ。授業始めるぞ」

「うい」


 授業開始のチャイムが教室に鳴り響く。

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君の魔法と僕の世界 咲桜 炸朔 @sakisakusak_sak3

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