第三章 ビーストフレンズ!〜ようこそ獣人の国へ〜【高難易度クエスト】
第48話 新章開幕
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《ジェネシス・ワールド》
第一部『獣たちの狂乱』編
第三章「ビーストフレンズ!〜ようこそ獣人の国へ〜」
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強い光に包まれた俺は、強烈な浮遊感に襲われ続けていた。
この感じ2回目だ。
以前、シズクの絆クエストに挑戦するために、ゲートを潜った時と酷似している。
天地の感覚は失われ、どこまでも落ちていくような感じだ。
だが以前よりずっと強烈で、意識が朦朧とし始めるぐらい長かった。
絆イベントの時は、無の空間に造られた神社へと転移したが、今回はどこに転移させられるのだろう?
「う……ッ!?」
光の奔流が収まり、俺の足が地面の感触を捉えると、束の間の目眩に襲われた。
強い光に晒された影響で視力がまだ回復しきっていないが、広い室内にいる事がわかった。
たくさんの人の気配と物音を感じる。
「おお……! 今回も召喚に成功したぞ!! しかも九人同時とは! さすが獣王騎士団の魔術士よ!」
「これでネクロマンサーの脅威を退けられる!」
「希望が見えましたな! 異世界の勇者には何と礼を尽くせば良いか……!」
「皆の者! 勇者殿に失礼のないように!」
耳慣れない単語と慌ただしい足音が飛び交う。
老若男女が入り混じった、浮ついた雰囲気。
そして困惑した様な声も聞こえてきた。
「んだぁ、うっせぇな」
「ちょっと何よこれ、私さっきまで渋谷に居たわよね!?」
「やっぱあの通知は運営の罠だったのか?」
「うぅ、気持ち悪い……一体なんですか、これ」
俺の他にも同じ様に突然転移させられた人が数名はいるらしい。
視界が徐々に回復してくると、ようやく周囲の状況を確認できた。
俺が立っていたのは、王城の大広間のような場所だった。
広大な堂内には、玉座へと続く赤い絨毯や背後の巨大な鉄扉。
高い天井を支える柱は豪華で煌びやかな装飾が施されている。
西洋風の王城にある玉座の間の様な場所だった。
俺のすぐ隣には、俺と同じ様に周囲をキョロキョロと見渡す八人の男女がいた。
そんな俺たちを囲む様に、黒装束の集団が輪を作って佇んでいた。
全員フードで顔を隠しており、表情や年齢は窺い知れない。
更にその奥には、鎧を着て整列する大勢の騎士達。
「なっ!?」
その騎士たちを見て、俺は絶句してしまった。
こちらに静かな視線を向ける騎士達は、頭に角が生えた者やら、体毛が生えた者やら様々で、全員が人間離れした獣の風貌だった。
「じゅ、獣人だ……」
「異世界の勇者諸君、ようこそ我が獣王国へ! 余はこの国を治る3代目国王、レオン・グランドラ・エルドラゴⅢ世だ」
黒装束の集団がさっと左右に分かれると、玉座に鎮座する獅子の大男が現れた。
その頭には黄金の王冠が載っており、立派な獅子のたてがみも合間って、高貴さと威厳を放っている。
「まずは落ち着いて欲しい。そして是非とも余の話を聞いて欲しい!」
自らを王と名乗った獣人の男は、玉座から立ち上がり声を張り上げる。
「突然の事で驚いている事だろう。勇者諸君には申し訳なく思うが、我が国は今滅亡の危機に瀕しておる。その為、召喚魔術によって異世界の勇者を呼ばざるを得なかったのだ!」
「はぁ? 一体何言ってんだ? てかここは何処だよ」
「おいおい、今度は何がおっ始まるんだ?」
「こ、ここは日本じゃないってこと……?」
「ようやくエリアボスを全部倒したってのに……次は獣人が出てくるなんて……」
俺と同じ様に召喚された男女数人が、口々に困惑した声を上げ始めた。
困惑するのも当然だろう。俺だって驚いている。
けれど、状況が少しだけ飲み込めてきた。
俺はどうやら、剣と魔法が元から存在する異世界に転移してしまったらしい。
それも恐らくは獣人の国。
シズクやノアのいた世界とはまた別の世界だ。
一体、異世界はいくつ存在してるんだ?
「ふむ……反応は芳しくないようだな……」
すると玉座の横にいた豚の獣人が前に出た。
「国王陛下が申した通り、突然の事で混乱も大きいだろう! だがしかし! 今は一刻の猶予もない!」
玉座に座る王を庇うように前に立つと、突然床に膝をついた。
「どうか我が国をお救いください! 異世界の勇者様!!」
俺たちを取り囲んでいた黒装束の集団も一斉に跪く。
だが──
「はぁ!? ふざけんじゃないわよ! 何が勇者よ! さっきから勝手な事言ってないで、早く日本に返しなさい!」
どこかの高校の制服を着た金髪の女性が抗議の声を張り上げて、周囲を威圧する。
「き、貴様! 王の御前でなんたる殺気を……!」
周囲で静観していた騎士達が一斉に剣の柄に手をかけ、躊躇いなく引き抜いた。
そのまま王を守る様に立ちはだかり、玉座の間は一瞬にして緊迫した空気に包まれる。
今にも斬りかかってきそうな騎士達の殺気に、俺は思わず三叉槍を構えた。
ギャルの女はと言うと、殺気の籠もった集団に物怖じもせずに、鋭い眼光を向けていた。
他の7名も一触即発の雰囲気に、即座に臨戦態勢に入っていた。
「マスター、気をつけて下さい……」
そんな中、シズクの囁き声が聞こえる。
良かった。どうやらシズクも俺と一緒に転移していたらしい。
「気をつけてって……騎士の格好してるけど、やっぱり強いの?」
「はい、彼ら全員が実力者です。少なくとも、エリアボス並みには強いかと……それに、エリア13のボスに匹敵する者も何名か存在します」
ま、マジか……騎士は少なく見積もっても百人以上はいる。
隣で戦闘態勢に入るギャル達もかなりの実力者だと分かるが、このままでは確実に負けるだろう。
「それと……」
「それと?」
「マスターよりも強い人物が一人、ここへ近づいて来ています」
「ますます勝ち目は薄いか……」
「敵意は感じないのですが……気をつけて下さい。もう直ぐここへ到着します」
「分かった、ありがとう」
俺たちがそんなやり取りをしていると、
「剣を収めよ、無礼者ッ!!」
王は騎士達に向かって吼え猛り、一喝した。
「余の客人に無礼な態度を取る事は許さん!」
「し、しかし陛下……」
「くどい! もう良い下がれッ!!」
王の命令に騎士達は素直に従った。
そして俺たちに向き直った王は、冷静さを取り戻していた。
「申し訳ない……余とて勇者諸君の気持ちは分からぬでもないのだ。突然知らぬ世界に連れてこられて、混乱しておる事だろう。憤慨するのも無理からぬ。しかし我々にももう後がないのだ。その力で、どうか余の国、余の民を救って欲しい!」
玉座から離れたレオン王は、床に膝をつくと深々と頭を垂れた。
「「「なっ!?」」」
その光景に周囲の騎士たちが驚愕の顔を浮かべる。
「んな事言われてもよ、知らねえ世界の知らねえ命を助ける義理なんざ、コッチにはねえんだよ」
「そうよ。ようやくエリアボスを全部倒したってのに、今度は別の世界を救えですって?」
「うーん。とはいえ、これもゲームの一部なら、僕らに選択肢はないんじゃないでしょうか?」
「こ、CWに新しい章が追加されてる……」
その言葉にCWを開くと、確かに第三章の文字が新たに増えていた。
「つまり今回は、僕たちだけで第三章をクリアしろと言う事ですかね?」
「てか、アンタらは誰だよ」
「ああ、すみません。僕は水梨宗介と言います。さっきまで熊本にいました」
「なんだ、同じ日本人か」
水梨宗介……何処かで聞き覚えのある名前だ。
そんな俺たちのやり取りを見て、王は困惑した様に小さく喉を鳴らす。
「ガルル……困ったものだ、一週間前に召喚した勇者は協力的だったというのに……」
「一週間前?」
俺たちの他に、先に転移した者がいるのだろうか?
王の言葉を疑問に思っていると、突然後ろの大扉が開かれ、玉座の間に一人の女性が入って来た。
振り返り、不意の登場者に視線を向ける。
神通力がなくとも直ぐに分かった。
この人物がシズクの言っていた俺よりも強いという人だ。
20代前半ぐらいの長身の女性。
腰まで届く長い髪を靡かせて、涼しげな表情でこちらへ歩み寄ってくる。
軍服のような黒い上着に、膝下まで伸びる長いスカート。
女性が放つ凛とした雰囲気と強者特有のオーラが、この場にいる全員を圧倒していた。
彼女は、角も体毛も存在しない普通の人間に見えるが、普通では無いところが一つだけあった。
彼女には、右肩から先が欠けていた。
隻腕の女剣士──そんな言葉が、自然と頭をよぎる。
「おお! 今戻ったか、シノノメ卿! 同じ異世界の勇者として、卿からも彼等を説得してはくれぬか!」
その言葉は突然の事だったらしく、女性の顔には疑問の色が浮かんでいた。
「ん? 私は東雲咲夜…………君たちは?」
初回10連ガチャで全ての運を使い果たした俺は最強になれますか? 緒方 悠 @ogata_you
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