第118話 逃亡
「よう、また会ったな。仕方がねぇから助けてやるよ」
「なんでレジスタンスが僕らを」
「兄貴に頼まれたからな。お前らに会ったらよろしくってよ」
「兄さんがいたんだ」
「実の兄弟ってんじゃないけどよ。俺が勝手に、そう呼んでる兄貴分の人だよ」
一応はレジスタンスを名乗っている一団『鉄の蠍』
組織の一部隊ではあるが、部隊長の気まぐれが優先される集団だった。
チンピラかゴロツキのような集団を、力で纏めるのが彼、ニコラだった。
そんな彼が、ニロたちを助けると言う。
人としては信用ならないが、その強さは信頼できるものだった。
そんな強さを信望するようなニコラだが、大陸一の強さという野望は諦めていた。
一人の男との出会いが、彼に、それを諦めさせていた。
ある町で出会った、強そうなおっさん。
暇潰しに手を出しただけだった。
軽く遊ぶつもりで、手を出してしまった。
結果、手も足も出ずに、殴り倒された。
ついでにと、ツレの少年にも負けた。
細身の青年にも――魔法使いのようだったのに――腕力で無様に負けた。
何故か少女にさえ、真向から殴り倒された。
もう一人のツレ、獣人の幼女の相手は、頭を下げて許して貰った。
心を折られたニコラは、おっさんをアニキと呼ぶ事にした。
「いやぁ、バケモンみてえな連中だったぜ」
ニコラはそう述懐するが、化物どころではなかった。
女神と異界の勇者と魔王だったとは、流石に考えもしなかった。
鉄の蠍なら、騎士団が相手でも戦えるだろう。
そう判断して、ニロは任せる事にした。
ノトスとゴモラにも、レジスタンスだと告げる。
すぐにも町から逃げ出そうとするが、暴走魔女が暴走していた。
「コリララシ滾る血よ、スイニハラスソイ猛き力を運べ……
女神直伝の強化魔法が、限界までネアを強化する。
使えば反動で、しばらくは動けなくなる程の強化を、躊躇なく使用する。
鞭を持った女が、ニヤリと嬉しそうに嗤った。
「いいね! 切り刻んであげるよぉ!」
逃げる気のない少女に、カミラが吠える。
ネアの全身に魔力が行き渡る。
魔法使いの少女が、棍を持ち、鞭女に飛び掛かった。
棍の中央を両手で持ち、両端を交互に振り、器用に鞭の先端をはじく。
もう人間技ではないが、魔力で身体強化をしたネアと、互角な女も恐ろしい。
互いの姿が視界に入った途端に、臨戦態勢になった二人。
言葉を交わす余裕もなく、互いの頭に浮かんだのは『敵』の一文字だった。
何故か戦闘を開始するネアと、鉄蠍のカミラ。
ネアは一息に、鞭の間合いの内側へ踏み込む。
振り下ろされる棍の右端を、カミラは左腕で、素手で受ける。
反す左の棍がカミラの顔、アゴへ迫る。
流石のカミラも、防御が間に合わない。
反応できない筈の一撃に、意地だけで無理矢理対応する。
青筋の浮かぶ首を、根性で捻るカミラ。
鬼の形相で気合一閃。
「ふんっ!」
なんと顔面で棍を受け、弾き返した。
逆にバランスを崩すネア。
共に踏みとどまり、睨み合う。
渾身の一撃が、顔面に入ったのに倒せない。
表情にこそださなかったが、ネアは内心動揺していた。
自分が後衛の魔法使いだという事も、綺麗に忘れて。
カミラの側頭部から、一筋の血が垂れる。
それを舌で舐めとり、ニヤリと妖艶に嗤った。
そのカミラの後ろ頭を、パシリと
「何やってんだよ。敵は向こうだ」
「あう……ごめんよニコラ……つい……ね?」
狂気の戦闘体勢だったカミラだが、ニコラを見ただけで元に戻っていた。
ニコラに謝りながら、笑ってごまかそうとしていた。
ネアもニロが止める。
「そっちは敵じゃないよ……今日はね」
「う……ごめんニロ……つい……ね?」
笑って誤魔化すネアの魔法が解ける。
「すまんな」
「こちらこそ、なんか暴走しちゃったみたいで」
「構わねぇよ、気にすんな。そっちの姉ちゃんもやるなぁ」
「こっちは無理してるだけだから」
「ニロっ、鳥もヤバそうだ」
ノトスの警告に空を見上げると、巨鳥が旋回していた。
まるで地表の獲物を見定めているかのように。
「騎士団は任せて、早いとこ逃げよう」
半笑いのまま
「今日のところは借りとくよ」
「ははっ、礼なら兄貴に言ってくれ」
こぶしを軽く合わせ、ニロとニコラが背を向けた。
「行こう。全部あいつらに丸投げだ」
ニロが仲間と走り出す。
「どうせテロリストだしな」
騎士団と巨鳥を相手に、どうなろうと構わないだろうとノトス。
「まったく。こんな時に無茶すんなよネア」
背中で動けないネアに声を掛け、ゴモラも駆け出した。
「よぉし、やるぞぉ! てめぇら気合入れろぉ!」
「「おぉー!」」
ニコラの号令に、チンピラ共の怒号があがる。
騎士団を配下の戦士に任せ、ニコラは空を仰いだ。
「俺達はこっちだな。まずはアレを墜とすぞカミラ」
「任せてニコラ。鳥相手に無様は見せないよ」
改めて追われる者と自覚するニロ。
魔王を目指して西へ。
少年を守ろうと、決死の覚悟でついていく三人だった。
「まいったな……逃げそびれたぞ」
激戦の中、一人取り残された青年が呟く。
言葉ほど、困ってもいなさそうなゲルトだった。
蒼髪の青年は、何者なのだろうか。
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