第3話

「いやー、ブッコローちゃんお家に奥さんと子供待たせてるからさ、そろそろお家帰ろ」

「やだ」


競馬場が初めてだというのでしばらく見て回るのに付き合っていたが、そろそろ閉門時間が迫っていた。


「じゃあLINE教えてよ」

「LINEは……交換すんのは一旦Pに相談してからだなやっぱり」


帰るまでにきゅんってしたら教えてくれるっていったのにさぁしなかったってことじゃん、とバッグについたブッコローキーホルダーを両手で握りしめ、俯きながら拗ねる姿を見るとなんだか悪いことをしたような気持ちになるが、やはり独断では結論が出せずPに聞けばもちろんNGが出るに決まっているのでどうしようもできなかった。


「あなたみたいな若くて可愛い女の子がさ、おじさん……のミミズクに夢中になってたら勿体ないよ。あと僕は友達としてはいいかも知れないけど男性としては、」

「ヒドイ男?」

「え、あ、うん……そう」

「それ前YouTubeで女の子に断る時良く言うセリフって言ってた」

「……よくYouTube見てくれてありがとねェ……」


お決まりのセリフも決まらずどうしようかと思っていると、


「あのね」


小さい声で友崎さんが呟く。


「ん?」

「いつも話が面白いし、物知りだし……あとズバズバ言ってるように見えてその前後でちゃんとフォロー入れてたり、相手が本当に嫌なこととか傷つくことは言わないように結構気を使ってるとことか。相手がいっぱいしゃべる人のときは聞き役になってくれたりとか、岡崎さんにも前にインクプレゼントしてたりとかね、そいういうね、知的だし優しいとこがね、」


一歩近付いて、内緒話をするように口元で手を丸め、更に小さい声で


「すきです」


そう囁いた。

何か言おうと口を開いた瞬間、


「今日はもう帰るね、じゃあね!あ、競馬場に来るときはオレンジ色の……装いは目立つからやめたほうがいいよ。他にも色々、ファンにはすぐ分かっちゃうんだから!オタクの観察力舐めちゃダメ」


そう言いながら、ぴょこぴょこと走り出す。



出口の方にかけていく友崎さんの後ろ姿が見えなくなるまで眺めていると、持っていたスマホが震えた。着信画面にはPの名前が出ていた。なんてタイミングだよと思いながら電話に出る。


「あ、お疲れ様ですー。今大丈夫?」

「ハイハイ」

「……」

「何?」

「いや、……今日なんかいいことありました?」

「……俺さァ、絶対Pだけは的に回したくないよ」

「なんで?」


察しの良過ぎる優秀なプロデューサーの恐ろしさに内心舌を巻きながら、今後も絶対にやましいことはしないと心に誓った。……絶対、多分、可能な限り。

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競馬場で女子大生を拾ったら。 めいゆ @meiyu_0v0b

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