第2話
「ブッコローちゃんも競馬で間違えることとかあるんだね」
「いや、人生で初めてよこんなの」
レース後、場内のテーブルスペースでラーメンをすすりながら、先程出会ったばかりの女子大生・友崎(ともさき)さんが呟く。
「ちゃんと本命買えてたら68000円手に入ったんでしょ?めっちゃ勿体ないじゃん」
「いや、まァ〜ブッコローちゃんはね、お金が欲しくて競馬やってるんじゃないのよ。ギャンブルとして楽しんだ上で、それでお金も手に入ったらっていう、」
「どっちにしてもマークミスしちゃったらお金は手に入らないよ」
「……ハイ」
自分を慰める言い訳もさせてもらえず、仕方なくもそもそとチャーシューを食べる。
本命を軸にして3連複で手広く買っていた……つもりの馬券は、まさかのマークシートの塗り間違えにより別の馬を軸に購入してしまっていたのだ。たしかに残念ではあるのだが、
「というか、なァんでこんなことになってんの……?」
「?」
隣できょとんとしている女子大生は、つい1時間前に出会ったばかりで、ブッコローとLINEを交換するために競馬場まで来ていて、あわよくばどうにかなりたいという下心があって、いつの間にか友達のようなノリで話しながら、今隣で一緒にチャーシューワンタンメンを食べている。ブッコローのおごりで。
「女子大生のコミュ力、バケモンすぎるって」
ラーメンを完食し、なんか餃子も食べたくなってきたなぁ とのんびりひとりごちる彼女を横目に眺める。適当に振り切ることもできずとりあえずラーメンで間をつないでみたが、これからどうすればいいのか。
「え、わかった!じゃあ今日帰るまでに、一回でも私にきゅんってしたらLINE教えるっていうのどう?どうですか?」
「何がわかったのかは全然わからなかったけどLINEは交換したいしその提案がもう既に良いよ」
ニコニコしながら、よーしたくさんきゅんってさせるぞー と意気込む友崎さん。こっちだって女子大生にそんなこと言われたら満更でもないし。LINEなんて当然交換したいが。やはりここはPの顔が脳裏にチラついてしまう。
「一応ねェー、うちのPに止められてんだよね……バレたら怒られそうだしなァ……」
「大丈夫大丈夫、バレないよ。私言わないもん」
「ほんとにィ…?」
「めっちゃ口固いから安心して!心理学の笹岡先生が中世史の波川先生とデキてるのとかも誰にも言ってないし」
「エッ?」
「あ、うちの大学の先生なんだけどね、この前教授室でキスしてんの見ちゃったんだよね。ヤバくない?大学で愛育む?普通」
「そーれは良くない、良くないよ!神聖な学び舎でなんてことしてんだろうね、ホント!ちょっと羨ましい」
「これみんなに言っちゃったら先生たち終わりだなと思って、だから誰にも言ってないの。ね、口固いでしょ?」
「今バリバリ話しちゃってるけどこれは大丈夫というカウントなの?」
そう聞くと、くりっとした目を少し見開いたあと考えるような仕草をしたあと、こちらに無言でニコッと笑いかけソフトクリームの売店の方にぴょこぴょこと飛び跳ねるようにかけていく。
とりあえず変なことは口走らないように気をつけるか、ミミズクだし。"くちばし"だけに……、とYouTubeの時のクセで一人心の中で上手いことを呟きながら、モカソフトを受け取る友崎さんの後ろ姿を眺めた。
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