競馬場で女子大生を拾ったら。

めいゆ

第1話

「そんなことあります……?!」


今日僕は競馬場で、バッグにブッコローキーホルダーをつけた女子大生に身バレした。





"毎年荒れる重賞"として有名な、フェアリーステークス。3歳の牝馬が競うこのレースのため、ブッコローは1人競馬場にやってきた。


中山競馬場で平日以外に行われる年明け一発目のレースということもあり、いつもより混み合っている。


(とりあえずメイクアスナッチ、10番から流して3連複かなァ……)


パドックの馬たちの様子を眺めながら心の中で呟き、握り締めた新聞で目星をつけてきた馬番を確認しながら青のカードをちまちまと鉛筆で塗り潰していく。


ふっと顔を上げたその時、視界の右端にちらりと明るいオレンジ色が映った。


(……!)


数メートル先、人混みからやや離れた場所にぽつんと立っている、多分成人はしていそうな雰囲気の女の子。胸元まで伸びた黒髪はゆるく巻かれていて、膝丈のだぼっとした薄いピンク色のパーカーに黒いタイツの出で立ちから大学生くらいに見える。

そしてペットボトルを一本入れたらもうフタが閉まらなくなりそうな小ぶりの黒いバッグを身体の前で斜めがけにしており、そのバッグに吊るされてブラブラと揺れているオレンジ色の丸い物体は、


(ブッコローのキーホルダーじゃん……!!)


この距離でも分かる色とフォルムはどこからどう見ても、そうだった。

グッズを身につけてくれているゆーりんちー、いつかは会いたいと思っていたがまさか競馬場で出会うとは思ってもみなかった。


(は、話しかけてェ〜〜!)


脳内に現れたPが即座に「ダメダメ、こっちから声かけるのは絶対ダメです」と怖い顔で言ってくるが、一旦無視して考える。初めて街中で出会ったブッコローグッズを身につけてくれているファン、これはさすがに声をかけたい。


(どうしよ……いや、まぁ、1人目くらいは良くない……?ダメ?ダメかなァやっぱり……でもなァ……Pにバレなきゃ大丈夫か……?)


1人脳内会議をしながら悶々としていると、ふと女の子と目があった。一瞬大きく目を見開き、大股でこちらに近づいてくる。


(エッ?)


動揺している間に目の前までたどり着いた女の子がこちらに顔を近づけてくる。


「あの……!」

「っへぁ」


あぁ、心の準備ができてなさすぎて変な声出ちゃった、と思うこちらを全く気にする様子もなく女の子は食い気味に話し続ける。


「あの、違ったらすみません。

もしかして……ブッコローさんですか?」

「!?」


どうして分かったの?とも、そう……いや違うよ とも言う隙も与えてもらえず、


「ブッコローさんですよね?今日ブッコローさんに会うためにここまで来たんです!キモいことしてごめんなさい、でもどうしても会いたくて!あの、あ、私友崎(ともさき)っていうんですけど!あの、私と……私とLINE交換してください!友達になって欲しいです、下心ある方の!」


「いや、そ……そんなことあります……?!」


真っ直ぐにこちらも見ながらとんでもないことを言い出した彼女を前に、"毎年荒れる重賞"でレース以外も荒れ模様だなぁじゃないのよ、とぼんやり思いながらそう叫んだ。

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