なにかと息苦しさの多い社会。競争が生む、優越感と劣等感。決められたレールから外れることに対する恐怖。それは今に始まったことではなく、数千年前からの社会の構造であって。主人公の八重子は、ひょんなことからある男と出会う。彼は時代の流れに取り残された濃い藪の中で暮らし、自分だけの時間を謳歌していた。そんな彼との出会いが、八重子の心の奥底で眠っていたものに明かりを灯す。
人生のエッセンスが沁み込んでおり、永遠の命題への一つの答えを出してくれる良短編でした。物語に込められたメッセージにも深みがあり、読んでいると心の靄が払われるような感覚になりました。特に中盤から終盤にかけての話は含蓄があり、二度三度と読み返しました。多くの方に読んでほしい作品です。埋もれているのが惜しい。
文章もドライな雰囲気があり、作品に漂う独特な空気を上手く演出されていました。特に台詞は、非常に注力されたのではないかと思います。人生に空虚さを感じている方、選択を迫られている方に読んでほしい。きっと、自分なりの答えを得られるはずです。