第5話 説明
クリックすると同時に再生される動画。空の背景から、デフォルメされた天使がシャラララんッと飛んできた。可愛らしい絵柄で書かれた、ニコニコと目を三日月型にして笑う天使。
アニメーション動画か。昔のフラッシュ画像を思い出させるようなちゃちい作りのアニメーション。軽快なBGMとともに、可愛らしい天使が喋りだした。
《はじめまして、この度はエンゼルプレゼンテーション参加してくださり、ありがとうございます》
ぎこちない動きで、一礼した天使。明らかに素人が作ったクオリティだ。また、天使の声もよくある幼稚園児用のアニメみたいな、わざとらしい明るさのあるもので、少しばかりバカにされてる気持ちだ。
《さあ、今からエンゼルプレゼンテーションについてお話するから、よく聞いててね》
馴れ馴れしい台詞を言う天使の後ろから、大きな紙芝居がどどんと登場する。よっぽどこの光景のほうが、
その紙芝居タイトルには、案の定『エンゼルプレゼンテーションとは』と有りがちなタイトルで書かれていた。
《まず、このエンゼルプレゼンテーションは、君が参加するテレビ番組の名前ってのは知ってるよね。じゃあ、どういう意味かわかるかな?》
まさに、小さい頃に見た教育番組を思い出させる問いかけ。児童養護施設でイヤというほど見たそれは、俺にとってはうんざりするもの。
《エンゼルプレゼンテーションは、その名の通り、貴方たちをジャッジする審査員ことエンゼルに、プレゼンテーションする番組なんだ》
天使の説明に合わせて、後ろの紙芝居がすーっと変わる。紙芝居の絵には、三人の玉座に座る天使たちと、立って忙しなく動いてるような羊のイラスト。
この羊が俺の立ち位置なのだろう、それは直感でわかった。
《その大テーマは全て『自分の死の価値』に纏わる内容だよ》
また紙芝居がスーッと変わり、赤字で強調された文字が現れる。
大テーマ:『自分の死の価値について』。
《何でこのテーマかって? 気になるよね》
ニコニコと笑う天使は、その重苦しいテーマとは正反対に明るく話を続ける。
《それはね、この世界は生きていても『お金』が必要だし、死ぬ時にも『お金』が必要だからなんだ》
俺は静かに天使の言葉に頷いた。
《そのせいで簡単には『死ねない』、安易に『死んだら』、残してきた家族に迷惑がかかるほどの『お金』が必要なっちゃうかも》
酷く、重く、響く、言葉。
画面に映る天使が、背中からアタッシュケースを出す。そして、よくアニメで見るように、アタッシュケースの蓋を開け、中にある札束を見せた。
《そう、この世の生死は『お金』で成り立ってるんだ。勿論、貴方の死も、この『お金』の上で成り立ってるんだ》
ああ、そうだ。人間が支配していたはずのお金が、人間の価値を超えてきている。生死の尊厳すらも、金に左右される時代になってしまったのだ。
《ということは、お金がない貧乏人の皆は、自由に死ぬことすら出来ないってこと。困っちゃうよね》
紙芝居がスーッと変わり、ボロボロな羊が首を吊ろうとするイラストが表示される。すると、天使が「ブッブー」と言いながら、その絵に赤いペンキでバッテンを描いた。
まるでいつか、首を吊ろうとして諦めた自分が羊に重なり、椅子を蹴れず、泣きながら床へと転げ落ちた自分を思い出す。
なんて言えばいいか、わからない。でも、その時の自分を、天使によって否定された気がした。
えげつないことをしても、天使の明るい声色、ニコニコ笑う表情は変わらない。それが妙に気持ち悪い何かを孕んでいる。
《でも、そんな悩みを解決するのが、この番組なんだよ!》
大きく明るく響く天使の声。ドンッという効果音と共に天使が、星のステッキを取り出して、くるりくるりと回転する。
《『エンゼルプレゼンテーション』では、あなたの『死』を『お金』へと換えチェーンジ! 凄いよね、お金のかかるはずの『死ぬだけ』だったのがお金がもらえちゃうんだから! しかも、
えげつない台詞のBGMには、なんと素敵な
《この番組では、十四人の『死んで』お金のほしい哀れな子羊ちゃんたちが参加するよ。君もその子羊ちゃんの一人だね》
画面越しにいる俺を星のステッキで示す天使。アラフォーに差し掛かってる男が、子羊と言われ、しかもアニメーションの天使に怯えている。ふるふると止まらない震えをぐっと抑えて、俺は続きを見る。
《番組は各話ごとに、テーマとプレゼンルールに沿って、課題クリアに挑むことになるんだ》
言葉に合わせて、紙芝居の絵がくるくると変わっていく。子羊がどうやら何かを話している絵、天使たちは聞いめ悩む絵、最終的に羊を二匹選んでる絵。
《各話ごとに、最優秀の子羊と、最下位の子羊を選ぶんだ》
紙芝居がスーッとかわり、頭に金色のいばらの冠を着ける羊と、しくしく泣く羊。
なんとも対象的な絵であり、これが俺の未来の姿なのだろう。
《最優秀の子羊は、最優秀になった回数分、最下位になった時回避できるチャンスが与えられる。勿論、チャンス使わない場合は、別のボーナスに帰れる。それが、何かはまだ、ヒ・ミ・ツ》
天使は金色のいばらの冠をまた背中から取り出す。キラキラ光るいばらの冠を見せ、ゆっくりと背中に仕舞う。
《逆に最下位の子はそこで、チャレンジ終了。『天国への階段』を登ってもらうんだ》
え、『天国への階段』?
最近聞いた単語に、俺は傾げる。動画の紙芝居では、羊が一匹天国へと登っていく絵が表示されていた。
《階段の先で、話数ボーナスと、エンゼルからの慈悲により、初めて自分の『死の価値』が算出されるよ》
相変わらず変わらないトーンの天使だが、それに反して、俺の心臓はドクッと強く跳ねる。
《そして、金額を提示された後、子羊には今回国で認可の降りた安楽死用配合剤『
紙芝居で書かれた説明の文字。書かれた英語の意味はわかるようで分からないが、ようは『天国への階段』という名前の薬を飲むことになるということだ。
そして、紙芝居は変わり、羊は十万五千円という値段を見た後、その薬を飲み死んだ絵が展開された。
これが、俺が目指すゴール。どういう風な副作用があるのか、楽に死ねるのか。気になることは沢山あるのに、死に方はすらっと終わってしまう。
《ちなみに、皆気になるのは金額だよね〜金額は、まず、話数ボーナス。話数ごとに一桁ずつ上がっていくからね》
俺が気になるのは金額ではない。しかし、天使は無慈悲なのだろう、紙芝居は次のお金の話になり、仮と書かれた金額一覧表表示される。
話数ボーナスは、最初の一話目は百円スタートで、最終的には一億円にまで跳ね上がる。これはなかなかな金額差だ。
たしかに、死にたいとしても、『自分の死』が
《あと、エンゼルからの慈悲はやっぱりエンタメだからね、エンゼルの注目度ってのも大事だから、しっかりエンゼルたちに媚びてね! ちなみに、どんなものかは始まってからのお楽しみ!》
そして、もう一つの慈悲というものに関してもまた謎らしい。仕方ない、エンターテインメントというものはそうなのかもしれない。
《一旦、説明は以上だよ。最後まで、聞いてくれてありがとう!では、また会える日までバーイバイ!》
天使は手を振った後、謎の犬と共に去っていき、動画の画面の動きが止まった。意外と長かった動画も終わりかと、動画を閉じようとマウスを動かそうとした時だった。
《これより、エンゼルプレゼンテーション。最初のプレゼンルール教えるね。事前準備が必要だから、覚悟して聞いてね》
犬と共に戻ってきた天使に、俺は動きを止めた。天使は先程と相変わらずニコニコ笑っていた。
《最初のルールは、『ゲーム説明と書類審査』。君には、参加するために必要な人生の履歴書を書いてもらうよ。スタッフに『履歴書をください』と頼んでね。じゃあね〜!》
人生の履歴書。なんだそれは、と俺は目を見開いた。しかし、天使は今度こそ犬と共に去っていき、動画が停止した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます