6

『ん…』


「ヒカル…!大丈夫?」


『…叶人…』


「良かった…もう、このまま起きないかと思った……」




俺が叶人に話したことは、何も全てが嘘ではない。




叶人の家族が、交通事故に遭ったというのは本当。


でも、その事故で両親が死んだというのは嘘だ。


叶人の親は二人とも死んじゃいないし、勿論、叶人自身だって生きている。




叶人が、歩く力と記憶を失ったというのは本当。


でも、失ったのはそれだけじゃない。


叶人は、現実さえも失ってしまった。






叶人の親は、昔から叶人を愛していない。


幼い頃は暴力をふるい、成長してからは、存在を無視し、養育の全てを放棄していた。




俺は、あいつらから叶人を守りたかった。


それが、いつしか愛したいという想いに変わった。




その頃には、叶人の心はもう壊れてしまっていて、叶人はいつも、死ぬことしか考えていなかった。


そんな時、タイミング良くあの事故が起きて、叶人は、一生目を覚ますことの出来ない体になってしまった。






病室で眠る叶人の前で、あの女はこう言った。




【もういらないのに】




『だったら俺が貰ってやる』




そう言ってやったけど、あの女には聞こえていなかっただろう。






それから、俺は叶人の夢の中に入り込み、そこに、叶人の現実を作った。




叶人は従順に、俺の言うことを全て信じている。






カゲノのことは、予想外の出来事だった。


俺の夢に入り込めるほど力の強い悪魔だ。


それを、逆に俺が支配できればどんなに気持ちがいいだろうと思った。


最初は、ただそれだけだった。




でも…カゲノと接しているうちに、そんな考えは薄れていった。


寧ろ、叶人の夢の中で力を使い続けている俺にとって、カゲノの優しさは、心地が良かった。






この、狂おしいくらいに欲する心が愛だと言うなら、俺は間違いなく二人を愛しているのだ。


それなら、手に入れるべきだ。






叶人の依存と、カゲノの執着。


俺はその二つの愛を、両方手に入れることに決めた。











それなのに、最後だなんて、馬鹿なことを言うから仕方なくタネ明かしをした。


人間だから、悪魔だから。


そんなの、くだらない。




人間も悪魔も、何も違わない。




悪魔だって、人を愛する。


人間だって、人を壊す。





俺は、カゲノと叶人を愛してる。


そして、愛に満ちたこの二つの夢こそが、俺の幸福だ。








『おやすみ』






甘い甘い、花の香りがする。








―END―

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘つき悪魔の夢 Pomu @Pomu1123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ