第5話
森に入ってから、雪のちらつく中。
曇りだとしても、輝く木々。
虹色に輝く美しい、宝石の森。
土から生えた様に魔石が突出しているため木や森とは呼ばれているが常人が近づいたら命に関わる景色。
毒々しい程に美しい極彩色の中に蠢くソレ。
黒く蠢くタール状の魔物。
「ああ、あれか」と、呟く。
大昔。
魔石のせいで戦いが起こった。人間以外は魔法が使え、その力を欲した人が獣人からも取れると噂が広まったのが争いの発端。
その獣人側の戦士たちが亡くなり、それが今もこうしてあの日を忘れないでと輝いている。もちろん、魔物の屍体から生まれるものもいてその出現は様々。
スライムは彼らの魔石から出た、体の残骸、意思と言われている。また、魔石の魔法だと全く効かず、個体によっては毒を放出するという。
しかも駆除しても再び沸く。
更に奥地には知性を持つ彼らが街━━魔女の谷と呼ばれている場を作っている。
この様にまだまだ色々と研究中の彼ら。
また大戦の中で滅んだ種族もいた為、過去には━━『彼ら《スライム》は、滅亡した種族の怨霊だ!』という研究者や論文を書く者達が後をたたなかった。
紫蘭に寄り添う普段は可愛い一頭身で黒い一つ目の猫の様なもの。『
それを紫蘭が地に足をつくたび地と共に目視できるスライムを凍らしていく。
凍らすのは簡単と、 〜♪と鼻歌交じりで歩き行く。
紫蘭は易々と倒していっているが、このスライムタフでただの攻撃は効かない。魔石による魔法でも効果はさほど見られず、今の紫蘭のように、しっかり駆除してもいつの間にか湯水の如く湧き出てくる。
その上、体は少し酸で出来ているらしく、触ると危険。この魔石の森の毒霧も一部の木々と彼らの仕業と言って良く、奥に行くほど濃ゆくなるのもその為だった。
だからこそ、皆の口から手の出るほど欲しているこのよりどりみどりな魔石を容易く採ることが出来なかった。
紫蘭は彼らを
そして数体固めてから体から出した大斧でそれらを砕いたり、足蹴して砕き、
(……そういえば、獣人の葬式は魔石にならんよう、歌うのだったか。
……鼻歌で鎮魂するとは思わんが、そもそも死体から出たヤツという線もあるなら無意味か。
ミゼーアであればずっと歌うのだがな……いや。まあ、これらがミゼーアだったら攻撃もしないが……しかしこれはキツイな)
出る灰に「ごほっ、ごほ」と咽せ、歌うのをやめた。
(……ここまでか。
来ない合間に毒も濃くなったか?
流石の俺でも長時間濃い毒を吸っての駆除は無理だな。
転送機酔いを経て……良くやったと、ミゼーアまた夢の中でも良い。褒めてくれ……)
と、もう少し駆除してから一度退散の判断する紫蘭。
「あいつの方が容易いだろうに、面倒くさがりめ」と、ぶつぶつアスラの文句を呟きながら関所に帰った。
「あ、ザレン卿……と、ローゼンベルグ卿。お変わりない様で……へへ……」
と、紫蘭がスライム退治に勤しんでいる頃。
関所の中。
事務所と騎士たちの休憩所。
そしてその奥の部屋。
他の部屋と打って変わって豪華絢爛な部屋。
老獪の男二人と女騎士。そこにアスラ。
老人といえど、数百を生きている。
双方枢機卿の立場でもあり、ザレン卿の方は貿易商トップ。
ローゼンベルグ卿の方は、帝国━━浮遊する教会本部の下の国の宰相も担っていた。
そんな彼らに愛想笑いしながらアスラが挨拶しに来ていた。
四天王が表立ってトップの顔はしているが、実際は彼ら枢機卿たちが権力を握っている。今もザレンの方は、水晶を片手に、
「教皇も腑抜けた返事……どういう事か」と愚痴。
「……我が家系であるし、もう少しシャンとして欲しくはある」と、ローゼンベルグ。
「大体、枢機卿共。推しの騎士を隊長や四天王に据えるのも如何か」「魔物家畜ももう少し増やさねばな」「加工も視野に入れんといかん!」などと話す。
過激派という訳ではなく、教会の在り方を正したい━━そういうことは何となくわかったアスラ。
(……やっぱ、師匠と行ったがよかったかなぁ
なんか、関所の責任者の会話っつよりも枢機卿としての内密なお話のようだしな。
……ちょっと気まずいカモ)
と本心を悟られない様ににこにこの顔で騎士らしく壁に待機していたところ、
「アスラ、暇なら彼女と手合わせでもすると良い」
と、多分居心地の悪いアスラを察してくれたローゼンベルグ卿が提案してくれた。
「彼女?」
と、ローゼンベルグの隣に背で腕組みして立つ帝国の方の鎧を着た女騎士を見る。その騎士が紹介されたと同時にアスラに向けて頭を少し下げた。
「契約している竜故、一筋縄では行くまいよ」
「ほへぇ……?」
とついつい抜けた声を出してしまう。スライム退治は気の乗らなかった気分屋アスラだが、急なそれに火がついた。
「では、お借りします」
と今度はうきうきでアスラは出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。