第6話
関所といえど教会の施設。通路でさえ、美しく磨かれている白い大理石の通路をこつこつと歩く。
その音からもわかるくらい歩き鳴らしながら、一階に降りていった。もしかしたらこの通路に戦闘上昇バフ付きの魔石とか高揚するような魔石を練り込んであるのでは、と思うくらいにアスラは嬉しそうにしていた。
そのままウキウキで女騎士と共に外の中庭。鍛練場としている所に来た時。
ごほごほしながら紫蘭が帰って来た。
ちょうど外からの出入り口と鍛練場の入り口が見合わせた造りとなっており良く見える。
気付いたアスラが「お!」と声を出す。そして、
「もう終わったんすか?」と、「流石す」と褒めちぎる。
「……なんだ、嫌味か?」と、苛々めに返す紫蘭。
「? ああ、毒にやられたんすか?」
「……それなら、俺も無理っすわ。
やっぱ自分行かなくてよかったす」と言ってから、対面の竜を見る。
「お手柔らかに、な」
と、彼らのやりとりを見ながら槍を弄ぶ。
見た目は普通に何処でも居そうな若い女騎士が微笑んだ。
ローゼンベルグの娘を模した、とされる色素の薄い髪。
唯一頬の鱗や鹿のツノが、人ではないことを伝えてくる。
この国の方の騎士の鎧。
練習用の槍を携えていた。
「ああ、竜か。じゃあ、枢機卿がいたのか?」
と、今からお手合わせ。構えてこれからのところ。その互いが対峙するど真ん中に来て空気も読まず紫蘭が聞いた。
「そうすよ。今からお取り込みなんで‼︎」
と、業火を纏うアスラ。「退いてくださいっ」と、少し火の粉を散らす。
それを払いながら、
「おまえなぁ…」
己の自分勝手さを棚に置き、アスラをなじってから、「まあ、程々にな」と、紫蘭も枢機卿陣に顔を出しに言った。
竜。
魔物の部類だが、唯一人間が魔石欲しさに手を出す事はあまりない。
全ての国に於いて、神話。王。
或いは土地。礎……建国の中で何かしら竜が関わっていた。いるいない見ないに関わらず、誰も皆畏怖していたからだ。
明らかに害のあった竜は討伐したという事が歴史に残っている。しかしそれでも竜の魔石は採らず埋葬したという。
それ程なのは理由がいくつかあり、一つは理性があり国を創り護れる力があること。
もう一つが人間たちは魔法を使えないが、魔石無しでなら、唯一『契約魔法』と言う竜と契りを結べばその竜特有の魔法や経験を積めばその他魔法を使え、半不老となった。
ただ、人が致命的なダメージを負い死ねば竜諸共死。
その逆も然りで『契約破棄』をすれば、人側は基本的に一年足らずで死に至る。諸刃の剣。
しかしそういう幾つかの理由があり、人と共に歴史を刻んでいた。
それから魔石の出現、利便性、利がある事もあり、
教会が故意に情報を消した為。今は『契約魔法』を知る者は研究者以外知らされていない。
しかし枢機卿たちはこれの強さを知っているので、『契約』している者ばかり。━━死というデメリットを魔石で回避して。
アスラと対峙しているのは、その枢機卿の一人。
ローゼンベルグ卿と契約の契りを結んでいる竜。
帝国を守護する重鎮。
忌竜とも呼ばれている。
練習用の槍を持つ竜。
(真っ先に練習用の槍持ったよな?
普段槍かランス使いだからかなぁ……? で、魔法はバリア系だっけ?
派生は土かな?否水や風の可能性もあるか。
ああああたんのしーーー)
と、相手を観察しながら手を考える。
そして、手元の炎を捏ねながら、走り出す。
ゴツンと透明の何かにぶつかるアスラ。
「━━うえっっ?!」
炎飛ばさなくてよかった〜
バリアを攻撃に使うんか。
と、ペタペタその壁を触る。触っても害はない辺り、敵意や攻撃を向けた時その効力が発動するバリア。
「やっぱすげ〜」
そうしてアスラが呑気にしていると竜が懐に入って来ていた。
その壁を囲っていくのがアスラからも見え、とうとう閉じ込められてしまった。
━━ここで炎を出したら己へ返ってくる。
実質自らの炎をほぼ封じられてしまう。
直感でそう感じるアスラ。しかし、
「へへっ、やべーー燃える」
と、嬉しそうに呟き対策を考える為後退。
「天人たちは、己の力を過信し過ぎるのだ」
と、ようやく竜が口を開いた。
その際も攻撃は止まず、女騎士は槍による突きを繰り出す。
アスラは槍の突きを封じようと、少量の火の粉を撒き散らし、バリアがない所を狙って、
「行け!」
と這う炎を繰り出す。
それを待っていたかのように、バリアが吸い上げる。
「やっぱムリかーー」
と穴を狙ったアスラが悔しがる。
「君たちは……力を過信するが、成長する事きもない。が正しいかな?」
と言ってから、
「しかし、今の機転はよかった。惜しかったな」
と褒める。そして、
「ほら。返そう」
と竜は自らのバリアに付く炎を操り、アスラに返す。
「わ!まじ?」
と、躱して「へへっ」
返されたなと、心底楽しそうに笑った。
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