第36話
それから僕たちは、マリリンさんに僕たちがレベルアップするのにちょうどよいクエストを教えてもらって受注するようになった。
その依頼の達成と、更なるレベルアップのためにモモラビが主体となって、僕たちを冒険者として鍛えてくれた。
なぜか、モモラビが僕たちに戦闘の仕方を身振り手振りで教えてくれた。そして、モモラビのアドバイスをきくことで、僕たちの戦闘スキルはメキメキと上達をしていった。
魔物であるモモラビが人間に戦闘方法を教えるわけがないって?
ああ、わかっているよ。
僕だってはじめはビックリしたんだ。
初めて出会ったオーガとの戦闘でどうしたらいいかわからなかった僕たちに身を挺してモモラビは戦い方を教えてくれた。オーガの攻撃の癖や、速度、効率の良い反撃のタイミングなど、モモラビは丁寧に教えてくれた。
うん。わかってる。
きっと、このモモラビ、絶対モモラビじゃないような気がする。
だけど、モモラビがなんなのかなんて今は突き止めても仕方が無い。人間がモモラビに化けているのかもとも思ったが、モモラビは僕たちに危害を加えるわけでもなく、ただただ僕たちが強くなるためのアドバイスをしてくれている。
僕たちの害になるどころか、僕たちの益になっている。
だから、あえてモモラビがなんなのか考えることはしなかった。
「モモラビちゃんの教えを守るとどんな敵も楽勝に思えるわ。」
「そうだね。モモラビはとても教え方が上手いと思う。僕たちが戦えるようになったのもモモラビのお陰だと思う。」
「そうね。モモラビちゃん様様だわ。」
「モモラビ、可愛い。強い。好き。」
「ピッ♪ピーッピッ♪」
ロレインちゃんもモモラビの恩恵を受け、モモラビがいたから強くなれたと感じているようだ。ミコトは……もともと強すぎる魔法を使用していたし、なぜかミコトのオーラだけで魔物が逃げて行ってしまったので、僕らとは逆に魔力を抑制する方法をモモラビから指導されていた。
確かに今のままのミコトは強すぎて目立ち過ぎるからちょうど良いのだと思う。
「それにしても、モモラビは人間みたいだなぁ。」
「ピッ!?」
思ったままの感想をモモラビを見つめながら言うと、モモラビは驚いたように小さく跳ねた。
「そうねぇ。モモラビちゃんはちょっと人間くさいわよねぇ。こうやって教えてくれるのも、モモラビの生態を大きくはずれているわ。ねえ、モモラビちゃん?」
「ピピッ!?」
ロレインちゃんも、モモラビが人間のようだと感じていたようだ。僕がモモラビにかけた言葉にロレインちゃんも乗ってきた。
「モモラビ?人間?んー?モモラビはモモラビ。見た目、人間違う。見た目、モモラビ。」
ミコトはちょっと混乱しているように見受けられる。ミコトは首を傾げている。
モモラビは焦ったようにキョロキョロと辺りを見回したり、小刻みに跳ねたりしている。
「ピーッ!ピッ!!ピピピッピピッ。」
焦っているモモラビは可愛く見えた。
「ふふふっ。焦っているわね。焦っているということは、やはりモモラビちゃんはモモラビではないのかもしれないわね。」
「ピピピッ!!!?」
ロレインちゃんがにっこりとした笑顔でモモラビを見つめると更に焦ったようにモモラビがピョンピョン跳ねた。
「ふふふっ。かーわいい。まあ、モモラビちゃんが話したくないならそれでいいわ。知りたいけど……誰にだって秘密はあるものね。」
ロレインちゃんはそう言って妖艶に微笑んだ。
……ロレインちゃん?
なんだか、ロレインちゃんがいつもの雰囲気と違うように見えた気がした。
★★★★★
「あー。シヴァルツくんだぁ~。お帰りぃ~。今日の依頼ももちろん~完了だよねぇ~?」
「マリリンさん。ただいまです。あの……いいんですか?受付に列、できてますけど?」
ギルドからの依頼であるオーガの討伐を完了してギルドに戻ってくると、マリリンさんがいち早く僕たちを見つけて両手を振り上げながら声をかけてきた。
マリリンさんってば受付嬢なのに、受付に並んでいる冒険者を放置して僕たちのところに来ていいんだろうか?
ラルルラータの町に来て3ヶ月が経っていた。
その間、モモラビの指導のお陰で僕たちはメキメキと冒険者として実力をつけた。ラルルラータで受けられる一番難易度の高いクエストも余裕でこなしてしまうくらいには強くなった。
「んー。シヴァルツくんはぁ~と・く・べ・つ・だよぉ~。だってぇ~、ラルルラータで一番強いパーティーだからねぇ~。ちょっとくらい優遇してもぉ~誰も文句は言えないわよねぇ~。」
「はっははっ……。でも、ちゃんとに並んでいるので、並んでいる方を優先してください。」
「はいは~い。シヴァルツくんは強くなっても良い子だよねぇ~。偉ぶんなくて好きだわぁ~。それにしてもぉ~シヴァルツくんたちは強くなるの早いよねぇ~。どんな秘訣があるのかしらぁ~?元々素質があったのかしらぁ~?そ~れ~と~も~誰か優秀な人に手ほどきしてもらっているのかしらぁ~?」
「は……ははっ。そうですよね。素質があったってことで。それよりマリリンさん。待っている方がたくさんいるみたいなので、その方たちを優先してくださいね。」
「も~う~。いつもぉ~教えてくれないんだからぁ~。」
マリリンさんはそう言って、渋々と受付業務に戻っていった。
「最近、マリリンさんはいつもあの調子ね。」
「そうだね。でも僕たちは短期間で強くなりすぎた。誰もが強くなる方法を訊きたくなるのもわかるよ。」
「そうね。確かに私たちは強くなったわ。」
「ミコト、弱くなった。」
「そうだね。ミコトは力を抑制しているからね。」
「そろそろ、ラルルラータの町にいるのは好ましくないかもしれないわね?」
ロレインちゃんはそう言ってマリリンさんの方を見た。
確かに最近では僕たちはラルルラータの町では有名になってしまっている。短期間で高難易度のクエストをクリアしてしまったからだ。
あまりにも短期間に僕たちは強くなりすぎてしまった。その結果、僕たちはラルルラータの町で注目されることになってしまった。
ミコトのことを考えれば、あまり目立ち過ぎるのは良くない。
今はミコトの髪色を魔法で変えているからバレてはいないが、顔が似ていると思う人物が出てくる可能性もある。
「そうだね。ここの魔物ではちょっと物足りなくなってきたし、強くなるためにもっと強い魔物を探しに行くべきか。」
「そうね。そうしてもいいかもしれないわ。それに、ミコトちゃんを守りきるためにも、強くならなければならないわ。ミコトちゃんを狙う人たちをやっつけないとね!」
ロレインちゃんはそう言ってにっこりと微笑んだ。
よかった。いつものロレインちゃんだ。
「もぅ~やっとねぇ~。シヴァルツくんたちならぁ~もっと優遇するのにぃ~。」
これからのことを話しながら列に並んでいると僕たちの番がまわってきた。マリリンさんは、むくれた顔をしてため息をついて僕たちを迎えてくれた。
「あはは。ありがとうございます。でも、僕たちもただの冒険者なのであまり優遇されると困ります。」
「いいのよぉ~もっと横柄になってもぉ~。現にぃ~今までラルルラータでトップだった冒険者パーティーはぁ~順番なんて守っていなかったわよぉ~。美味しいクエストだってぇ~優先的にとっとけって言ったりしたんだからねぇ~。」
マリリンちゃんは不満そうにブツブツ言っている。
「ははは。えっと、オーガ3体の討伐クエストが完了しましたので承認をお願いします。」
「は~い。流石だわねぇ~。なんなく達成おめでと~。これが、報酬ね。」
僕はマリリンさんにオーガの討伐部位である耳を渡した。マリリンさんはそれを確認して僕たちに報酬を支払ってくれる。
「ありがとうございます。」
「で?次のクエストは決まっているの?お勧めのクエストがあるんだけど?」
マリリンさんは次のお勧めのクエストを紹介してくれた。
コカトリスの討伐だ。
コカトリスも手強い魔物だが、オーガと比べると少し見劣りがする。というより、オーガよりも戦いやすい。報酬もオーガと同じくらいだ。
「えっと……僕たちそろそろ旅に出ようと思うんです。もうちょっとレベルの高い魔物を探そうと思って……。」
「あらぁ~。そうなのぉ~。残念だわぁ~。」
マリリンさんはそう言ったが、その表情は全然残念そうには見えなかった。
「残念そうじゃないわね。」
ロレインちゃんがボソッと呟くと、マリリンさんがにっこりと笑う。
「だってぇ~。そろそろそういう話題がでるかなぁ~って思ってたからぁ~。物足りないんでしょ~?冒険したいんでしょ~?」
「ええ。そうね。」
「いつか、またラルルラータに戻って来てくれると嬉しいけどぉ~。でも、私にはあなたたちを引き留める権利もないしねぇ~。ならぁ~寂しがるよりにっこり笑って見送った方がいいじゃない。」
「ありがとう。マリリンさん。」
「どういたしまして。あー、そうだわぁ~。一つだけ情報をあげるわねぇ~。アマテラス王国には行かない方がいいわよぉ~。なんかぁ~噂によると魔王を復活させようとしているとか~。危険だから行かない方がいいわ。それ以外ならどこに行ってもシヴァルツくんたちの実力だと問題ないと思うけどね。アマテラス王国からは今は他国の冒険者はほとんど逃げ出したって聞くわ。だから、絶対にアマテラス王国だけには行かないでよね。」
マリリンさんはいつもと違って真面目な表情で教えてくれた。
虐げられてきた忌み子は実は神の眷属でした 葉柚 @hayu_uduki
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