第35話








 僕たちは強くなるために、マリリンさんにどんなクエストを受注するのが適切であるか確認した。


 マリリンさんは、まずはゴブリンからがいいのではないかと教えてくれたので、僕たちはゴブリン討伐のクエストに挑戦している。


 ラルルラータの町から2kmほど離れたところにゴブリンが生息している草原がある。僕たちはその草原にやってきていた。


「ゴブリンか……。Fランクの魔物ってことだけど。」


「そうね。動作が素早いって聞いたわ。」


「うん。ゴブリンなら僕たちが住んでいた町の近くにもいたから、大丈夫かな。爺ちゃんの元で冒険者見習いをしていた時に何度か戦ったことがあるし。」


 僕は爺ちゃんとゴブリン討伐した時のことを思い出した。


 ゴブリンは素早いけど動きが単調だと爺ちゃんは言っていた。あの時は、初めての人型の魔物との戦闘で僕はやっとの思いでゴブリンを討伐した覚えがある。


 このクサナギソードでゴブリンの動作の隙をついて……。


「そう。じゃあ、ここはミコトちゃんと私がまずは戦ってみるわね。シヴァルツくんは、私たちにどう戦えば良いのか教えてくれるかしら?」


「えっ……あ、うん。でも戦ったことはあるけど、武器が違うしアドバイスできるかなぁ……。」


 僕の主な武器は剣だ。ロレインちゃんは主に弓を使用している。ミコトは魔法と体術だ。


 まあ、ミコトの魔法はちょっと規格外なのであんまり使用して欲しくないところだけど。ミコトに魔法を使用する時に威力抑え目でってお願いしてみたいけど、威力を抑えるってことは簡単にできるのだろうか。


「そっか。確かに武器が違ったわね。」


 ロレインちゃんは残念そうに頷いた。


 こればっかりは仕方がない。僕は弓のスキルないし、弓はほぼ使えないと言っても過言ではないのだ。


「とりあえずやってみるわ。危ないと思ったら、シヴァルツくん助太刀してね。」


「うん。わかった。」


「ミコト、魔法、バーンっ!」


「いや。ミコトは魔法はちょっと控えよう。」


「そうね。ミコトちゃんの魔法は強力すぎるから、威力低めにできるかしら?」


「んー?やってみる。」


 ということで、僕たちはゴブリンの討伐に来ている。そして、目の前からは早速1匹のゴブリンがこちらに向かってきているのが見えた。


「1匹だしちょうどいいかしら。実践ね。」


 ロレインちゃんはそう言って弓を構えた。射程範囲にゴブリンが入るとロレインちゃんはゴブリン目掛けて弓を放つ。


 矢はまっすぐにゴブリンに向かっていき、ゴブリンの頭に突き刺さった。


「一発命中だね!すごい。さすがロレインちゃん!!」


 鮮やかなゴブリンの討伐に僕は手を叩いてロレインちゃんを称賛した。


「……たまたまよ。」


 ロレインちゃんは少し恥ずかしそうに笑いながら目を逸らした。


「ピッピピっ」


 モモラビが鳴くとゴブリンが一匹倒されたことで、ゴブリンの仲間がわらわらと集まってくるのが見えた。


 意外とゴブリンは仲間意識が強いらしい。


 ただ、一撃でやられたのだから、実力差を感じて逃げてくれた方が嬉しいんだけど。まあ、強くなるにはいっぱい戦った方がいいとは思うけれど。


「……っ。ゴブリンってこんなに仲間意識が強かったかしら?」


 ロレインちゃんが口元を引きつらせる。


 ミコトはジッと前を見ていた。


 ロレインちゃんは弓を構えて次々とゴブリンに向かって打ち続けるが、ゴブリンの数が多くあまり数を減らせないでいる。僕も加勢しないとロレインちゃんが危ないと思って腰に装備している剣に手をかけると、


「ピッ!ピピっ!!」


 何故だかモモラビが「待った」をかけた。そして、モモラビはロレインちゃんの元に向かうと、矢を3本器用にロレインちゃんに渡す。


「ピピっ!!」


「え?もしかして、三本同時に打て、と?」


「ピッピピっ!!」


 モモラビは「そうだ」とばかりに頷いた。


「……狙いが厳しいわ。でも、やってみる。」


 ロレインちゃんは矢を3本ギュッと握り締めて頷いた。弓を構え、矢をつがえる。


「えいっ!!」


 ロレインちゃんは矢を打つが、やはり命中率がどうしても下がってしまう。


 次第に近づいてくるゴブリンたち。


「ピッピピっ!!」


 モモラビが鳴くと、なぜだかゴブリンたちは一定の距離からこちらに近づいてこなくなった。ただ、ゴブリンたちはこちらに向かって歩いてはいるがなにやら見えない壁がゴブリンたちを阻んでいるようだ。


 これは……モモラビの力なのか?それとも、ミコトの力?


「ミコト、今魔法使った?」


「ミコト、魔法、使ってない。」


 念のためミコトに確認をするが、ミコトは魔法を使っていないと言う。


 となると、モモラビの力なのだろうか。


 いや、魔法が使えるモモラビなんて聞いたことが、ない。というか、モモラビの生態自体があまり良くわかっていない。


「ピッ!!ピピピッ!!」


 モモラビはなにやらロレインちゃんに伝えているようでピョンピョン飛び跳ねている。


 ……正直、何を伝えたいのかわからない。


 ロレインちゃんも困惑の表情を浮かべている。


「ピッ!!ピピーっ!ピッ!!」


 モモラビは意識を集中させるとモモラビの周辺にピンク色のオーラが漂い始めた。そして、一点にオーラが集中し、ロレインちゃんの手にある矢にまとわりつく。


「ピッ!」


 撃ってみろとばかりにモモラビがゴブリンの群れを指し示した。


「……魔力を込めて、撃てばいいのかしら?矢に魔力をこめる……?私にできるかしら。」


 ロレインちゃんはモモラビの手ほどきを受け、矢に魔力を込めてみる。全身に魔力を纏い一点に集中する。


「はっ!!」


 そして、ロレインちゃんはゴブリンの群れに矢を撃ち放った。


「「「ぎゃぎゃぎゃっ!!」」」


 ロレインちゃんの矢は見事にゴブリンたちに命中した。


 矢が魔力を纏うことで強化され、かつ目標までの命中率まであげるようだ。


「ロレインちゃん。知ってたの?魔力を矢にまとわせれば命中率も威力も上がるって?」


 僕は不思議に思ってロレインちゃんに問いかけた。


 いくらモモラビがレクチャーしたからと言ってすぐに出来るはずもない。だから、ロレインちゃんが元々知っていたのかなと思ったのだ。


 だが、ロレインちゃんは首を振った。


「いいえ。知らなかったわ。モモラビちゃんが……魔力の使い方を教えてくれた、みたい……?」


 ロレインちゃんはにわかには信じられないと言ったような困惑した表情で答えた。




 ……モモラビがロレインちゃんに戦い方を教えた?


 そんなことが……あるのだろうか?


 


 そう思ったが、今目の前でおこったことを見る限り、モモラビがロレインちゃんに戦い方を教えたとしか思えない。


 モモラビって、いったいなんなんだ?






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