永すぎた埋葬
物部がたり
永すぎた埋葬
ある奇妙な体質を持った故に、数奇な運命をたどったエドガーという男の話をしよう。
エドガーは述べた通り、奇妙な体質を持っていた。
それは仮死状態になるというものだった。
仮死状態とは、身体機能がほぼ停止し、まるで死んでいるかのように見える状態のことをいう。
自然界にも、ある特定の状況下で仮死状態になれる動物は存在するが、人間は仮死状態になることはない。
けれど例外が存在し、エドガーは仮死状態になることができた。
幼少のころは数ヵ月に一度ほどの頻度で、数時間ほど仮死に陥る程度だったが、年齢を重ねるごとにエドガーの仮死は頻発するようになった。
エドガーは近しい人々を除いて、特異体質のことを周囲には黙っていた。
周囲にばれてしまえば、見せ物にされる恐れがあったためだ。
だが、そのことが災いした。
エドガーの仮死は長くても、数日程度のものだったが、その日訪れた仮死はとても長かった。
仮死に入り一年が過ぎ、二年が過ぎ、十年が過ぎたがエドガー目覚める気配がなかった。
家族と友人たちはエドガーの目覚めを待つが、一人が亡くなり、また一人が亡くなると家族か親友の誰かが、エドガーが生き埋めにされることを恐れ、埋葬ではなく教会の地下墓地に安置してもらうように頼んだ。
それから、気の遠くなるほどの年月が流れ、エドガーは仮死状態から目覚めた。
最初にエドガーが見たものは、変わり果てた世界だった。
人々は奇怪な格好をしており、恐ろしい物体が町を往来し、見るものすべて得体が知れなかった。
エドガーにとっては、夜眠って朝目覚める感覚だが、エドガーが仮死に入ってすでに何百年という年月が流れていた。
自然界には最強と評されるクマムシという
どうして最強と評されるのか?
クマムシは
エドガーもクマムシとまではいかずとも、体の代謝機能が最小限に抑えられ何百年も生き続けることができたと考えられている。
エドガーは変わり果てた町を彷徨っている時、警察に保護された。
エドガーはコミュニケーションに困難しながらも「仮死状態から目覚めると、世界が変わっていたのです……!」とすべてを話した。
最初は信じてもらえなかったが、話している言葉と、タイムトラベラーでなければ知りえない、情報を知り過ぎていたため周囲も半信半疑ながら信じざるを得なかった。
しばらくは極秘にエドガーは保護下に置かれていたが、ある日、マスコミにエドガーの存在が発覚してしまう事件が起こった。
判明するや否や、エドガーは面白おかしくマスコミたちによって大々的に取り上げられ、瞬く間に世界中の人々が知る時の人となってしまった。
人々はエドガーに同情すると同時に様々な憶測や、誹謗中傷なども巻き起こした。
自分が生きていた時代とも違う、頼れる人は誰もいない、多くの人々の見せ物にされているという状況下で、エドガーにかかるストレスは想像を絶するものだった。
様々な原因が重なり、エドガーは自殺未遂を起こした。
危ういところで救われたものの、すでにエドガーの精神力は限界だった。
「私を帰してくれ……みんなのところに帰してくれ!」
世界中には多くの人々が存在しているが、エドガーは一人ぼっちで孤独だった。
「エドガー……それはできないのだよ」
「どうしてできないのです……あなた達は様々なものを発明してきたではないですか……。空を飛び、遠く離れた人と話しをし、馬よりも早く走る乗り物も発明した。それならできるでしょう……」
「エドガー……きみは確かに過去から未来にやって来たが、未来から過去に戻ることはできないのだ。なぜなら、時間は真っすぐにしか進むことができないからだ」
「そんな……それじゃあ、私はどうすればいいのですか……。ここは私のいるべき世界ではないのです……。いっそのこと、あのとき助けず、そのままにして欲しかった……」
このままでは遅かれ早かれエドガーは持つまいと思われた。
見るに見かねた科学者たちは、エドガーに希望を持たせるためにこんな提案をした。
「科学は常に進歩する。現段階では時間遡行は確立されていない。だが、未来ではわからない。これから先の未来では、タイムトラベルが証明され実用化されているかもしれない。エドガー、きみはもう一度永い永い仮死状態に入り、タイムマシンが発明されるそのときまで待つのだ。きみならそれが可能だ」
エドガーは科学者たちの提案通り、再び永い永い仮死状態に入ったそうだ。
今現在も、エドガーはタイムマシンが発明される、そのときを待って眠り続けている――。
* *
過去、あるいは未来にこんな会話が取り交わされた。
「おい、エドガー。そろそろ起きろよ。いつまで眠っているんだ」
目覚めたエドガーは涙を流してこういった。
「とても、永い夢を見ていた気がするよ――」
――END――
永すぎた埋葬 物部がたり @113970
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます