26 毛皮はうれしい

  

 首に魔法をまとわせた手刀を叩き込んだことで、熊型の獣がちょっと見るに堪えない状態で目の前で地面に横たわっていった。


「大丈夫か?」


「私たちは大丈夫だけど、…うわ。返り血凄いわね」


 熊型の獣が動かなくなったのを確認しているとアンジェ達が恐る恐るといった感じで近づいてきた。

 アンジェは俺に掛かった返り血を見て露骨に引いた態度でそう言った。


 首めがけて手刀を入れたせいで周囲には凄い量の血液が飛び散っている。一番近い位置にいた俺には大量にその血液がかかってしまっていて、正直不快な感覚を覚えている。


「ああ、すぐに洗いに行きたいところだが、このままだと肉も毛皮も駄目になるから先にこいつの血抜きしないと」


「そうね」


「手伝います」


 レナたちもこの獣を近くの気に吊るすために手伝ってもらい、それが終わり次第すぐ俺は浴びてしまった血を流すため、近くに流れている川で普段使っている場所よりも下流に向かった。


「きれいに流せればいいんだけどな」


 この手の汚れはそう簡単に落ちないから少し憂鬱だ。特に履いていたズボンはがっつり血がかかってしまっているので、おそらくこれはもう使い物にならないだろう。もともと血がついていたところは洗ってはいるが、ごわついて感触がよく悪くなっているのだ。


「石鹸があればもう少しましなんだろうが」


 これなら先に石鹸を作っていた方がよかったな。一応簡易的な作り方も記憶しているから作れるはずだし。

 植物の灰も火を使っているからあるし、植物性の油はいくつかこの森の中に実を付ける物があるのでその種から絞ればある程度は手に入れることができるだろう。


「帰ったら作るか。俺一人ならともかく女の子が3人もいるし、石鹸なしの生活はさすがに良くないよな」


 そんなことを独り言ちながら脱いだズボンを揉みこんで洗う。やはり血はあまり落ちなかったが、そのままにしておくよりはマシになっただろう。

 体毛についた家は不思議とあっさり落ちたので安心した。匂いが多少残ってはいるがさすがに血の匂いががっつりついた状態で食事はしたくないからな。


 まあ、返り血で嫌な気持になったが、それ以上に狙っていた大きな毛皮を手に入れたので、そこはうれしいところだな。

 1匹分しかないのであと2、3匹出てきてほしいところだが、あれだけ探索して出てこなかったのだから、この森に生息している数が少ないのだろう。


「さて、洗い終わったし戻って熊の処理の続きをするとしようか。…ん?」


 そういって川辺から立ち上がると周囲から男のうめき声のような音が聞こえてきた。

 死にかけているようなうめき声だから放っておいてもいいような気もするが、放っておいたことで何か嫌なことや面倒なことが起きても困るので、確認に向かう。


「まさかこんなところまで追ってくるとは、……はぁ」


 うめき声の元へ移動してみると、地面に伏せて血を流している男が2人と、その傍らに呆れたような表情をした騎士のような鎧を付けた女性が1人佇んていた。

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転生したら速攻で殺されそうになったので、森の中でひっそりと生活しようと思ったのだが、いつの間にかハーレム状態になっていた にがりの少なかった豆腐 @Tofu-with-little-bittern

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