第9話 危険な奴


猫の状態になってしまった猫。彼女はもうパッドを持つことも出来ない。けれどせっかく興味を持ってくれたゲームなので俺は【クラッシュシスターズ】をプレイしながら猫に説明し始める。


「な?だから、対空中は、こうしてこう。そーすっと、相手はこう動くから、こうなるんよ」


「はえ〜っ。なるほど......そこまで考えての動きなんですねえ。すご」


猫が頷いた。


こうして何かを教えるというのも、いいものだな。普段は仕事以外ずっと一人でいるから新鮮だ。職場では無口無口と言われるが、話をするのは割と好きで楽しい。


嫌いなのは唐突に始まるマウント取りだけだ。


まあ、そんな話はどうでもいい。今は思い出したくもない職場の事よりも、猫との一時を楽しもう。


そのとき、ふと思った。俺は職場へ行くために外へでたりしている......けど猫は?ずっと家の中にいて、息苦しくないのか?


「......」


「どうしたんですか?あ、負けた......」


「なあ、猫。少し散歩でも行かないか?」


「散歩?」


「ほら家ばかりいてもあれだし。散歩して運動したほうがいいんじゃね?」


「......そ、それは」


猫の尻尾が落ち着きなく動きだした。


「?、どした?」


「......太ってました?私」


「へ?」


蘇る豊満なバスト、ヒップ。猫の美しく均整のとれた美しい裸体に顔が赤くなる俺。


「はっ、あああ!!?いいですっ!!思い出さなくてっ!!」


「うおっ、あ!?」


しゅばっ、と顔面に飛びついてきた猫。


「わかった!わかったから!落ち着け!!」


「思い出さないでよ!?絶対に!フリじゃないですからね!?」


「あ、ああ......で、でも肥ってはなかったと思うからそこは安心、いっ!?ぎゃああ!?爪が頭皮に!?」


「思い出してんじゃねーですかああっ!!ふしゃーっ!!」


安心させたかったんだよ!いてえ!


そんなこんなで二人お出かけ準備。外は結構暑いので薄着で行こう。道中猫に水分補給させるため水筒を携帯する。


「よし、レッツらゴー!」


「死語!?」


二人でとぼとぼと歩き始める。


「お前さ、散歩コースとかってあるの?」


「まあ、一応......」


「へえ。じゃあ今日は、猫の散歩コースで行くか」


「わかりました」


そういうと彼女は先導するように俺の前を歩き始めた。尻尾がご機嫌にふりふりと動いている。


「あっちの方、行きますか!」


とことこと猫の向かう先。そこは木々に囲まれた坂の登り道。


「坂かあー」


「文句いわなーい。はい、いこー!」


ゆっくりと登る坂道。左右を見れば木。上には青い空。鼻をくすぐるしっとりとした土の生臭い匂い。けれど、不思議と嫌ではない。むしろ心地良い。


(......のんびりと散歩。なんて平和な休日だろうか)


これまでの休日といえば疲れで一日中眠りこけ、夜に辛うじて飯、晩酌をして終わり。......大げさでなく一瞬で過ぎる休日は次の労働の為のものと言っても過言じゃない。


まるで働くために働き、働くために体を休める。苦しい仕事と人間関係、ストレスを詰め込んだ現代でまともに生きられる人間なんて......多分少ない。


壊れかけの心を引きずって、それでも這いつくばり進む。どこに行き着くとも分からない道を。


「どうかしましたか......?」


無言だったのを気にしたのか、猫が心配そうに足へすり寄ってきた。


「坂道、疲れました?それとも頭皮がまだ痛みますか......?」


頭皮って、ふっ、ふふ。


「ぷっ、あはは、そーだよ。頭皮が痛むんだよ。お前爪痛すぎ」


「ごめんなさい。次は爪をたてないように......いや、なんで笑ってるんですか?」


おまえが来てくれて良かったよ。ホント。


「ふふ、あん時の猫の焦った顔が面白かったからかな、って痛え!?噛むな!!?」


「ふがふがふにゃがふーっ(いまのはあなたがわるいですっ)」


ゆっくりと坂を登りきると、その先。曲道になっていて次の道がまた坂になっていた。「マジかよ~」と嘆く俺に対して猫は「マジです。いきましょう」とあるき出した。最早、ちょっとした登山といっても良いんじゃないだろうか。これは。


そして更には。


目に入る黄色い看板と注意書きの書かれた木製の看板。


「おい、猫これ」


「?」


指差すそれは『熊出没注意』の標識だった。横の木製の看板は食べ物やゴミを捨てないでというヤツだった。猫は、ひとつ頷くと再び歩きだす。


「え、ノーコメント!?熊出るんだよ!?帰ろうよ!!」


俺が全力でツッコミを入れると、猫はやれやれといった目つきで首を横に振った。


「......もしかして、熊なんて出ないのか?」


「出ますよ?」


「出るんかいッッ!!」


じゃあなんで、そんなヤレヤレだぜ的反応だったんだ!何に呆れられていたんだよ俺は!!


キレッキレのツッコミが炸裂し猫を更に問い詰めようと、というか帰ろうと説得しようとしたその時。ふわりと臭う獣臭。


脇にあった笹薮が明らかに風のせいではない動物が揺らす感じのワサワサという動きを見せた。そしてそこから現れたのは――







――どうみても熊でした。本当にありがとうございます。



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『マジカル★ドーテー』魔法で猫が美少女に!社畜童貞との二人暮らしが始まる! カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画 @kamito1

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