第8話 猫とゲームとバトル



コポコポと紙パックから白い液体をコップへと注ぐ。いや白くはないか。そんな少し濃色をしているカツゲンの入るコップをお盆にのせ、俺は自分のアイスコーヒーを作る。


「あ、猫。おまえ氷ほしかった?」


「いえ、だいじょーぶでーす!」


「そうか」


自分のコーヒーへ氷をふたつ。猫の元へ戻ると彼女は違うゲームを物色していた。


「なんかやりたいゲームあったら買うぞ」


「んー。なんかたくさんゲームあって迷いますねえ......どれも楽しそうです」


カチカチとカーソルを移動させ、色々と見て回る。しかし、ゲームを普通にプレイできてるあたり、やっぱり元は人間の可能性が高いな。


なぜ猫になっているのか。その理由のひとつに、もしかしたら、彼女は......死んだ人間の生まれ変わりなのかもしれないというのがある。可能性の一つとしてそれは十分にある。あるが、それが真実であれば目を背けたくなるような事実だ。


あまり猫を刺激したくないし、それが原因で居なくなられても寂しい。だから、この可能性は彼女自身がもう現世は十分だと言えるような状況になったあとで伝えるかどうかを考えよう。


「ほい」と俺は猫にカツゲンを手渡す。すると彼女は「あい」と受け取り「ありがとー」と笑った。


俺はなぜか不安に襲われ誤魔化すように指をさす。


「あれなんてどうだ?そこのやつ......」


「?、これですか?【クラッシュシスターズ】」


「それ。対戦ゲームだから好きなだけ俺をボコボコにできるぞ」


「!?」


ハッ、と猫はこちらを見る。そして素早く【クラッシュシスターズ】を起動させた。ちなみにこのゲームは購入してあるやつで、俺の大好きなゲームの一つ。


【クラッシュシスターズ】とは多くのキャラクターを使い、互いにボコボコに殴り合ったり撃ち合ったり斬り合ったり、それにより溜まるぶっ飛びゲージを高め、相手を吹き飛ばすゲームである。


(久しぶりだな......けど)


学生時代にやりこんで、かなりの勝率を叩き出していたこの俺。猫に遅れを取ることなど万に一つも無い。つまりなにが言いたいのかって話なんだけど、ボコられるのは猫の方ってことだ。


(すまんなぁ、猫......勝負はもう始まっておるけぇ。悪く思うなや。クククッ)


「......あの、すっごく悪い顔してますけど」


怪訝そうにこちらをジト目で睨む猫。


「誰が悪人面だ」


「言ってない。一言も言ってない」


怪しみながらも【クラッシュシスターズ】を起動し、対戦モードを選ぶ。


「って、あれ?猫、練習モードはしないの?」


「あ、やべ」


すぐにラウンドが開始され、焦ったのか猫がこちらに突っ込んできた。それかもしかすると先手必勝というやつか。


ちなみに俺の使うキャラクターは、一言であらわすならゴリラ。ゴリラがバナナ剣という巨大な剣をぶん回し戦うというキャラだ。


対して猫のキャラは、可愛らしい見た目も相まって人気と使用率の高い、黄色の猫。この猫は帯電能力を持っていて、その雷の力を自在に操り戦う。


――走ってくる猫。そのままスライディング攻撃に転じる彼女を軽くジャンプしてかわす。


「ちぃ!」


「そんな奇襲が通じるかよ!」


真下にいる猫に俺はバナナ剣を振り下ろした。


「おらくらえ!」


「きゃああーっ!!」


カチカチカチとボタンをめちゃくちゃに連打する猫。しかし運が良くコロコロと転がるように俺の攻撃を回避する。ちっ、往生際の悪い猫ちゃんだぜ!


「ちっ、もう少し」


「あ、あ、あぶない!危なかったあ〜!!」


ふう、と安堵するもつかの間。俺の猛攻が猫を襲う。


「わわわわっ、やめ、やめてっ!いやあ!!」


めちゃくちゃな操作。しかし俺の攻撃を次々と回避していく。運が良いってレベルじゃねえーぞ、これえぇ!?


「くそ、めちゃくちゃ上手く避けやがる!!?」


「いやだああっ!!死にたくないいっ!!!」


「え、なに猫これやったことあるの!?」


「無いけど!!てか嘘つき!!めっちゃやり慣れた動きしてるじゃないですかあああっ!!」


「はっはっは!今更気がついても遅いわぁ!!」


と、その時。突如、あれほど避けられまくっていた俺の攻撃が面白いように当たり始めた。


「おっ!?」


「あっ、あああー!!?待って待ってえええー!!!」


猫のぶっ飛びゲージがMAXになり、彼女のキャラは画面外へと吹っ飛ばされた。ドーンと鳴る激突音と揺れる画面のエフェクト。


「ふう、すっきりしたあ」


俺は額の汗を拭いながら、いやあ大人気おとなげなさすぎるな。と我に返り、隣の猫へ謝罪しようと横を見れば。


「......あ、猫」


「......」


人の姿から猫に戻った彼女がそこに座っていた。心なしかムスッとした表情をしている気がしたけど、猫なのでよくわからない。


「すまん、猫に戻ってたのか。悪いな」


「いえ、謝る必要は無いです」


そう言いながら彼女はコップのカツゲンをペロペロ舐め始めた。


「ちょっと待って。それ皿に移そう」


「む......ありがとうございます」


俺は時計を見る。


十時間と少しか......結構長かったな。どういう法則で時間が変わるんだ?

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