第4話 怒りの矛先
目の前が激しい炎に包まれているように真っ赤になる。
全身の血液が沸騰したように身体が熱い。
己の心臓が細い身体を突き破って出てくるのではないかと思うほど脈打っている。
大きく息を吸い、ふーっと息を吐き、心を落ち着かせる。
目に映る光景を眺め、まだ酸素のいきわたっていないような頭で考える。
―こうするしか、方法がなかったんだ。
土曜日の倉敷は、混んでいた。
快晴で、しかもゴールデンウィークに入る前の最後の土曜日ということもあるのか、カップルや家族連れでにぎわっているのだろう。
ここからだと、倉敷美観地区が近いだろうか。
−そういえば、柳が揺れている下で綾音と写真を撮ったな。
そんなことを思い出しながら、岡山から広島への道を車で急ぐ。
トヨタのライズは今月納車されたばかりで、ハンドルを握る手はわずかに汗ばんでいる。
綾音と付き合ったのは、三年前。
出会いは大学のサークルだった。
お互いに学生だった俺たちは、ごくごく普通のお付き合いをしていた。
休日に水族館に行ったり、日帰りで県外に旅行に行ったりもした。
順調にいっていたと思っていた交際は、綾音が広島の会社に就職し、遠距離になってから壊れ始めた。
いや、距離は関係がなかったのかもしれない。
「結婚したい」という綾音と、「結婚はまだ早い」という俺の攻防戦は、電話をするたびに繰り返された。
何回目かのやり取りの後、
「今は仕事に集中したい。」
という俺に綾音が言い放った言葉は、「別れよう」というものだった。
俺はまさかそんなことを言われると思っていなくて、言葉が出てこなかった。
綾音の次の言葉を待っても、出てくる言葉に俺に対する愛情は感じられない。
彼女が自分から離れるかもしれない、と同時に今まで振られたことがない俺は、捨てられるという恐怖に気が気ではなかった。
だからすぐに、広島に住んでいる彼女の家に、岡山から新車に乗り込み向かった。
助手席に置いてある鞄の中に、不自然なほど黒光りする機械を携えて。
盗聴犯 @sweet-sora
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