君が死にたかった今日を、僕も死にたかった今日にする

陸前フサグ

0日目 後悔


 死にたいと思ったことはあるか、と聞かれれば無いと素早く答えられる自信がある。死にたいと口にする奴は軟弱で、人の気持ち等顧みない薄情者だ。

 

 こう強く思うのは、生きている間に特別心揺さぶれる何かがあったからでは無い。災害にしろ事件にしろ、人の命は尊くて在って然るべきで、なくなって良い命はひとつもない。“普通“の人間ならこう思うはずだ。


 と、思っていた。


 もし、世界でたったひとりになったとして何を思うだろう。寂しいと泣くだろうか。嫌いな奴が死んで、ざまあみろと笑うだろうか。煩わしい事も、窮屈な事も、楽しい事も、笑い合う事も全部無くなって、何を思うのだろうか。

 空想で思い描く様な世界の終わりは現実味がない。しかし『自身の世界の終わり』を想像したらどうだろうか。今置かれている環境に変化が訪れたとして、何を思い、考えるのだろうか。


 事実、その時にならなければ心情の予想もつかない。

 全ての事は当事者にならなければ、"何も"解った事にはならない。

 寄り添った気になって悦に浸るのは、一方的な正義でしかない。


 死にたがる君が理解できなかった。生きてこそ全てだと疑わなかった自分自身を、今は心底恥ずかしい人間だと思っている。


 君が死にたかった毎日に、生きろと正義を押し付けた事。

 人の心を殺すのは、それが良いとして疑わないお節介で自己中な"正義"だと知った。 

 "救えない誰かを救いたい"という自慰に近い目標は、"救えるはずだった誰かを追い詰める"のと同じだった。


 死にたい君を理解する為にできる事。

 君が死にたかった今日を、僕も死にたかった今日にする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君が死にたかった今日を、僕も死にたかった今日にする 陸前フサグ @rikuzen_fusagu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ