面白いです!
主人公は男装設定。
太宰治や中原中也などの文豪が出てきます。
今まで個人的に太宰治ってあまり人として良いイメージがありませんでした。
熱海で豪遊しすぎて借金のかたに友達の檀一雄を旅館に置き去りにしたり(このとき生まれたのが『走れメロス』だけれど、太宰は友人を助けずバックレてる)、駆け落ち婚で実家と縁をきられて以降は薬物中毒で口説いた女性を三度自殺に誘い(一回目女性だけ死亡で誘った太宰は元気、二回目妻と自殺未遂で二人ともセーフ、三回目は別の女性と死亡するも、口説いて共に自殺した女性ではなく妻に愛していると置き手紙)、ナルシストで本気で死ぬつもりはなく、死ぬくらい自分のことを好きでいてくれるのか愛情を確かめたかったのではという説すらあるくらいで、、自殺したがるような大文豪の心は凡人の私には全く理解不能だと(太宰治が好きな方、本当にすみませんm(_ _)m私の理解が浅いのです)。
でも、この作品を読むと、太宰治のイメージが変わりました。
自分は表面的な部分でしか判断していなかったのかなと。
もう一度、太宰治の小説や中原中也の詩をじっくりと味わいたくなりました。
時代や背景の設定も作り込まれていて、作者様の文豪たちへの深い愛情がビシバシ伝わってくる作品です!
個人的には「いい人になりたいだけ」ってエピソードがとても心に刺さりました。
ありがとうございますm(_ _)m
平成(令和でなく)から昭和、それも太宰治や中原中也といった名だたる文豪が登場する昭和初期へのタイムスリップ・ストーリー……なの、です、が、そう一言で纏めてしまうと、非常に軽薄で書き手に申し訳ない気がするのはなぜでしょうか。
なので、このレビューを書くに当たってこの作品の何に惹かれるのか考えていたのですが……私の個人的な感想となりますが、特に第三部になって深まる、各登場人物が共鳴することで醸し出す「人の業の重さ」「人生の皮肉」にあるのかなと。
そして、そこに至るまでの、主人公や文豪、その他の登場人物の肉付けの厚みは、そのまま物語の厚みに繋がっていて、ただのタイムスリップものにはない説得力と、凄みを醸し出しています。
さらに、時代考証も非常にしっかりしており、読んでいるとまるで自分も昭和初期に生きているかのよう。そんな、徹底して作り込まれた世界観と、文脈から、書き手のこの作品に賭ける執念のようなものを感じ取るとき、「これはものすごい作品を手にしてしまった」と思わずにいられないのです。
【物語は】
恐らく平成生まれの主人公が平成ではない場所におり、”働かせてくれ”とある店主に懇願しているところから始まる。しかも、お金の必要な理由は自分の為ではない。一体何があってこんな事態に陥っているのだろか?
【登場人物・物語の魅力】
本編に入ると、どうやら主人公は怒っているようだ。行き場のない怒りというのが適切なのだろうか。せっかくスケジュールの調整をし、遥々友人に会いに来たのにドタキャンされてしまい、相手にも自分にも怒りが収まらないといった印象。しかし、どうすることもできない。
これは偏ったイメージであるが、若いうちは恋人を優先し、結婚してしばらく経つと友人を優先する。人にもよるだろうが、恋愛を優先する人ほどこんなイメージがある。
主人公は意図せずして”一人での観光”になってしまい、地元の友人に助けを求めるが、自分に持たれていたイメージに落胆する。随分と偏ったイメージであり、友人がどんな人なのか知りたくなる。その友人から勧められた場所に不満を感じたものの、主人公は行ってみることにしたのである。
しかし、目的地に着くどころか変な人に絡まれてしまう。
日常から非日常へ。不思議な体験をした主人公は、高い場所から突き落とされ死を覚悟したが、気づいたら見知らぬ街にいたのである。
【世界観・舞台】
現代から過去へ。2018年・東京から過去へと飛ばされてしまう。手にはある植物を持って。ここで救いとなるのは、自分自身の目的が分かっていることである。(それは少し後でわかるのだが)
過去に着き、暫く困っていた主人公に、突然救いの手が差し伸べられる。全体的にユーモアの混ざった、笑いどころもある作品ではあるが、タイムスリップ先で、ある人物に出逢ってからが面白さが増す。
ここで、あらすじからは想像できない展開へとなっていく。ネタバレになるので詳しいことは言えないが、希望が現れるのだ。
そこで希望となる彼から、詳しい話を聞く。自分が持っている花の意味。彼の身に起きたことなど。ただ一点”記憶が失われて”いくのは何故なのかが気になる。これは主人公だけに起こったことなのであろうか。
主人公は不思議な体験をしながらも、言われたことを考え、ここにいる目的を見つけていく。目的が分かれば、何をしたら良いのかも見えてくるだろうし、戻る方法も分かるかも知れない。
目的が分かった主人公は、どうやってターゲットに近づいて行くのだろうか。とても興味深い。
【物語の見どころ】
この物語は謎な部分が多い。その謎を解きながら、自分が為すべきことを探っていくという意味合いなのだろう。タイムスリップの経緯にも謎の部分があり、まずあの人は一体誰で、なぜこんなことが出来るのか分からないままである。もしかしたら、その部分はいずれ解明されるのかも知れない。
そして、過去で出逢った人。彼についても謎な部分がある。目的を達成できたのだろうか。もし失敗だとしても、どうしてなのかなど。序盤ではまだ明かされていないことが多く、いろんな想像もしてしまう。
彼女は、自分を助けてくれた人物の助言を受け、見た目を変え、自分が為すべきことを成そうとする。その途中でどんなことをしなければならないのかも明かされていき、とても興味深い。細かいルールもあるようだ。
あなたもお手に取られてみませんか?
主人公は無事任務を終え、現代に帰れるのだろうか?
この物語の結末をその目で是非、確かめてみてくださいね。
お奨めです。
少しレトロな言い回しがあったり、登場人物の方言の口調の書き方が、昨今は随分と見かけなくなったタイプで、小学校の図書館にあった分厚い文学集の中の一作品のよう。それが完全にイマドキ向きな現代口語訳をされたような読みやすさがありつつも、昔の文学の空気感が残っているため、ブラウザで読んでるのに紙の匂いを感じるという。だからといって、古臭いという訳ではないです。昔の文学の情緒的な良さと、今時の読みやすさの融合というか。
それが、平成から昭和にタイムスリップしたというストーリー、文豪との絡みにすごく合っています。
そして登場人物たちなのですが。
一癖ある、なんてものじゃないという。何癖あるの!?というぐらい、これがまあとにかく尖がっていて。主人公の要もかなり複雑な子で、頑張りが空回りするような不器用な部分もあるし、男装もしてるしで、設定だけでも盛沢山。失敗して、転んで、何気にひどい目にあったり、恋なんかもしてみたりもして…。泥臭いというか、ああ人間臭いってこういう事だな!という感じの。
彼らのこの癖ある感じが、上っ面ではない、人間味が濃い、人としての層の厚さに感じられて、物語をより深く、魅力的に、そして現実感を醸し出しているように思いました。
一気読みもできる読みやすさではありますが、一話ごとのまとまりが良く、雰囲気の部分でも、朝の連続テレビ小説的でもあるので、すでに多くの話数を重ねている作品ですし、朝に15分という感じで、昭和初期の雰囲気を味わいながら、じっくり読まれるのもおすすめかなと。