第2話 憧れの仮面

「、、、、それが?」



 思っていた反応とは違く、志帆は驚いた。

 麗華の冷めた反応が怖い。


「、、、だから何?私たちは異父姉妹、それで?続きは?」 


「、、、海星 汐里が死んだ理由は他殺です。私は海星 汐里、、ママが死ぬ瞬間を見ていました。」


「へぇ。」


 自殺ではなく他殺だと聞いても麗華の冷たい表情は変わらなかった。


「、、私、ママを殺したのは麗華さんの父親の鳳城 綾人あやとさんだと思ってるんです。」


「私のお父さん?あははっ。」

自分のお父さんが人殺しだと後輩に疑われても麗華さんは笑っていた。


「面白いこと言うね、。」


「えっ?」

腹部に何かが刺されたような気がした。


「つっ。」 

腹部から血がだらだらと流れる。


刺されたのは、、

「ナイフっ。いつ、の間に。」


「ふふふっ。小型ナイフだよ。いつあなたが真実に気づくか分かんなかったからいつも制服の内ポケットに常備してたんだ。」


制服の内ポケットにいつも常備していたということは最初っから気づいてたのか。

「ねぇ、何では私にわざわざ教えたの?、、もしかしてお父さんを捕まえるために協力してってお願いしにきたのかなぁ。だとしたら残念だね。私はお父さんが人殺しだろうと構わないよ。お父さんが生きてた方がお金と権力があるからね。私のおとぎ話には必要なんだ“優しくて裕福で理想の父親”が。それなのには消そうとしたよね。だから思ったんだぁ、【という悪役を消せば私のおとぎ話は邪魔されない】って。」


だからといって人を殺してしまうのか?


「あなたはね、この世界の誰からも必要とされてないんだからいなくなってもいい存在なんだよ。だから安心して、あなたがいなくなってもこの世界は平常に動く。『赤い羽』も多分葬式はしないでただ黙祷するだけだと思うよ。」


、、、今、気づいた。

この人は【みんなの理想】という仮面を被った人殺しで、私はその人にまんまと騙された。

嘘はあちらの方が一枚上手だった。


「ばいばい。誰にも本名すら明かさず、素の自分を見せずに死んでいくちゃん。」


意識が途切れる寸前に見たのは麗華の綺麗な笑顔だった。


ママ、


ママ、


ママを殺した犯人すら正確に当てられないで、

ママのもう一人の子と対立して、

その子に殺されちゃった。


ママはもしかして、鳳城 麗華の方が良かった?


ママにとって“私はどんな存在”だった?


いらない子?それとも何の感情も湧かなかった?


ママ、今、そっちに逝くからもし、会えたら、答え合わせしようね。






ママ、ごめんね。

♢♢♢


桜並木の下、誰かが立っている。


「〜〜〜!〜の命、里〜に〜〜。だから、私の分まで、、幸せになって!!!〜帆はいらない子〜〜じゃないよ。生まれて〜〜がとう!ママこそ、ごめんね。」


叫び声が聞こえる。

、、、なぜだろう、叫び声の声が無性に懐かしい。


なんかこう、会いたくなってしまう。


気づいたら頬を涙が伝っていた。


♢♢♢


目が覚めたらそこは、異世界だった。

剣と魔法のファンタジーの様な世界。

そして、戦争なんてない世界だった。

しかし貴族制度は無くならなかった。

王政もだ。


どうやら私は転生してしまったらしい。


、、、それも小説の世界に。


地名や国名になんか聞き覚えがあるなぁ、と思い、色々思い出してしまった。

私の前世が海坂 で、鳳城 麗華に殺されたことも、なにもかも全部思い出してしまった。


転生したと気づいた時、ふと声に出してしまった。

「せめて前世の記憶消してからにしてよ。」

世の中は残酷だ。


、、、私が転生した世界は小説『その恋が叶わないとしても、、、』の舞台である【サジェス王国】だ。


小説の内容は大体こうだ。


ヒロインはヘレン・クラークという少女で元孤児だ。

クラーク男爵に養子に貰われ、“男爵令嬢”として王国の貴族学園に通っている。


実はヒロインのヘレンが入学する年に【サジェンス王国】の第二王子ノア・アーノルドも入学するのだ。


そして同じクラスにもなってしまう。


ノアは結果的にヘレンを好きになり、そしてヘレンもノアを好きになる。

、、、しかし二人は絶対に結ばれない理由があった。


それは、ノアに婚約者の【アリシアナ・ベイリー】嬢がいたのだ。


彼女は古くから王家に支えている由緒ある名家【ベイリー公爵家】の出。

今更婚約破棄など不可能に近い状態だった。


しかしアリシアナは間違いを犯してしまった。

ヒロインのヘレンをつい嫉妬心に駆られていじめてしまった。


ヘレンはいじめをノアに告発。

そして、ヘレンを自殺未遂にまで追い込ませたという罪の元、アリシアナは遠い国の宗教院に飛ばされた。


そしてヘレンとノアは仲良く結ばれておしまい。


、、とまぁ、色々ツッコミどころ満載の小説なのだ。

この小説を知ったのは梓と水瀬にゴリ押しされたから。

ちょっとどこがキュンキュンするのかはわからなかったけど。


、、、今、というか現世の私の名前は【アリシアナ・ベイリー】




この小説の悪役令嬢に転生してしまったのだ。



「今世も私はいらない端役なんだぁ。」


前世の記憶を思い出した瞬間泣きそうになった。


なんで。


なんで、志帆なんか記憶にないし存在すらしてない世界が良かった。


神は無慈悲だ。


♢♢♢


「、、、、、。」

アリシアナに与えられている部屋は全て母が指示して揃えた物ばかりだ。


玩具は一切部屋に置いていないが、唯一チェスだけ置かれている。


カーテンやベットも全て桃色で統一されている。


一見したらこの部屋に住めるのは豪華で素敵なのかもしれない、しかしベイリー家にはルールというものがある。


最近のアリシアナの一日はこうだ。

朝、母親であるブリジットがアリシアナの部屋に今日の時間割と課題を持ってくる。

そして時間割通りに一日を過ごす。

休憩時間や遊ぶ時間などは一切与えられない。

課題が終わったとしてもまた新しい課題を出される。


ブリジットとは一度も私的な会話を交わしたことがない。


どうやら生まれてすぐに乳母に取り上げられたらしい。


父親であるアルフィーともまだ一度も会っていない。


まだアリシアナは四歳だ。

日本で言ったらまだピチピチの幼稚園児なのに。


小説内のアリシアナはもしかして親から愛情をもらえずに婚約者のノアに縋って愛情を必死に貰おうとしていたのかも知れない。


そう考えるとなんだかアリシアナと●●が、、、、、。


やめよう。このことを今世まで考えるのは疲れてしまう。


コンコン。


不意に扉が叩かれた。


そういえばもうブリジットが来る時間だった。


ガチャ。

返事をする前に入ってきたのはやはり、、、。


銀色の美しく伸ばした髪に藍色の目をしている女性、ブリジットだった。


「おはようございます。」

お辞儀をして挨拶するもブリジットからの返答はない。


アリシアナの机の上にバサっと少し乱暴に時間割と課題を置いて部屋を出て行った。


「、、、、、。」

大丈夫。これがこの家のだから。

いつかそのうち慣れるから。


時間割を確認して少しため息が漏れた。

今日も、休憩時間等が一切ない。

家族との会話でさえ。


(ま、いっか。どうせ話してもまだキャラ作りきれてないからボロが出そうだし。)


いつキャラを作りきるか、悩みどころだ。






、、、、、、、本当はそんなこと考えない人生で生きたかったんだけどね。






さぁーて、課題やるか。


今日はお昼までに課題を終わらせなきゃいけないらしい。


アリシアナは淡々と課題をこなしていく。


分からなかったら問題は全て書き出し、ちゃんと理解できるまで徹底的に参考書や本などで調べる。


朝は理数をやった方がケアレスミスが少ないと言うのも聞いたのでそれを実践してみたりもする。


アリシアナに与えられた課題は四歳どころか元有名私立難関校の生徒である私にも分からない問題ばかりだった。


(、、、、、ふざけんな。)


そう思いながら頭をフル回転させ、手を走らせる。



あれから何時間経ったのだろうか、部屋にノック音が響いた。


「お嬢様。昼食のお時間でございます。」

聞こえてくるのはいつも、ばぁやの声。


「はーい。」

ばぁやが部屋に昼食を届けてくれる、これがいつもの日課だ。


「今日のお昼はメレニア料理長が作った美味しいパスタでございますよ。お嬢様、巻き方は覚えてらっしゃいますか?」

優しい口調で喋るばぁやはアリシアナの教育係を勤めている。

また、ばぁやはアリシアナの乳母でもあるのだ。

アリシアナにとってはばぁやは母親同然だった。


(いや、できることならいっそのこと私は公爵とばぁやの不倫の末に生まれた庶子であった方がなんか安心感が、、、。)


「お嬢様、夕食の前に奥様がお呼びです。奥様のお部屋にいらしてほしいとのことです。」


ばぁやはだいぶ言葉を選んでしゃべっているが、多分あの女のことだからどうせろくでもない話がくるんだろうなぁ、とアリシアナは思ったのだった。











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悪役令嬢の嘘吐き〜嘘っていうのは最大の自己防衛と優しさなんだよ〜 受験生 @zyukenn

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