悪役令嬢の嘘吐き〜嘘っていうのは最大の自己防衛と優しさなんだよ〜

受験生

第1話 異父姉妹

志帆しほー。おーきーて。」

 朝の六時に必ず円香まどかに起こされる。


「んー。分かったから揺らさないでぇ。」


「そう言って寝坊するのがオチなんだから早く起きな。にまた怒られるよー?」

 星りん。その言葉を円香から聞くたびにもうきて四年ちょいなのに毎回実感する。

 、、、ここ、孤児院だったな。


 今、私が暮らしているのは児童養護施設『赤い羽』。

 星りんはここ『赤い羽』の指導員だ。

(ちなみに本名は松田まつだ 星波せな。)

『赤い羽』にはルールがある。

 それは約束した時間の五分前に着くことと、五分前行動だ。

『赤い羽』の朝食会の時間は六時三十分。

 、、、そして今は六時五分ちょい。


「、、、、はぁ。諦めて起きるかぁ。」


 こうして志帆は渋々準備をして部屋を後にするのだった。


 ♢♢♢


「おっはようございまーす。」

「おはようございます。」


 食堂に入るともうすでに星りんとちびっ子達は朝食の準備をしていた。


「おはよう。二人とも。準備もちろん手伝うわよね?よろしくね。」

 最近やたらと星りんが最年長を誇張している。


(最年長、ねぇ。)


 私と円香は今年で高校二年生。つまり今年で十七歳になるのだ。

 施設に居られるのは原則十八歳まで。

 高校卒業と共に施設から自立しなければならない。


 、、、正直言ってまだ何になりたいかすらわからない。

 そもそも自立する前に自分はこの世から消えているという可能性だってある。


 前円香に自立後のことを聞いてみたら思った以上に円香には夢があった。

 ♢♢♢

『え?自立後の就職先?んー、私はファッション雑誌の制作に携わる仕事に就きたいなー。』


『ファッション雑誌?、、、何で?』


『私さー、元から服とかすごい好きなんだよね。施設に来る前から。昔は良く着るのが好きだったけど施設に来てからあんまり自分の好きな服が着れなくなって、不貞腐れてたら学校の先輩からファッション雑誌おすすめされて、それで読んでみたらすんごいハマっちゃって、、、。今度は私もファッション雑誌を作ってみたい!って思うようになったんだよね。』


『、、、。』


『ねぇ、もし私が会社立ち上げてファッション雑誌作るってなったら志帆モデルしてくんない?』


『え?私?』


『志帆顔可愛いしスタイル良いんだからモデルできると思うんだ!、、、ねぇ志帆は自立後何するの?』


『ん〜。秘密。』


『えぇ〜。なぁんでぇ〜?ずるいー。』


『、、いつか答え合わせしてあげるから。』


『、、、、、ねぇ。』


『ん?』


『アイドル、、とかモデルとか、やんないの?』


『、、、何で?』


『志帆にはアイドルとかモデルとかの才能あると思うんだ。』


『私多分それはやんないと思う。』


『、、、まだ、引きずってんの?』


『そっちこそ。円香はカメラじゃない道に進んだじゃん。』


『カメラマンとファッション雑誌の制作は似てると思うけどね。実際に私がちょっとだけ撮るかもしれないし。』


『私には“似た職業”は無理だよ。』


『もう四、五年経つよ。そろそろ前向かなきゃ行けないんじゃない?』


『、、、私はもう前、向いてるよ。』


 ♢♢♢

 そんな寝る前のちょっとした会話だった。


 すごいなぁ。円香は。


 もう将来の夢があって、それが叶ったら次は何をするかもちゃんと考えていて。


 私には無理だ。


「志帆ー。もう座ってもいいと思う?」

 円香が駆け足で私の近くにやってきた。


「んー。大体みんな揃ったからいいと思う。行こっか。」


「うん。」


 席に着くとテーブルには朝食が置いてある。


「せーの、、「「「「いただきます。」」」」」

 各々が好きなように朝食を食べ、食べ終わった人から食器を下げ、自室に戻っていく。

「ご馳走様でした。」

 志帆も朝食を食べ終え、食器を下げて自室に戻ることにした。


 ♢♢♢

 自室に戻ったらすぐに制服に着替えて準備をする。


「志帆。行ってらっしゃい。一人で行くの?」

 玄関まで出たところで星りんに会った。


「うん。他の櫻宮の子達は全員高一じゃん。私一人だけ先輩ってちょっと気使っちゃうかな〜って思って。」


「そっか。」

 それだけ話して志帆は施設を後にした。

 ♢♢♢


 今、私が通っているのは櫻宮学園高等部。

『赤い羽』は他の施設と少し違う。

『赤い羽』が行なっている試験に突破しなければ入れないし、試験に落ちれば『青い羽』に落とされる。『青い羽』とは『赤い羽』の姉妹施設。

 私も一年間だけ『青い羽』で暮らしていた。

『赤い羽』に入れば有名な私立中や難関校に通えると聞いたからだ。


 ー私にはどうしても確かめたいことがある。


 そのために櫻宮学園に入学した。

 櫻宮学園に入学した方が手っ取り早いからだ。


『櫻宮学園前ー。櫻宮学園前でございます。』

 バスにアナウンスが流れる。


 志帆はバスを降りた。


 ♢♢♢

「ねぇねぇ、エンジェルの新作号みた?」

「見た見た。」


「お願いだから宿題写させてくれ。頼む。」

「無理。」


「今日の一限なんだっけー。」


 教室に入ると一気にざわめきが聞こえて不快だ。


 うるさいなぁ、、、。


「あ、志帆ー。おはよう。」

 私の近くに来たのは蒼井あおい あずさ。ポニーテールがよく似合う元気な子だ。


「梓。おはよう。水瀬みなもおはよう。」


「おはよう、志帆ちゃん。」

 ボブでおっとりしている彼女は松米まつまい 水瀬。


「ねね、志帆今日はどの部活行くの?」

「んー。今日はテニス部と女バスかな。」

「志帆って他の部はどうでもいい感じしてるけど女バスは結構行ってるよね。」

「、、そうかな。」

「、、、確かに。志帆ちゃん女バス結構行ってる気がする。何か理由があるの?「えー、とねー[キーン コーン カーン コーン]

「ありゃ、チャイム鳴っちゃった。ちぇっ。」

「まぁまぁ。」


 席に戻る二人をただ静かに眺める。

 女バスに行く理由、か。



多分もうすぐで私は女バスにあまり行かなくなるだろう。

まぁ、全部うまく行けばの話だけど。


♢♢♢

あっという間に放課後になっていた。

「志帆、最初テニス部?」

「うん。テニス部にがっつり行ってから女バスにちょっと顔を出す予定。」

「志帆ちゃん頑張ってね。」

「「いってらっしゃーい。」」

梓は美術部部長で水瀬は合唱部部長だ。二人とも見事にインドアなのである。


テニス部の練習場所に着くと大勢の人がもうすでに練習していた。

「こんにちわー。」

「お、志帆との練習今日だったけ。ラッキー。」

峰河みねかわ部長。お手柔らかにお願いします。」

「分かった。本気でやって欲しいんだな。」

「いや、ちが、、。」

「志帆、今日最後まで残るか?」

「いえ。後半からは女バスに行きます。」

「そうか。」


心なしか峰河部長がしょんぼりしたような気がした。


先輩ごめん。今日はどうしても外せない用事があるんだ。


♢♢♢


ーテニス部前半練習終了。


「それじゃ私女バス行ってきますねー。」

行こうとしたら峰河部長に会った。


「なぁ、志帆が女バスに行く理由って美波みなみが関係するのか?」


「、、、、どうして?」

先輩は時々不思議なことを言う。

どうしてここで美波先輩の名前が出たのだろう。

「、、、いや、何となく。」


「峰河部長。それは百合的な意味、それともそれとは違う意味、どちらですか?」


「、、、それとは違う意味で。志帆は百合とか興味ないだろ。、、、ただ、何となく志帆は美波に、、なんかこう、、いや〜な感情抱いてるように感じるんだ。」


「私、そんな嫌な感情じゃなくって憧れっていう純粋な感情を持って美波先輩に接していますよ。それに女バスに行くのはただ単にバスケが楽しいからです。」


「そっか。、、

峰河部長はそのまま部室に戻って行った。


惜しいなぁ、峰河部長。


しかし危なかった、もし本当のことを言い当てられたら私は多分平常に嘘をつけなくなるかもしれない。


峰河部長、残念。


♢♢♢


第二体育館に入ると男バスと女バスで分けて練習していた。

「おひさ〜志帆。今日は何かの用事?」

女バスの副部長 小峯こみね 千春ちはるちゃんが声をかけてくれた。


「ちーちゃん。久しぶり。」

千春ちゃん(ちーちゃん)は高一の頃クラスが同じで仲良くなった子だ。


「ねぇちーちゃん、鳳城ほうじょう先輩っている?」


「いるよー。呼ぼうか?多分志帆が呼んだって言えばすぐ来るよ。」


「できれば、部活終わりに一緒に帰りませんか?って言ってたってことも伝えて欲しいんだ。」


「お〜け〜。んじゃ、今日は見学?」


「うん。そうする。」


♢♢♢

「志帆ちゃん。久しぶり〜。」


「久しぶりです。麗華れいか先輩。」


「お話なら車の中でしない?ちょうど今日、お迎え来てるんんだ。よかったら志帆ちゃん家まで送ってくよ。」


「本当ですか?ならお言葉に甘えてのさせてもらいます。」


「安心して。運転手は絶対口を割らないように私が教育してるから。」

耳元でこそっと囁かれる。


何だ、先輩も気づいていたのか。、、気づいていても態度は平常、先輩は動揺などなかったのだろうか?


目の前に一台クソでかいリムジンが止まった。


「さ、入って。」


中に入るとさらに高級感が溢れていた。


、、、何で元は同じなのに生まれた場所が違うだけでこんなにも差があるのだろうか。


バタン、と麗華が扉を閉めた。


「出発して。」

そしてリムジンはこのまま走り出した。


「先輩私の?」


「大体は、ね。詳しい場所は知らないけどどこらへんにあるかは推測できるわ。近くで降ろしてもいいかしら?」


「お好きにどうぞ。」


「そう。、、カーテン閉めていいかしら。その方が照明が映えるのよ。」

そして、窓をカーテンで遮られた。


「それで、私の可愛い可愛い後輩ちゃん。先輩を呼び出すほどの悩みは何かしら。」

この人、絶対わかっていて言っている。

あたかも自分は関係ないかのように。



「先輩、知っていますか?【海星かいせい 汐里しおり自殺事件】」


「知らないわ。」

嘘だ。目が楽しんでいる。


「、、、かつて人気絶頂にいたアイドルグループ【フェアリ】の元センター海星 汐里の遺体が見つかった事件です。」


「ふ〜ん。それが?」


「海星 汐里の遺体の近くにカッターなどの凶器があり、そのどれもに海星 汐里の指紋が見つかったことから警察は自殺と判断しました。」


「人気絶頂の最中に自殺、ねぇ。少し不思議ね。」


「でしょう?、、それに海星 汐里には死ぬわけにいかない理由もあったんです。」


「それは?」


「先輩も知っていると思うんで言いますね。私、海星 汐里の“隠し子”です。、、、先輩も ですよね。私たち、異父姉妹です。」

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