第3話 異世界『転移』
というわけで、丘を降りつつ、洞窟か岩棚でもないかとうろついてみたんだが……
だめだね。地盤が柔らかいのか、岩窟や岩場に相当する場所がない。
ちょくちょく、丘の傾斜に掘られた穴を見つけるものの、まあ大抵が獣の巣といったありさまで。
角の生えたウサギや、個体ごとに尾の数の違うキツネなんかが出入りしているのを見て、感動したりもしたが、現実的な実りは何もなく―――
初めに立っていた場所が、かなり高くに見えるところまで来てしまった。西日を通り越して、斜陽になった、オレンジ色の光を浴びて、どうしたものかと考える。
近くにはいくつか小川があるし、炎系スキルに、火打ち石もあるから、最低限水にも暖にも困らない。
だが、吹き曝しで野宿するのは……お家に慣れ切った引きこもりには辛いね。
一応、木立や茂みは存在するので、寝てる間に多少天候が崩れても、ずぶ濡れとまでいかなそうだが。夕立みたいに、短期間でも『多少』の限度を超えてこられると終わりだ。
それから、陽が沈んできて気づいたのは、思ったよりここが寒いこと。丘って意外と標高が高い。明るいうちは陽気と言えたが、今は外套でも肌寒いぞ。
一刻も早く火を起こしたいが、うーん……手近な茂みの周りを物色してみると、ちょっと獣道みたいなものが見えたりする。犬っぽい足跡も多数あり、ちょっと大きさ的には控えめなので、さっきのキツネみたいな小型の捕食者ならいいが―――
まあ、いいや。雨で体温を奪われ、衰弱して死ぬより、犬に食われて死ぬ方がコンティニューまですぐだろう。
獣道に押し入ってみると、不意にがさっ!と音がして、―――ああフカシでも『ロングソード』持っといたほうがよかったな、と頭に過りつつ―――案の定、飛び出してきたキツネに胸を撫でおろす。
一匹でいたらしいキツネは、俺のすぐ脇を抜けて、茂みから駆け出していく。悪いことしちゃったな。
初戦闘、ということにならず、まあよかったが。
とりあえず、薪を集めがてら、茂みの中を掻き分けてみると―――五分ほどガサゴソやったところで、開けたところに抜けた。
外に出てしまったのかと一瞬焦ったが、目の前に広がる、澄んだ泉を見て、そうではないことを確信した―――
さっき茂みのぐるりを確認したときは、なかった泉だが―――こんな広いところ、藪の中に収まるか?
岸辺にはリュウノヒゲが生い茂り、甘い香りのする花を咲かせる節くれだった樹が、其処此処に立ち並んでいる。
透明な水は、水底をきれいに見通すことができ、金銀のきらびやかな鱗を持った魚が優雅に泳ぐ姿もはっきりと観察できた。。
そしてその、澄み渡る泉の真ん中に、苔むした、小さな祠がひとつ、ぽつんと立ち尽くしていた。
それは神秘的で、何となく惹きつけられてしまうような美しさを醸し出しつつ―――よく見れば、おどろおどろしい、蚯蚓ののたくった後のような文字が、そこら中に彫刻されている。
チュートリアルの言っていた、【信仰】と【冒涜】―――それに通ずるイベントが起こるのではないかと、俺は期待して近づいてみると―――
突然、バヂバヂバヂバヂィッ!!!!と何かの爆ぜるような音がして、周囲の景色が歪み始めた。
―――しまった!トラップか!?―――
しかし、弾ける音は一向に鳴りやまず、徐々に手足や、目、耳の感覚がビリビリと痺れていく―――立っていられなくなった俺は、水の中に這いつくばりながら、ゲームを終了しようとしたが、システムメニューが現れない―――バグか!?とも思ったが、しかし、チュートリアルが無慈悲に告げた。
《特殊イベント『アクトブート・リブート』が、発生しました―――》
パキパキパキパキ、と脳の中に、何かが這入り込み、植え付けられていく―――そんな感覚に、意識を支配されていき―――ブツリと、闇に途切れた。
ハロー!異世界~VRゲームに興じるはずが、邪神に導かれて異世界転生!?~ 赤夏デンデロデロリアン @neneko_gg_8
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