第9話 入学 

「だがまだ結界を教えていない」


「教えていただけるのですか?」


「これからも鍛錬と瞑想を続けるのが条件だがな」


「よかったです。帝国から帰還命令が出ていたのを伸ばしていたのですが、流石にこれ以上は厳しかったもので」


 ならとっとと教えるか。

 基礎訓練さえ欠かさなければ使える程度にはなるだろう。

 本当はもっと基礎ができてからのほうがいいから、マリオネット以外は教えていなかったし、それ以外の魔法の行使は基本禁止していた。



「俺の後ろに立て。そして後ろから俺の手に触れていろ。ガードシェル」


 俺の周囲に見えない結界が張られる。


「結界が見えるか?」


「いえ、見えません。何かがあるような気がするのですが、ボヤけていて集中していないとそれすらもわからなくなりそうです」


「力量に差があるとそうなる。ぼんやりでもわかるだけまだマシだ。じゃあ、やってみろ」


「もう一度発動してもらえませんか?」


「仕方ねえな。ガードシェル」


「ありがとうごさいます。詠唱はないのですか?」


「禁術や秘術以外には必要ねえな」


「……わかりました。ガードシェル!」


 そういうとクレアの周りに赤い結界が展開される。


「まあまあだな。色がついているのは魔力の練りが足らないからだ。いずれは無色になる。あとは寝る前に展開して消す、展開して消す、を繰り返していればいずれは寝ている間にも展開し続けることができるようになるさ」


「精進します」


「暇があったらまた見てやる。絶対に基礎訓練を欠かすなよ。それとアドバイスだ。クレアは補助が向いている。それから杖を持つなら棒術も使えるようにしておいたほうがいい」


「私の部隊は、私以上に強い人は来ません。今いる部下も、私とジェイドの訓練に参加しようとすらしなかったでしょう。出世から溢れた者がよこされてくるのです」


 一度魔人に殺される恐怖を味わっているのも拍車をかけているだろうな。

 強い意志のない人間には何を教えても無駄なんだ。

 能力が多少あっても向上心がない人間などクソの役にも立たん。



「それは俺にもどうしようもないな。俺が教えた訓練法は天才以外誰にでも使える。信頼できるやつがいれば実践させておけ。でないとクレアがいつか死ぬぞ。マリオネットは教えるな。乱用されると困るからな」


「はい、ジェイド。ありがとうございます」


「じゃ俺は失った青春をとりもどすとするか」



◇◇◇



 帝国第一学園は人材を広く育てるための場所である。

 平民であっても入学でき、費用は最低限しかかからない。

 だが学園の維持費用は貴族が国に納める金により賄われており、それを聞かされている貴族の子女は自然と平民を侮蔑することになる。

 平民は平民で学園で優秀な成績を収めやがては貴族に取り立てられるようにと親の願いを背負ってくる者が多く、それらの理不尽にも耐えるしかなかった。



 ジェイドはフォルクナー帝国の首都フォルクにある帝国第一学園の前にテレポートしてきた。


 そこでは、赤髪のメイド服を着た若い女性が待っていた。


「あなたがジェイド様ですね? 私はナタリア=レッカーと申します。クレア殿下から従者の役目を仰せつかりました。以後よろしくお願いします」


「ああ、よろしく頼む」


 その目は猜疑心が支配していた。

 クレアめ、俺のことを説明していないか、説明を聞いたが納得していないか。

 まあ、どっちでもいいか。



◇◇◇



 入学は年一回だが、偉い人のゴリ押しがあれば途中からでもできる。


 入学のクラス分けはきっちり行われる。

 やはりマナレベルの測定だ。

 さっそく測定器にかけられるが、Fランク下位を示していた。


「やり直しを要求します」


 そう言ったのは従者のナタリアだ。

 担当官が困った顔をしている。


「私が触れてもいいですか?」


「ええ、かまいませんが……」


 そうしてナタリアが魔道具に触れると、測定器の針が動いてSランクを示していた。


「壊れていないでしょう。というかSランクのあなたに入学してほしいのですが」


 担当官は言う。

 そりゃそうか。


「私は3年前に卒業しております。入学希望はこちらの方です。ですがFランク下位などと、あの方に恥をかかせるようなことが……」


 何度やっても同じなんだよな。

 触れてわかったんだが、零れ落ちる魔力から逆算して本人の総魔力量を弾きだしてる。

 だから俺が意図的に魔力を垂れ流さない限りFランク下位は変わらん。


 前世では測定器なんてものはなかった。

 誰もが認める強い人間がいて、そいつと比べてどうか、という評価をしていたんだ。

 それと比べるとわかりやすい基準があるのはいいことだ。


 だが俺みたいなのは測れない。

 多分クレアもそのうちそうなるだろう。


 なんにせよ進歩があるみたいでよかった。


「ですが、推薦なのにこの程度とは…… 誰が推薦したかはわからんが見る目がないもんだ」


「どういうことですか?」


 聞いてみる。


「途中で入ってくるやつは推薦されるくらいだから大抵Bランク以上の実力者が来るんだよ。他国からの留学生とか、なんかの理由で当初に間に合わなかったやつとかな。Fランクなんて初めてだ。お前、なんか実力を隠してるのか、なんてな」


「Fランクだと入れないんですか?」


「推薦ありきだからそういうわけではないんだが、実力もないコネ野郎とか言われるぞ。いろんな人間がいるこの学園に人脈を求めてやってくる奴もいるからな。それを乗り越えるのも本人次第かもしれんが、かなり厳しいと思うぞ」


 お、案外優しいんだな、この担当官。




◆◆◆◆◆◆


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堕ちた最強英雄のやり直し~クズどもが何でこんなに弱いんだよ、仕方がない助けてやる 気まぐれ @kimagureru

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