第8話 訓練 

「瞑想中はな、視覚しか絶っていない。何も考えないというのはただ単に視覚しか絶っていない状態を維持しているだけだ。魔力は向上しづらい。正しくは五感全てを断つことだ。俺が目を瞑るから、俺に手刀を落としてみろ」


 そういうと俺は眼を瞑り瞑想状態に入る。

 クレアは……

 バカ正直に真正面から手刀か。

 すこし首を傾けてかわす。


「ジェイドから何も感じとれない……。五感を絶っているのにどうしてかわせたのかしら……」


「五感を絶つとな、自分以外の物がはっきりと知覚できるようになるんだ。最初は自分のごく周囲しかわからないが、慣れれば慣れるほどその範囲は広くなる。だから自分への攻撃もかわせるようになる。さらに、周囲の状況から今度は自分の内部を少しずつ知覚できるようになる。それが魔力の向上につながる」


「私は知覚が足りない、ということですか」


「そうだ。あの魔人も俺の魔力を知覚できていなかった。相手の力を正しく把握できない者は死ぬ。撤退が選択肢に入ってこないからな」


「瞑想時に五感を絶つように『何も感じない』を意識すればよいのですね?」


「そうだ、まずは30分か、疲れるまでだ」


 そしてクレアが瞑想を始める。

 俺も久しぶりにやろうか。

 とはいえ、肉体がない状態が長かったせいか以前よりはやく瞑想状態に至れるな。

 自分がいったん消えていき、周りの環境に同化する。

 そして自分の輪郭が浮かんでくる。

 まるで自分を離れた場所から見ているように。



◇◇◇



「ジェイド様! ジェイド様! ジェイド!!」



 身体を揺さぶられて、自分が戻ってくる。

 ちょっと没入し過ぎたようだ。


「どれくらい経った?」


「1時間ほどです。微動だにしないから死んだかと思いましたよ」


 そんなにか。

 だが分かったことがある。

 この肉体、もともと魔力が極端に少ない。

 なるほど、マナレベルとやらがFランク下位というのもうなずける。

 しかし俺にとっては好都合だった。

 大量に魔力を練りまくった俺の魂が入る隙間が十分にあったのだ。

 そうでなければ俺の膨大な魔力に耐えられず肉体が爆散していただろう。


「クレア、なんでもいいから魔法を使ってみろ」


「ファイアボール」


 クレアは火の玉を出してその場で浮かべた。


「前との違いがわかるか?」


「はい。魔力の消費が少し減った感じがします。そして、威力もそれに合わせて少し上昇したような」


「初めてでそこまで感じられれば上等だ。毎日続けろ。次はランニングだ。疲れて動けなくなるまで走れ」


「ジェイド、疑うのではありませんがそれはいったい魔力とどう関係があるのでしょう?」


「大アリだ。肉体は魔力の媒体でもある。貧弱な肉体では十分に魔法の威力を発揮できない。魔法使いは肉体を鍛えないのか?」



「いえ、あまりそういったことは重視されないですね。魔法使いと戦士は別枠で考えられていますわ」



 バカな。

 土台は共通のはずだ。

 肉体を鍛え、魔力を練る。

 その上で個人の得意不得意に合わせて武術を選ぶか、魔法を選ぶかの違いでしかない。


 俺の師匠だった剣聖も魔法はそこそこ使えた。

 賢者や聖女にしても、丸2日程度なら寝ずに動けていた。

 俺も魔法は苦手とはいうが、どうしても魔法を使わざるを得ない場面はあったし、あれば便利というものは一通り身につけている。


「とにかく走れ。身体を使い込め。そのあと便利な魔法を教えてやる」


「はいっ!」



◇◇◇



 2人してシュワルツ伯爵領を走り回る。

 が、俺はクレアより先に体力の限界が来ていた。

 仕方がない、12歳でマナレベルがFランク下位と判定されて以来ジェイドは魔法の練習しかしていなかったのだから。

 体力が尽きたら休憩。

 身体は一朝一夕では仕上がらない。

 限界まで動き、休む、を繰り返すしかないのだ。

 体力が尽きた後は、クレアと並走していた。



「ジェイド、もう動けません……。先に体力が尽きた、と言っていたのにどうして並んで走っていたのですか?」


「それはちょっとしたズルだ。約束通り教えてやる。操身魔法マリオネット。クレア、立ち上がって右腕を上げろ」


「え、あ、身体が勝手に立ち上がって動く!」


「魔力で無理やり身体を動かす魔法だ。身体は一切使わないから休息を取れつつ活動ができる。魔力が尽きなければな」


「そんな魔法が……」


「地味だが便利だぞ。他人を操るのは難しいが、自分で自分を動かす分には難易度は低い。何回かかけてやるからそのうち覚えるだろう」



「そしたら訓練で疲れ果てても事務作業ができますわね」


「そういうことだ。基本的かつ最短かつ効率的なのは鍛錬と瞑想を交互に繰り返すこと。魔法の修得は後からでもいい。というか魔力の総量が少ないとそもそも魔法の数をあまり覚えられないからな、急がば回れ、だ」



◇◇◇



 そんなことを繰り返して一ヶ月。

 俺は剣の素振りも追加で行っているが、頭の動きと体の動きが全く一致しない。

 これでは使い物にならん。

 マリオネットで昔の動きは再現できるが、それも魔力ありきの話だ。

 そしてそれは本来の動きより劣る。



 クレアはといえば、たった一か月ほどで魔力が1.5倍ほどに増大していた。

 マリオネットも早くに修得した。

 マナレベルのSクラスなんて当てにもならんと思っていたが、才能の有無を当てるにはいいのかも、なんて思うくらいだ。

 ただ、これでもまだ前世だと雑兵レベルだ。

 一般人に毛が2本生えたくらいかな。


「ジェイド、入学の準備ができました。いつでも入学できます」



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堕ちた最強英雄のやり直し~クズどもが何でこんなに弱いんだよ、仕方がない助けてやる 気まぐれ @kimagureru

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