第7話 条件 

 俺の寝込みを襲って殺そうとしてきたフレッドを殺してもいい代わりに、姫様から頼みごとがあるという。


「まずはアンタの願いを聞かせろ。それから判断する」


「ええ、魔法を教えてほしいのです。差し当たっては身を守る結界。睡眠中でも相手を撃退できるほどのものを」


「えらく買い被られたもんだな。俺がまるっと嘘をついてるかもしれないんだぞ」


「いいえ、数々の失伝魔法ロストマジックを使いこなせて、私に対して価値を見出していないあなたが嘘をつく理由が見当たりませんわ。それに平民ではないでしょう。これは私の感覚ですが、あなたの立ち振る舞いは貴族のことを知っているように思われましたので」


「教えてやれんこともないが、それよりは帝位継承を放棄するとか帝国から出て行くって方法もあるんじゃないのか?」


「継承権を放棄したところでおそらく私が邪魔なことに変わりないでしょう。なにより後ろ盾がなくなる私は今までのように自由に各地を回って魔物の退治ができなくなります。帝国を出奔するのも同じこと。今の地位を維持しつつ活動しなければ意味がないのです」


 民のため、か。

 現実も見えているんだな。



「……わかった。引き受けよう。俺が欲しいのは情報と環境だ」


「よいのですか? 私の言ってることが本当かどうか確かめないのですか? 魔法で調べられるのでしょう?」


「自ら茨の道を行くというやつの言葉は信用できるものさ。それだけで十分だ。見込み違いだった場合は俺が未熟だっただけのこと。まずはこいつを始末する。炎魔法フレイムスフィア」


 フレッドは炎の球体に包まれ、その中で燃え尽き後には灰すら残らなかった。

 当然遺言なんぞ聞いてやらない。


「フレッド、残念だわ……。裏切っていたなんて。それでジェイド様は何を知りたいのでしょうか?」


「魔人ハ傑衆とはなんだ?」


「魔人の中でも最上位の8体を指しますわ。そして魔王直属の最大戦力。八傑衆一体倒すのにSランクが最低10人必要で前回は10人中8人を犠牲にしてようやく倒しましたわ。ジェイド様が倒したのは『黒羊のグリムス』と呼ばれる個体でした」


「姫さんがSランクなんだろ? なら魔王はほっといていいな。気が向いたら倒しに行くか。ハ傑衆があの程度なら魔王の強さもしれたもんだ」


「ジェイド様ほどの魔法の腕ならばそうかもしれませんが……」


「言っとくが俺は魔法は苦手だぞ。本職は剣士だからな。そうだ、聖剣エクスカリバーを知らないか? リオンが所有してたんだが」


 師匠に弾かれてからどうなったかな。


「本職が剣士……? それに、英雄リオン様は聖杖アポカリプスで魔王を打倒したと伝わっておりますが?」


 

 んなバカな。

 アポカリプスは賢者が持ってたんだぞ。

 しかも聖杖じゃなくて魔杖だしな。

 魔王との決戦のときに壊れたからもうどうでもいいが。



「どうやらジェイド様の認識と世間の常識が違いますわね。いかがでしょうか、帝国第一学園に通われては? 12歳から入学可能ですわ。従者も世話させていただきますね」



 学園というのはジェイドの記憶によると若者を集めて教育を施す場所のはずだ。



 ジェイドが生まれ育ったランディ王国にも魔法学園というものがあったが、マナレベルがBランク以上ないと入れなかったためジェイドは行くことができず、魔法に関して独学とならざるをえなかった。

 そのため、今のジェイドには現代の魔法に関する知識は乏しいものだ。



「ならば世話になろうか。この身体は知らないことが多すぎる。んで、エクスカリバーについて何か知らないか?」


「いえ、わかりませんわ。こちらで調べておきましょう」


「それでまずは姫さんの身を守る結界か。さっそく始めてもいいか?」


「はい。ですがその前にクレアとお呼びください。こちらは教えを乞う立場ですので」



◇◇◇



「クレア。早速だが、見た感じ俺の強さをどう思う?」


「えっと……、特にこれといって感じませんわ。あれだけの魔法を行使できるのに不思議なのですが」


「それはクレアが未熟だからだ。ファイアボール。これでどうだ?」


「恐ろしい魔力……」


「普段は魔力を外に出さないんだ。必要な時だけ放出する。でないと魔物から場所を察知され奇襲を受けるからな」


「私はジェイド様からどのように見えているのでしょう?」


「ジェイドでいいぞ。クレアは、一般人に毛が生えたくらいだな」


「『黒羊のグリムス』は?」


「毛が3本生えたくらいだな。ため息で吹き飛ぶくらいだ。魔力も垂れ流しだし話にならんかった」


「これでも私はマナレベルはSクラスなのですが……」


「マナレベルとやらの測定の上限が低すぎるんじゃないか? 調べてみんとわからんが。それでだ、クレアはまず瞑想からだな。基礎能力の底上げが先だ」


「瞑想なら欠かさず行っています」


「やってみろ」


 クレアが目を瞑る。

 体が身動きひとつしなくなる。

 俺はクレアの頭に軽く手刀を落とした。


「痛っ」


「避けられない、か。瞑想中何をしている?」


「何も考えないようにしています」


 それではだめだな。

 あんまり魔法は得意じゃないが、約束だから俺が伝えられることは全て伝えよう。

 ま、これも賢者からの受け売りになるがな。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます。


 次回、ジェイドのパーフェクト瞑想教室。

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