第6話 裏切り
side クレア
ジェイドが転移魔法を使い、横転した馬車ごとクレア、フレッドと隊員たちをまとめてシュワルツ伯爵邸へと移送する。
「本当にシュワルツ伯爵邸だわ……。フレッド、これでもまだ彼の実力を疑うのかしら?」
「いえ、姫様」
「ならば彼のことは私同様に接すること、いいわね。これは命令よ」
「はっ、承知いたしました」
「これは思わぬ戦力になりそうね。なんとしても協力してもらわないと……」
「…………」
フレッドは危機感を覚えていた。
◇◇◇
これでいいだろ。
どっか宿を城下町で探すとするか。
「それでは姫様、私はこれにて失礼します」
「待って、どこへ行くの?」
「適当な宿屋で泊まります」
「私たちとここに泊まりなさい。聞きたいことがありますわ。たくさん」
「それはまた明日にしましょう。姫様たちはかなり疲弊しています。休めるときには休むのも任務のうちではないですか?」
実のところ、俺もかなり疲れている。
魔人と対峙して精神は高揚していたが、時間が経つにつれ身体の疲労が自覚されてくる。
身体は魔力で無理やり動かしているくらいだ。
要は魔力による操り人形だ。
早く身体を休めないとな。
ここは姫さんの言葉に甘えて俺も伯爵邸で泊めてもらうことにする。
◇◇◇
翌朝。
シュワルツ伯爵邸の一室を借りて姫さんと向かい合う。
「さてジェイド様、昨日のお礼をしなければと思うのですがその前にフレッドを見かけませんでしたか?」
「ああ、彼ですか。昨夜私のところに無断で侵入したので捕らえておりますよ」
「何ですって! それは本当なのですか?」
「ええ。私が寝ている場所には結界を張っていたのですが、武器を持って入ってこようとしたところ結界に触れて気絶していました。連れてきましょうか?」
「信じられませんが……。フレッドにも話を聞かなければなりません」
一応聞いてやるか。
結果は分かりきってるけれども。
「テレポート!」
俺は魔法を発動し、簀巻きになったフレッドをここに転移させた。
「フレッド、貴方いったいどういうことなの?」
「姫様、この平民が私を不当に拘束したのです!! 早く解け、処刑するぞ!」
「大した実力もないのに口はでかいな。戦場ならとっくに死んでるんだぜ?」
「何をっ!」
「懐にある毒の短剣で俺を殺そうとしたんだろ。人を殺していいのは殺される覚悟のあるやつだけだ。俺を殺しに来たんだから殺されても文句を言えんだろ」
「フレッド、貴方……」
「姫様、この下賎な平民と副隊長の私のどちらを信じるというのですか? もちろん私ですよね!」
うん、どうしようもねえなコイツ。
「貴様の記憶はすでに読み取っている。姫さん、あんたには少々酷だが聞くか? こいつの行動にあんたが関わっていないのはわかっている」
「姫様、聞いてはなりません!!」
「……教えてください」
「そいつはな、アンタの監視役だ。アンタは遊撃部隊隊長として実力もあり各地で魔物を撃退していて民から評判がいい。次の皇帝と言われるほどにな。だが名声が高まりすぎて最近は邪魔になっていた。現皇帝もそうだし第一皇子などからしても帝位を脅かす存在と思われているわけだ」
「私はそんなつもりは…… ただ苦しんでいる民のために戦っているだけなのに」
「アンタの主観は関係ねーよ。そんで、今回の八傑衆出現を利用しアンタを亡き者にしようとしたわけだ。ところが俺が現れて失敗。さらに八傑衆を撃破した俺を姫さんが勧誘しようとしている。俺が姫さんの配下に入ればますます暗殺は難しくなる。そこで俺を殺してしまえとなったわけだ。寝込みを襲えばイケると思ったのが浅はかなんだよ。睡眠なんて暗殺に絶好の場面の対策しないわけないだろ。お前らは何かにつけて甘すぎんだよ」
魔王討伐の旅なんか魔物や魔人の奇襲、暗殺は当然だったんだぜ。
お陰でそれを防ぐために気配には敏感になっていつでも起きるなんて特技も身についたし、賢者に至ってはそのせいで結界魔法が得意にならざるを得なかったからな。
「そんな……」
やっぱ純粋な姫さんにはキツかったか?
追い討ちをかけるようだが姫さんに聞くことがある。
「貴族が平民を殺害した場合処罰はどうなるんだ?」
「……平民の家族にいくばくかの金銭の補償をすることになるわ」
「それだけか。話にならんな。俺はこいつを生かしておくつもりはない」
「貴様、平民の分際で私を殺すというのか!? 姫様、これは問題になりますぞ!」
「余計な心配だ。跡形も残さんからな」
「……そうですね」
「姫様! 正気ですか!?」
「ジェイド様の言うことが本当なら、フレッドがこの場を切り抜けたら必ずお父様に報告が行くことになる。ここでフレッドが八傑衆に殺されたことにすれば時間を稼げますわ。私も身の振り方も考えられる」
頭は悪くないみたいだな、この姫さん。
「フレッドはジェイド様の好きにしていただいてかまいませんわ。その代わり私のお願いを聞いてほしいの」
「いや、俺はアンタの意見に関係なくこいつは殺すと決めている。だからアンタの言うことを聞く理由がない」
「であれば私にできる範囲で対価を差し上げます。これでも皇女です。何かお望みのものはありますか? 必要であれば私でもかまいませんわ」
「姫さん、意味わかって言ってんのか?」
「ええ。経験はありませんが教育は受けています」
この姫さんがそれを捧げなければいけないような願いとはなんだ?
「まずはアンタの願いを聞かせろ。それから判断する」
◆◆◆◆◆◆
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