第5話 皇女様 

「あ、あなた一体何者なの……?」


 魔人を滅殺し騎士たちを生き返らせたところで、怯えた少女がこちらを見ていた。


「いつから見ていた?」


「えっと、ファイアボールが辺りを照らしたところから」


「そうか。生きていたのか」


「貴方は何者なの? その恐ろしい魔法はいったい? リザレクションと聞こえたけど失伝魔法ロストマジックの蘇生魔法を使えるの?」


「お嬢ちゃんよ、まずは先に名乗るのが礼儀じゃないのか? もっと言えば命を助けた礼も必要だと思うがな」


「あっ…… これは恩人に対して失礼しましたわ。助けていただき感謝いたしますわ。私はフォルクナー帝国皇帝の王女クレア=フォルクナー。フォルクナー帝国魔法遊撃部隊隊長でもあるわ。これでいいかしら?」


「ああ、そうだな。あんた皇女様か。俺はリオン……じゃなかった。ジェイドだ。ただのジェイド」


「貴様、さきほどから黙って聞いていれば姫様になんて口の聞き方だ! 子どもとはいえ容赦はせんぞ」


 クレアと共に魔人に抱えられてかろうじて生きていた騎士が口を挟んできた。

 子どもだと!?

 俺は24だぞ…… 

 じゃなかった、今は14歳だったな。


「ミラーシェイド」


 俺は身代わりの分身を作り出し自分の姿を見てみる。

 うーん、幼いな。

 それに肉体が貧弱だ。

 それはともかく確かに言葉遣いがあまりよくなかったかもしれん。


 そして記憶によると確かジェイドは金髪碧眼だったはずが黒目黒髪に変わっていた。

 黒目黒髪はリオンの肉体のもの。

 ジェイドの肉体も魂に合わせて変質したか。

 ということは、グランアークの血筋というのは嘘だな。

 だいたい、この肉体の前の持ち主の魂の残滓を見ても、今の俺と共通するところが全くない。

 俺の血を引いているならもっと肉体が頑強なはずだ。

 前世の俺は魔法が苦手で剣がメインだったんだからな。



「ジェイドが増えた……?」


 皇女様はびっくりして目が点になっている。


「この子どもは一体何者なのだ……?」


 騎士様も驚いている。


「ただの身代わりの魔法ですよ。私の千分の一しか魔力がありませんが」


「フレッド、ミラーシェイドという魔法聞いたことあるかしら?」


「いえ、寡聞にして存じませぬ。ジェイドとやら一体その魔法どこで修得した」


「たくさん見ていたからです」


 魔法は苦手だったんだけど、観るのは得意だったんだよな。

 てかその見抜けないと死んでたし。

 この時代はどんだけ退化してるんだ。



「答えになっていませんわ」


「たくさん見れば嫌でも覚えますよ」


 皇女様とやり取りしている間、騎士さんが何かに気づいたようだ。


「この黒い塊は…… 魔人の魔石か! 姫様、お喜びください! 魔人の魔石ともなれば莫大な魔力がありましょうぞ」


「触るな!」


 俺は大声を出して止める。


「何故だ? 貴様さては魔石を横取りするつもりか?」


 はあ、横取りも何も俺が倒したんだがな。


「違います。普通の魔物と違ってまともな魔人ならば魔石を残したりしません。そんなことしたら人間の戦力強化に利用されるのが目に見えてますからね。最後の最後まで魔力を使い切って死ぬか、さもなければ死ぬ間際に自分に呪いをかけて呪われた魔石を残して罠に嵌めるかです。ご存知ないですか?」


「そんな話聞いたことないわ」


 またか、何にも知らないんだなこの姫様は。

 今回が初陣だったか?

 それでも事前の知識が足りなさすぎる。



「あんな雑魚魔人だから死ぬ間際に呪いを残すなんて器用なことができたとは思いませんが、一応身代わりの私に触らせてみましょうか。……呪いはないみたいです。いらないから差し上げますね」


「貴様、言葉づかいが多少丁寧になっただけで上から目線に変わりはないではないか!」


「やめなさい、フレッド。これほどの魔力を持つ魔石がいらないとは、あなたは一体どれほどの魔力を有しているのです?」


 おお、姫様のほうが物分かりがいいな。


「この程度なら自然回復で事足ります」


「戯言を!」


「フレッド、この方は失伝魔法ロストマジックを無詠唱で使えるのよ。ただのライトボールで魔人を消滅させ、リザレクションで隊員を蘇生させた。どうやら彼から学ぶことがたくさんありそうね」


「信じられぬ……。リザレクションができるなら教会が放っておきませんぞ。それに、マナレベルSランクの姫様が名字すらない下賎な者から学ぶことなど……」


「魔王の軍勢に苦しむ民のためであれば、相手が誰であれ教えを乞いましょう」

 


 民のため、か……。

 その言葉が本当であれば姫さんに協力してやらんこともないな。

 だがまあ、それは後だ。

 今はやりたいことがある。


 とりあえずこんな場所からはさっさとおさらばして、まともな屋根のあるところで休みたいもんだ。

 ついでだから姫さんたちも運んでやろう。



「この辺にまともな宿はありますか?」


「ないわね。暗いし今日は野宿かしら。でもあの魔人に襲撃されて道具も使い物にならないわ」


「では、拠点は?」


「このあたりを管轄するシュワルツ伯爵邸よ」


「であればその場所を思い浮かべてください」


 そして俺は姫さんの頭に手を置いて場所を読み取る。


「貴様、姫様に対して無礼だぞ!」


「申し訳ありませんが、未熟ゆえに直接手を触れませんと情報を読み取れないのです。ご容赦ください」


 俺のパーティメンバーだった賢者は見えない魔力の手で触れて読み取っていたしな。 

 どうもあれは才能によるんじゃねえかな。


「それで、どうするつもりなの?」


「転移魔法でシュワルツ伯爵邸まで移動しましょう」


「また失伝魔法ロストマジックの名前が聞こえてきましたけれど」


「それでは、転移魔法テレポート」





◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます。


 ロストマジックのバーゲンセールですね。

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