第4話 覚醒 

 ランディ王国内だとグランアーク家の手が回って僕は何もできないかもしれない。

 父上かライトかどっちの差し金かわからないけど。

 もしかしたらアリシアかもしれないな。

 元婚約者なのにあの明るい笑顔が全て演技だったし、あのときの蔑むような目からするとアリシアも一枚噛んでるかもな。

 

 一番近いのはフォルクナー帝国だ。

 ランディ王国とは中立の立場にある帝国だったと思う。

 

 お金を節約するため、街道を徒歩で行く。

 子どもの足でも一日かければ何とか途中の小屋とかで泊まれるだろう。



 2日ほど歩き通し、一刻も早く王国を離れたいという思いから無理やり3日目も歩いたが、日も落ちて薄暗くなってきたのに次の町が遠い。

 やっぱり無理せず一日休みを入れればよかったかな。



 少し先で馬車らしきものが見える。

 もしかしたら馬車に乗せてもらえるかもしれない。


 でも近付くと馬車が横転するのが見えた。

 何かあったのか。

 

 さらに近付くと鎧を着た騎士が何人か馬車にもたれかかっていて、そこらに血だまりが見える。

 多分息がない。


 まさか街道のモンスターに襲われた?

 でもみたところかなり高級そうな鎧に武器だ。

 このあたりのモンスターに後れをとりそうにないんだけど。

 ていうか街道沿いの魔物は定期的に駆除されているはずだからそれもおかしいのだけど。


 さらに少し離れたところから少女の悲鳴が聞こえてくる。

 そして、大男が両脇に人を抱えて馬車のところにやってきた。

 片方には少女、もう片方には大柄な騎士を抱えている。


 二人が無造作に馬車に投げられる。

 

「ん、なんだ全滅させたはずだがまだ人間がいたのか?」


 そいつは大柄な男だが、頭の両側から人間にはないパーツの角が生えている。

 全身が黒い毛皮みたいなもので覆われている。


 これは、もしかして魔人……?



◇◇◇


 

 大陸の遥か北方には魔王の支配する国がある。

 進化を繰り返した魔物は人型となり人間同様の知性を獲得し言葉を操り魔法を操る。

 最上位群に位置する魔物は魔人と称され、魔物とは一線を画する力を有している。

 

 その魔人たちが奉ずるのが魔王。

 皆が知る英雄リオンがかつて魔王を滅ぼしたはずだが、今の魔王は昔の魔王が復活したのかそれとも別の魔王なのかは定かでない。

 

 なぜ魔人がこんなところに。

 その前に命の心配をしなければならない。


 でもその必要もないかもしれない。

 魔人に対抗できるためには人間側で最低でもSランクが必要。

 家を追放された挙句何もできずにこんなところで死ぬのか……。


「なんだその少ない魔力は? 犬以下だな。魔法を使うのももったいない」


 そう言うと魔人は僕に向かって指を軽く弾いた。

 そして僕の腹に拳大の穴が空いた。

 僕の意識は闇へ沈んでいった……。



◇◇◇



 ああ、腹の辺りが痛いな。

 今までの痛みと違ってやけに具体的な痛みだ。

 とっさに回復魔法を使用すると痛みが引いていく。

 魔法もちゃんと使えるようになっている。

 あれほど魔力を練り続けたんだから当然か。


 目を開こう、と思ったら目が開いた。

 肉体があるぞ!!

 薄暗いな。

 ここはどこだ。


 起き上がると大男が何やら詠唱している。

 すぐに男が俺に気づいて詠唱を中断する。


「なぜ生きている。腹に穴を空けたはずだが。アンデッド化か? そんなことはしていないしアンデッド化には早すぎる……」


 つーことはこいつが俺の腹に穴を空けた犯人か。


「くっ……」


 いきなり14年間分の記憶が脳に流し込まれる。

 この体はジェイド=グランアークというのか。

 確認はあとにしよう。

 目の前の魔人を滅さねばな。


「おい、魔人。なぜ生きている。俺が魔人を全て滅ぼしたはずなんだがな」


「何を言っている人間。我らは滅ぼされてなどいない」


「まあいい。面倒だがまたやり直しか。ちょうどいいな。封印されている間に鍛えた魔法の実験台になってもらうぞ。ファイアボール」


「!」


 とっさに躱した目の前の魔人に火の玉が掠っていく。

 掠った左腕が燃え尽きた。

 そして魔人の後方で大爆発が起こる。

 おお、なかなかの威力じゃないか。

 痛い思いをしながらひたすら魔力を練り続けた甲斐があったな。


「バカな! 最下級の魔法ごときで我の左腕が…… めぐる生命の鼓動……」


「ウインドカッター」


 何やら詠唱を始めた魔人の右腕を風の刃で根元から切り飛ばした。


「ぐはっ、なんだと」


「敵を目の前にちんたら詠唱してんじゃねえ。盾代わりの前衛もいない、再生魔法ごときで詠唱する、魔法防御も紙のよう。魔人とはこんなに脆かったか?」


「貴様、言わせておけば!!」


「激昂する暇があるならさっさと回復してかかってくるんだな。サービスだ、少し待ってやる。早く回復しろ。さあ、早く、早く、子どもじゃねえんだぞ」


「貴様、どこまでも虚仮にしおって!! めぐる生命の鼓動よ、記憶せし我が肉体を再生せよ。リジェネレーションヒール!」


 そしてゆっくりと魔人の両腕が生えてくる。


「おおー、すごいすごい。魔法の練度も低すぎるぞ。両腕ぐらいならただのヒールで治るだろうに。魔力の質は犬以下だな」


「貴様……!」


「お前の最強魔法を見せてもらおうかと思ったがやめだ。やっぱ期待できん。ライトボール」


 光の玉をぶつける。

 もちろん最下級の光魔法だ。


「ぐわあああああ…… 魔人八傑衆のこの我がああああ……」


 魔人は跡形もなく消えた。


「さて、こいつらを生き返らせるとするか。蘇生魔法、リザレクション!」


 馬車を囲むように魔法陣を起動し青白い光が陣を包む。

 魔人に殺されたばかりの騎士たちを生き返らせた。

 死んで一日以内で肉体の大部分が残っていれば復活は可能。

 なお、生きている人間がいれば体力を全快させる。



「あ、あなた一体何者なの……?」


 怯えた少女がこちらを見ていた。



◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます。


 追放初手でやばい敵を倒し高貴なる人を助けるというテンプレ。

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