第3話 追放 

「この恥さらしめが、英雄の血を引く家系でありながらろくに魔法も使えぬとは。貴様はグランアーク家から追放する。二度とこの名を名乗るな!! どこへでも行けい!」


「そんな、お父上。もう少しお時間をください。きっと、きっと魔法が使えるようになります!!」



 英雄の血筋と言われるグランアーク侯爵家の当主であるリチャード=グランアークは長男であるジェイドに追放を言い渡していた。



「貴様、2年前にもそう言ったな。12歳の誕生の日、マナレベルの測定の儀式において判明した貴様のランクはなんだった、言ってみろ!」


「……Fランクでした」


「違うであろう。Fランクの下位だったな。平民ですらFランクの中位はあるのだぞ。それでも何かの間違いと思い今日まで我慢してきたのだ。この2年間貴族社会で私がどれほど後ろ指を刺されてきたかわかるまい。妻が薄汚い平民と交わったのではないかと未だに噂されるのだぞ」


「申し訳ありません」


「父上、大きな声が聞こえてきましたが」


「おお、ライトよ。我が優秀なる跡取りよ。この不出来な兄に勘当を言い渡しておるところだったのだ」


「さようでございましたか。父上もよく我慢なさいました。ちょうどよかった、僕も兄上、いやに伝えることがありましてね。アリシア、入ってきてよ」



 当主の書斎に入ってきたのは次男のライト=グランアーク。

 そのライトに呼ばれて入ってきたのは金髪の美少女アリシア=トライハウス。


「ご機嫌よう。リチャード様、ジェイドと婚約を解消しライト様と婚約を結ぶことにわが父の了承が得られましたのでご報告に参りましたわ」


「えっ…… そんな、アリシア、嘘だよね?」


「平民の分際で私を呼び捨てるなんて汚らわしい。ですが寛大な私が教えてあげますわ。先日のマナレベル測定の儀式でライト様のランクがAランクと判明しましたの。私は弱い者は嫌いですの。あなたとの婚約は解消し、優秀で強いライト様の婚約者になりますのよ」


「あんなに仲良くしてくれたじゃないか……」


「それもライト様のランクが判明するまでの茶番でしたのよ。もしかしたら何かの間違いではないかということも考えましたけれどやはり魔法はろくに使えないままでしたわね。義父様、提案がございますわ」


「アリシア嬢、それはなんだ?」


「追放ではなく、ジェイドの意思による出奔ということにすればよいのです。私たちは固く引き留めた。しかしジェイドは身を恥じて家名を汚すことに耐えられず自ら出ていく。私たちは彼の自立を願って出奔の際に金銭を持たせた。こうすれば私たちは慈悲深い貴族という評判を得られて追放と同じ効果を得られますわ」


「うむ、採用しよう。ジェイドよ、しばらくは暮らせる金銭を渡しておこう。アリシア嬢の慈悲に感謝するとよい。私は着の身着のまま叩き出そうと思っていたからな」


 あっけにとられるジェイドに近付いて弟のライトがさらに告げる。


「本当は許せないんだけどね。母上はジェイドのFランクの誹りに耐えられず気を病み、体を病んで亡くなられてしまったからね。いつか必ず僕が復讐してやるから覚えておけよ」


 

 こうしてジェイドはグランアーク家を追放された。



◇◇◇



 ランディ王国。

 かつての英雄リオン=グランアークは類まれなる魔法の使い手であり、その魔法は大地を砕き空を裂き海を割ったと伝えられている。

 ゆえにこの国では魔法を使えることが重視される。



 首都バースにある冒険者ギルド。

 グランアーク領を追放されたジェイドは冒険者ギルドにて登録をしようとしていた。


「ジェイドさんですね。……あら、どういうことかしら? 登録不可リストに載ってるわ」


 受付嬢は半ば形式的となっている登録不可リストとの照合をし、リストの一番下にジェイドという名前を見つけた。


「ジェイドさん、年齢はおいくつですか?」


「14歳です」


「これも当てはまるわね……。ジェイドさんちょっといいかしら。マナレベルの測定を受けていただきます」


 困惑するジェイド。

 だが黙って受付嬢の言う通り別室にてマナレベルの測定を受けた。

 ジェイドにとっては悪夢の始まりであったマナレベルの測定であったが、今回も悪夢の続きとなった。


 測定結果はFランク下位。

 2年前と変わらない。

 2年間の努力とはなんだったのか。


「ジェイドさん、あなたは登録不可リストに載っています。14歳男、マナレベルFランク下位ですから間違いありませんね」


「どういうことなんですか?」


「あのね、犯罪者とかはね、冒険者登録できないのよ。けどジェイドさんは犯罪するような凶悪な顔に見えないわね。他にあるとすれば、貴族様からの依頼ね。ご子息やご令嬢が勝手に冒険者にならないように先回りして手を打つことがあるのよ」


「そうなんですか」


「あなたもしかして家出したの? なら帰った方がいいわよ」


「いえ、違います。ありがとうございました。あの、外国でも同じなんですか?」


「王国だけね。他の国だとそんなことはないわ」



◇◇◇



 冒険者ギルドを出たジェイドは考える。

 犯罪はしていないはず。

 貴族が先回りして子供が勝手に登録するの防ぐためという場合があるということだが、今回は違うっぽい。

 グランアーク家が嫌がらせにやったとしか思えない。


 もしそうなら他の商業ギルドなどでも同じかも。

 この国では生きていくのがかなり難しくなる。


 外国に行くしかないなあ。

 幸いまだお金は残してある。

 グランアーク家の影響のないところで生きていこう。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 転生先はもはやテンプレと化した追放ものにしてみました。

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