第2話 転生 

 賢者の結界魔法で捕えられたリオンに大魔導師の魔法が襲いかかり、リオンは眩い光に包まれる。


「……其は天上におわす神々の慈悲と知るがよい。秘術・破邪転生!!」


 大魔導士が秘術を行使した後、リオンの肉体は水晶の中に閉じ込められた。

 そして大魔導士は膝をつき倒れこむ。

 血を吐いていた。


「師匠、大丈夫ですか!?」


 弟子である賢者が支え起こす。


「そんな、命を削る術だったなんて…… そんなこと一言も言わなかったじゃないですか!」


「言えば止めたであろう。剣聖は薄々わかっておったようだがの。気にするな我が弟子よ。若人の尻拭いをするのは老兵の役目」


「すまぬな、賢者よ。剣聖と呼ばれる私が命をかけてもリオンを倒すことはできないと考えた。実際に対峙してもそれは変わらなかった」


 剣聖が詫びるように賢者に告げた。


「『秘術・破邪転生』は対象の肉体を封印し、強制的に魂を取り出して浄化し生まれ変わらせる。いつどの時代に生まれ変わるかはわからぬがな。あの子ほどの者であれば浄化に数百年はかかるであろう。しかしその間リオンは魂の苦しみを味わい続ける。殺すよりも残酷な術を施してしまったのだ。この老いぼれの命であれば安いもの。一足先に逝っておるぞ」


 そういうと大魔導士は目を閉じ、二度と開くことはなかった。


 賢者の泣き声を背に、剣聖は水晶に閉じ込められたリオンを見て呟く。


「リオン、お前は誰よりも強かった。しかし間違った強さだった。どうか転生後は穏やかに生きられるように祈ろう」



◇◇◇


 

 賢者の魔法により拘束され、大魔導士の秘術を食らったあと痛みで意識が戻る。

 肉体的な痛みではない。

 表現しづらいが精神がガリガリと削られている。

 体は動かない。

 というか肉体の存在が感じられない。


 意識だけの存在となってしまったのか。

 精神、思念、魂、呼称は様々であるが、肉体のどこかにそのようなモノが存在しているとされ、肉体が滅びた後はどうなるか分かっていない。


 いったい俺はどうなるのか。

 することといったら痛みに耐えるだけ。

 そしてなるべく他のことを考えて気を紛らわすのだ。

 あとは、魔力を練ること。

 魔法はあまり得意でないが、どうやらこの状態は魔法を放てないが魔力を練ることはできるようだ。

 通常は瞑想をすることにより魔力の向上や魔力上限の拡大を目指すのだが、肉体がないこの状態は常に瞑想をしているようなもの。

 どうせなら魔力も極めてみよう。



◇◇◇



 相変わらずガリガリと何かを削られているが、考えは少しずつ変わっていった。

 魔王を倒した後、俺は奢侈の限りを尽くしていた。

 身の回りの物は全て最高級品で囲ったし、美しい女を探させては献上させていた。

 誰かの恋人や人妻であっても。 

 飽きたら側近やその親族に下賜していた。

 それは魔王を倒した後に近寄ってきた貴族がそうするのが当然と言っていたからだ。



 しかしそれは本当に当然だったのか。

 


 剣聖たる師匠の教えの中には、他人の言うことを鵜吞みにせずそもそもがどうなのか自分で考えろ、というものがあった。

 『魔王を倒したから贅沢を尽くしていい』というのは、そもそも本当に正しかったのか?

 『魔王を倒したこと』と『贅沢をすること』は特に関係がなかったのではないか。

 そう考えて実際に行動することで利益を得るのは誰なのか。


 俺ではない。


 一時的には楽しかったが、今はこうして封印されたのだから。

 そういえば側近たちは会うたびに肥え太り身に付ける装飾品の数も増えていたな……

 あれからどうなったかは知らんが、彼らが得しただけに思える。



 俺は踊らされていたのだ。



 そもそもなぜ魔王を倒しに行ったのか?

 もちろんのかたき討ちのためだ。

 だが、旅の途中で魔族による悲惨な状況を見るにつれ同じことを繰り返させてはならない、と仲間たちと固く誓いあったのではなかったか。

 それがどうだ。

 英雄ともてはやされ王になり挙句民を苦しめていたのでは形を変えて同じことの繰り返しをしてしまったのではないか。

 師匠に魔王と同じと言われたのはまさにその通りだったのだろう。



◇◇◇



 どれくらい経ったかわからない。

 肉体がないせいか時間の経過を感じられないが、どこかに向かっているような感覚はある。

 が、ある時から急に痛みが強くなった。

 今までの痛みが準備だったかのように存在ごと消されそうな痛み。

 何となく直感でわかる。

 俺という存在がなくなり、生まれ変わらせられるのだ。


 しかしそれでは困る。

 せっかく魔力もこれ以上ないというほど練り上げてきたから、魔法を試したい。

 剣も魔法も極めるのだ。

 魔王など関係なしに。

 何事も極めることに終わりはない。

 目標を失った隙につけこまれることもないだろう。


 


 魔力を練るために割いてきた思考も全て動員してひたすら痛みに耐える。


 イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ

 タエル、タエル、タエル、タエル、タエル、タエル、タエル、タエル

 シショウ、シショウ、シショウ、シショウ、シショウ、シショウ

 マモル、マモル、マモル、マモル、マモル、マモル、マモル、マモル

 ……………………


 やがて、光が途絶え俺の意識は暗闇に落ち込んでいった。



◇◇◇



「え、何この魂。どんなに削っても自我が消えないんだけど。穢れは既に削ぎ落したから転生には問題ないんだけど肉体に二つの自我が宿ると肉体が保たないんだよね。ああ、ちょうど消えかけの器がいるからそいつを転生先にするか。これ以上削ると魂そのものがなくなっちゃうからね。それはもったいないから……」


 神は独りごちた。



◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 とりあえず転生させてみます。

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