堕ちた最強英雄のやり直し~クズどもが何でこんなに弱いんだよ、仕方がない助けてやる
気まぐれ
第1話 堕ちた英雄
「リオン様、お戯れを……」
「辺境にいたお前は俺に選ばれたのだぞ。光栄に思え」
「私には将来を誓い合った幼馴染がいます。お許しくださいませ」
「お許しにならない。俺こそが神だからな。さあ、その身を捧げるのだ」
「やめて、誰か……!」
助けに来る者はいない。
そうして少女は幼馴染に捧げるはずだった純潔を奪われていく。
堕ちた英雄によって。
◇◇◇
王の散財に、度重なる重税。
王に
数年前、人々に脅威をもたらしていた魔王が英雄リオン=グランアークとそのパーティにより打倒された。
長く続いた魔物との争いは終わりようやく平和が訪れるのだと、誰もが疑いを持たなかった。
誤算は、英雄が必ずしも優れた為政者とは限らないこと。
当時の国王は王位を英雄リオンに譲り渡し、王女を嫁がせた。
リオンは武に優れ、魔法も得意ではないがそれなりに使えるほど才能のある青年であった。
かつて魔王軍により故郷を滅ぼされその無念を晴らすため旅立った少年リオンは、よき師匠や仲間と巡り合い幾多の困難を乗り越えて魔王を倒した。
だが、根が純朴であった田舎の青年にとって貴族間の政争は甘い毒であった。
魔王を倒し人生の指針を失い半ば抜け殻になっていた英雄の隙につけこむのは、スライムを叩き殺すことよりも容易いこと。
魔王を倒すまで女を知らなかった英雄。
王女以外にも有力貴族の娘を娶らされる。
『つらい試練を乗り越えた貴方には人生を謳歌する特権がある』、と佞臣からささやかれ次第に放蕩に染まっていくのに大した時間はかからなかった。
リオンが最強になるため費やした時間以上に政争に明け暮れていた者たちの手練手管。
諫言にきた忠臣は佞臣たちにより全て左遷され、かつてのパーティとも疎遠になっていく。
当初は英雄が王となり士気を高めた軍も、堕落していく英雄の姿を見てある者は軍を去り、ある者は同じように横柄に振舞う。
やがて魔王軍の残党の対処にも支障をきたし始める。
しかしリオンは魔王討伐後も鍛錬は怠っておらず、残党を蹴散らすのもまた容易かった。
これにより国民はリオンの横暴にもある程度耐えるしかない、と思うようになる。
リオンに甘い言葉をささやいていた悪徳貴族にとっては、予想していなかったが思いがけない幸運であった。
これでしばらくは甘い蜜を吸い続けられる。
英雄でさえ彼らにとっては手駒の一つでしかない。
ダメになれば代わりの誰かを擁立すればよいのだ。
◇◇◇
「リオン様、ここでございます」
「そうか。だが残党どもが見当たらないようだが……」
軍から泣きが入ったので重い腰をあげたリオンが案内されたのは険しい山の中。
やがて不思議に思うリオンの前に人影がでてくる。
リオンの目には懐かしく映った。
かつてのパーティだった聖騎士、賢者、聖女。
さらには剣聖と呼ばれるリオンの剣の師匠、大魔導士と言われる賢者の師匠も揃っていた。
もしかして魔王が復活したのだろうか?
でなければこんな豪華なメンツは必要ない。
「どうしたんだ、こんなところで」
「リオンよ、お前に引導を渡しにきた。俗世に染まり堕ちてしまうとは嘆かわしい。やはり私がお前を引き取るべきだったのだ」
剣のお師匠さまが俺に告げる。
「引導を渡すとは、いったい? 俺が何をしたというのです?」
「分からぬか、民の嘆き、慟哭が。お前は確かに魔王を倒した。しかし今はお前が民の脅威となっている。言うなれば、お前こそが魔王となってしまったのだ」
「お師匠さま、俺は魔王を倒し故郷の無念を晴らした。そのためにつらい修行にも耐え青春を犠牲にした。先払いしたものを取り返しているだけです。何がいけないのですか? お師匠様も類まれなる実力の持ち主。田舎に隠遁せずとも俺の権力で重用できます」
「……お前は大事なことを見失ったようだ。私はそれを失くさぬために俗世から離れているのだよ」
「俺には言っていることがわかりません」
聖騎士が辛そうな顔をこちらに向ける。
「すまぬ、リオンよ。俺たちがお前をあいつらから守るべきだったのだ」
「何を言っている?」
聖女が言葉を続ける。
「貴方は平民出身だった。聖騎士も賢者も私も貴族。私たちは長いこと苦楽を共にしたわ。貴方が平民だったことすら忘れてしまうくらい。魔王を倒すのには身分なんか言ってられなかったものね。けれどもここにきてそれが仇となった。私たちは貴族たちの甘言にあなたがつられるはずがないと無意識に思ってしまっていたの。だから……」
「だから? まさか俺を殺すというのか!?」
思わず俺は剣に手をかける。
旅の途中で手に入れた聖剣エクスカリバー。
俺の分身ともいえるほど使い込み数多の魔物を屠り、魔王を倒すにはエクスカリバーがなければ無理だったと言える。
「魔王を倒した貴方を倒すのは無理。魔王を倒した後も鍛錬を怠っていない貴方であればなおさら。だから、貴方を……封印する!!」
そういうと後ろにいた賢者と大魔導士がこちらに両手を向ける。
しまった、何かを準備していたのか。
時間稼ぎの会話につきあってしまった。
反射的にエクスカリバーを抜き放ち斬りかかろうとしたが、師匠の剣と聖騎士のイージスの盾に阻まれる。
「二人がかりでこのざまか…… 確かにお前には常在戦場、鍛錬を怠るなと口酸っぱく言っていたが。堕ちてもなおその教えを守っていたとは、複雑な気分だ」
「リオン、やはり強いな。だが、このイージスの守りを抜けると思うなよ。それに剣の腕は上がったかもしれんが、お前は決定的に弱くなった」
「なんだと? 俺が弱くなっただと? 聖騎士よ、おまえこそ戦場から離れて節穴になったのではないか?」
「……やはり気がつかないかリオン。聖剣が輝きを失っていることに」
そういえば魔物との戦いのときには輝きを放っていたエクスカリバーが輝いていない。
並の魔物ならその輝きで消滅するか弱体化する聖剣の輝き。
それが今は見えず、凡百の剣にさえ見える。
「今の聖剣はお前を主と認めていないようだな、リオンよ」
「くそっ!」
師匠の指摘に苛立った俺はやたらめったらに剣を振り回す。
「まるで駄々っ子のようだな、リオン。だが、強い。大魔導士、賢者、まだか!!」
「聖魔法、フルレインフォース!!」
聖女が強化魔法を放つと師匠と聖騎士からの抵抗が増す。
◇◇◇
いや、なぜこんなことになっているんだ!?
俺は魔王討伐の報酬を受け取っているだけだ。
民の嘆き、慟哭?
そんなもの俺だって魔王軍に故郷を滅ぼされたとき味わっている。
それに加えて過酷な修行や魔物との死闘を味わっているんだぞ?
死にかけたことなんて一度や二度じゃない。
俺が助けた者たちはそれを知らないだろう。
なのになぜ俺が魔王扱いされなければならない!?
しかも同じパーティメンバーや師匠から!
「リオンよ、剣に迷いが見えるぞ。戦場に迷いを持ち込む者は死ぬと教えたはずだがな。迷妄断晴剣!」
防御に回っていたはずの師匠の攻めの一振りにより、エクスカリバーが弾かれ俺の手から離れていく。
仕方ない、取りに行く時間はない。
体術でしのぐか……
「結界魔法、マリスバインド!!」
賢者の声が聞こえる。
すぐに俺の真下から黒い鎖が生えてきて全身を絡めとられる。
だが、こんなもの振りほどいてやる。
「無駄よ、リオン。その結界は悪しき者には決して突破できない。貴方は世界から悪として見られているの」
賢者が悲しそうな目でこちらを見る。
「魔王戦で使っていてくれればもっと楽に倒せたのに……」
どんなに力をいれてもほどけない鎖をふりほどこうとしながら嫌味を言ってやった。
「あの時には完成していなかったのよ。魔王を倒したときのレベルアップでようやく使えるようになったんだから」
皮肉なものだ。
そして大魔導士の詠唱が終わりに入る。
「……其は天上におわす神々の慈悲と知るがよい。秘術・破邪転生!!」
俺は光に包まれた。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます。
ちょっと突発で思いついたので一気に書いてみました。
続けるかどうかは気分次第の見切り発車です。
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