ifストーリー「女教師がJKに振り回される話」

これは、二人が同じ高校にいたらって、そんな話。


「真奈せんせー。」

 聞き馴染みのある声で呼ばれ、足を止める。

 毎朝同じように昇降口で話しかけてくれるのは一人しかいない。

「あら、おはよう。涼風さん。」

「これ、可愛くない?」

「一応言うと、ピアスは校則違反ね?」

「フェイクピアスだよ?ほら、穴空いてないよ。」

「んー、他の先生達がいる時は外しなさい?」

「はーい。」


 あっ、どっちも高校生だと思いましたか?

 ごめんなさい。真奈は新任女教師で、葉那は高校1年生です。


「ほら。チャイム。」

「うん。またね~。真奈せんせー。」

 8:30にチャイムなって、HRが8:40からってあんまり意味わからないわよね。

 私が高校生の頃ずっと不思議に思ってたことの一つね。

「それにしても、最近の女子高生ってすごいわね~。距離が近い近い。」

 私のときは、もっと教師を敬遠してたと思うんだけど。ここの子たちはみんなグイグイ来るのよね。

 でも、その分早く馴染めて嬉しいわね。

「神崎先生、もうHRの時間になりますよ。」

「あっ、はい。すみません。すぐ行きますので。」

「まったく…。」

 ため息やめてくれないかしら?私、ここに来てから遅刻とかしたことないのよ?なぜか毎朝この教務主任とかいうおばさんに説教されてるけど…。

 そもそも、まだ5分あるのにそんなに急かす必要ある?私がコーヒー飲みながらくつろいでたら分かるけど、名簿と配布物まとめてただけよ?

「…なにか?」

「イエ、ナンデモ。」

 やばい。睨みすぎたかも。

 ちょっと早いけどさっさと教室行っちゃいましょ。

 四階に上がってすぐ、1-2の教室。そこが私のクラス。

「あっ真奈ちゃん!今日、ちょっと早くなーい?」

「ちょっとね。まだ時間あるから好きにしてていいよ~。」

 言う前からみんな好きにしてるけどね。

 でも時間とかは守るし、授業中も静かにしててくれるのよね。

「ねぇねぇ。真奈せんせー?」

 あら、また涼風さん。

 いつもよく話しかけてくれて、入学式のときもこの子のお陰でクラスの子達も仲良くしてくれるようになったのよね。

「なに?涼風さん。」

「これどう?可愛い?」

「朝のやつじゃない。どうかしたの?」

「だって、朝も聞いたけど感想は言ってくれなかったから。」

「あれ?そうだった?」

「そうだよ~。校則違反だって。」

「うん。可愛いわよ?似合ってる。」

「えへへー。ありがと。じゃあねー。」

 涼風さんは満足したようにトテトテと自分の席に戻って、後ろの席の柏宮さんと談笑を始めた。

 ほんとにそれだけだったのね。お気に入りなのかしら?可愛い子ね。

「せんせー、もう40分なったよー。」

「あっ、ありがとう。じゃあHR始めます。」

「きりーつ。れーい。」

 学級委員の掛け声と共に、朝が始まる。

 いつもと変わらないはずなのに、なんだか今日も楽しく過ごせそうな気がした。


「~だから、ここで言う花っていうのはすごく重要で…。」

 6限の終了を告げるチャイムが鳴り、自分の体内時計が少しずれていたことに気付かされる。

「あっ、ごめん。明日はこの「暁なりて~」のとこからね。じゃあ終わります。」

「起立。礼。」

「「「ありがとうございました。」」」

 うーん。結構経つのに、未だにズレちゃうわね。質問とか入る度に自分では調整してるつもりなのに…。

 みんなは分かりやすいとか面白いって言ってくれるけど、進行に差が出ると不公平よね…。

「おっと、こんなことしてたら…。」

「神崎先生?」

「はい。分かってます。」

「…そうですか?」

 ほら、また主任が…。

 さっさと動かなきゃね。

「ほら~。HR始めるよ~。」

 一応授業後のHRも時間決まってるけど、帰りなんて早ければ早いほど良いでしょ。

「きりーつ。れーい。」

「特に連絡事項はないです。配布物もありません。はい、終わりです。」

「きりーつ。れい。」

 稀にある一分で終わるタイプのHR。

 すぐに終わって、部活に遊びにと、生徒たちは我先に飛び出していく。

「せんせ。せんせ。」

「あら、涼風さん?」

「口開けて?」

「ん?」

「あーんして?」

「…?あーん。」

 イチゴ…?

 いや、いちご味の飴ね。棒付きの。

「さっき開けたけど、数学の先生に呼ばれてたんだ。預かってて?」

「え?うん。」

「じゃあまたね~。」

 振り返るのと一緒にポニーテールが揺れる。彼女は小走りで階段を下って、すぐに見えなくなってしまった。

 …って預かって?

 今口に入れてるのに…?これが預かってる状態ってことは、返すのよね…?

「えっと、真奈先生?」

「あっ、何?柏宮さん?」

「どうしたんです?固まって。」

「あ、ううん。大丈夫。」

「あと、葉那たぶんピアス付けっぱやないですか…?」

「えっ!それは大丈夫じゃないかも…。」

 慌てて階段を駆け下り、職員室へ向かう。

 ごめん、涼風さん。私が気付いてれば…。

「あれ?真奈せんせー?」

「って涼風さん!?」

「どうしたの?そんなに慌ててー。」

 あれ?ピアス外してる…?

 なんだ、自分で分かってたのね。良かった…。

「ううん。なんでも。それより、もう用事は済んだの?」

「うん。プリントに名前書いてなかったって。だから書いてきたんだよ。」

「そう、なら良かった。」

「先生も、急いでなかった?」

「ううん。もう良いの。」

「ふーん。…あっ!それ!」

 ん?私の手…?あっ、教室出るときに出してたのよね。飴。

「ありがとー。」

 って、え?

 私の手から、涼風さんの口に…?え?ほんと?

「代わりにこっちあげるー。」

「…。」

 あ、新しい飴くれるの?

 メロン味?

「じゃあ、せんせー。また明日ー。」

「うん。…また明日。」

 えっ?あれって普通なの?

 メロン味じゃ嫌だったとか?でもそれなら『あーん。』ってやらずに『持っててー。』とかでも良かったわよね?開けたばっかりなら包みも残ってたでしょうし…。

「あっ、せんせー?」

 戻ってきた涼風さんが私に耳打ちする。

「ピアスはね?先生の前だけだよ?」

 後ろで柏宮さんが手を合わせて謝ってる。

 そこで、初めて気付く。

 冷静に考えて、六限目付けてたはずないんだから、外すのを忘れるわけもない。

 ましてや、あんな短いHRじゃ忘れろって言う方が難しい話だ。

「だって『他の先生の前では~』ってそういう意味でしょ?」

 いたずらっぽく笑ってウインクと共に去っていく彼女。

 振り返ったポニーテールが、数分前と同じように揺れていた。

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OLが女子大生に癒される話 MK.k @Mekake

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