「好き(癖?)」トーク

「ねえ、葉那!これやってくれない?」

 突然目の前に差し出されたスマホ。

 その画面には…なにこれ?ドラキュラ?

「コスプレってこと?ハロウィンはまだ先だよ?」

「違うわよ。この首筋噛むやつ。葉那にやってほしいなぁ~って。」

 よく見ると真奈さんはもう、準備万端と言わんばかりにシャツをズラして白い首を見せつけてくる。

「…真奈さん。」

「ん?なに?」

「まだお昼なんだけど…。」

 お昼っていうか、朝っていうか。

 時間で言うと10:07なんだよね。

「…ダメ?」

「噛むだけだよ?それ以上はやらないからね?」

 自分でこんなこと言っておいて、それ以上やりたくなるのはホントに真奈さんなの?って話なんだけどね。

 なんて思いながら、上手く八重歯が当たるように歯を立てる。

「いくよ?」

「…う、うん。」

 自分で言って、ちょっと怖がってる感じ。

 この真奈さんがめっっっっちゃ、可愛いんだ。

「…っ。」

 顎を閉じていくと、やっぱりちょっと痛そうにする真奈さん。

 でも、痛そうにしてても、すっごく嬉しそうな顔。目をギュッとつむって、その端から少しだけ涙を滲ませて、私の背中に回した腕にギュッと力を込めてくる。それで合ってるって、まだ止めないでって、そう主張してくる。

「ん~~~~!っんんん~~~~!!!!!」

 も少しだけ力を込めてあげる。それだけで真奈さんは私から離れられないの。

 ほら、痛がってても離れようとはしないでしょ?

「はい。おしまい。」

 そして、後少しというタイミングでパッと離す。

 そんな目してもダメ。噛むだけって言ったでしょ?

「…真奈さんって、痛いのとか好きだよね。」

 もうやってあげないよって、直接言う代わりに話題を変える。

 真奈さんも深呼吸して、リセットしてる。

 こういう焦らしが、私は好き。真奈さんが、どんどんどんどん私にハマっていく感じがする。

 …求められてるって感じがする。

「…そう、かな?」

「えー、ここまでやってまだ認めないの?首真っっっっっっっ赤だよ?」

「それは、葉那があんなに強く噛むからでしょ?私の問題じゃないわよ。」

「ふーん。そんな事言うんだー。」

「だって、そうじゃない。」

 あー、ちょっとカチンときました。私だって許せることと許せないことがあるんだからね?ちょっと教えてあげないとだめよね?

「じゃあ、もう噛んであげなーい。キスのときもすぐ離れまーす。いつもみたいに息続くギリギリまでやりませーん。」

「なんでそういう話になるのよ!」

「だって痛いの嫌なんでしょ?ふーん。もう知らないもーん。」

「嫌とは言ってないでしょ?」

「嫌じゃなくても、好きじゃないなら傷がつくだけだし、苦しくなるだけじゃん。もうやってあげないもーん。」

 真奈さんが好きだと思ってたから今までやってたのになぁ…。傷ついちゃうなぁ…。

 なんて、いじけたフリをしてみる。

 そしたら、ほら。

「あーもー。悪かったわよ。」

「じゃあ、痛いの好き?」

「はい。私は痛いの大好きです。だから、ほら、そんなにむくれないで?」

「うん。私は真奈さんが大好きだよ?」

「私も痛いのより葉那のほうが好きよ。」

 あーもー、ほんとに好き。真奈さんちゅきちゅき。

 真奈さんの前だと、ほんとの私って感じがする。甘えたいだけ甘えて、嫌なところも見せて、好き放題やれるの。でも、真奈さんもそれを好きって言ってくれるの。こんなに幸せなことある?

「でもさぁ、葉那も痛くするの好きよね?」

「えっ?」

「私、葉那にされてから痛いの好きって気付いたのよ?」

「ほんと?」

 ほんとなら…すっごい嬉しくない?私だけの真奈さんって感じがする。

 ほんとに運命って感じちゃう。

「ほんとよ。そもそも葉那以外にこんなことされないし…。」

「そりゃそうだよ。他の人にやられたことあるとか言ったら怒るよ?」

「大丈夫だって。」

 真奈さんの手が頭に伸びてきた。

 それに合わせて頭を真奈さんに寄せる。

 ほら、ちゃんと撫でてくれるんだよ?以心伝心って感じじゃない?

「葉那は、撫でられるとか、抱きしめられるとか、甘えるの好きよね?」

「えー?そうかなー?」

「猫みたいに頭擦り付けながら「そうかなー?」はもうダウト。」

「別に嘘はついてないよ?」

「そうかもねー。」

 真奈さんすっごくいい匂いするんだもん。髪もうなじも鎖骨のところもお腹もいい匂い。

「あと匂いフェチよね?」

「あれ?バレてた?」

「そりゃあ、抱きしめる度に顔うずめてクンクンしてたらバレるでしょうね。」

「えー、でも真奈さんがいい匂いだからやってるんだよ?他の所で匂い気になったりはしないよ?」

「ほんとかなー?」

「ほんとだよー。」

 匂いがする距離まで近付かないと、匂いなんて気にならないからね。膝の上に乗ったり、同じベッドで寝たり、そんなの真奈さんだけに決まってるのに。

「でも、葉那は真奈さんのこと大好きだよ?」

「もう、いつもそればっかり。」

「じゃあ、ほら。これで信じてくれる?」

「別に疑ってなんか…っ!」

 真奈さんが話してるお口を、覆うようにちゅーしてあげるの。しっかり唇を塞いだら、準備できてない真奈さんは苦しくなって、ほら、こうやって離れようとするんじゃなくて、首に手を回してくるの。

「ほら、どうだった?伝わった?」

 唇を離すと、真奈さんはペタンって座り込んじゃう。これがすっごく可愛いんだよ?これも知ってるのは私だけ。

「葉那ねぇ、やるなら心の準備くらいさせて?」

「ごめんね?真奈さんが可愛くて、つい。」

 私は真奈さんが大好き。だから、真奈さんとやること全部が大好き。真奈さんがやりたいことは全部叶えてあげたいし、真奈さんにやりたいことは全部やっちゃう。

「どうする?じゃあもうやめる?」

「…もう1回。」

 心の準備なんてしたって、また苦しくなるまでやるのに。真奈さんだって、そうじゃないと悲しそうな顔するのに。

 それでね?真奈さんが苦しくなると、私の首のところで手をぎゅーってするから、爪が食い込んで痛くなってくるんだ。多分真奈さんは気付いてないし、私は言うつもりもないの。だって、この時が1番、「真奈さんに求められてる」って、「生きてる」って感じられるから。キスが終わった後でこっそりその跡を触って、幸せな気持ちになれるから。

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