おうちデート
普段通り5日ぶりにやって来た週末。
普段よりも多くの人でごった返す駅前に一際目を引く少女が1人。
ベルトの巻かれた細い腰や、スラリと伸びた脚。彼女の持つ恵まれたプロポーションはそれだけで嫌でも人を惹きつける。
「あっ!真奈さーん!」
葉那の今日の髪型は、トップを後ろ手に纏めてサイドの肌感を強調したラフスタイル。
私を見つけるとすぐに、手を振りながら駆け寄ってきた。パタパタと手を振るその姿が、クールな装いとのギャップで1層可愛らしく見える。
「ごめんね?待たせちゃって。」
ぺろっと舌を出して、これまた可愛く謝罪をする葉那。
「いや、全然待ってないわよ?」
気遣いとかじゃなくて、ほんとにもう可愛すぎて待たされたかどうかなんて思い出せないくらい。
でも、でもね、
「そんなことより…。」
そう、そうなことより許せないことがあるのよね。
それは…。
「その格好は何なの!?」
彼女の身を包むのは黒のタンクトップに高めのガウチョパンツ。たったそれだけ。
分かる?露出がおかしいの。もう、ほら、そこのあいつも、なんならそこにいるあの男も、いやらしい目!
「えー?可愛くない?」
「可愛いわよ!だから余計悪いの!」
あなたねぇ。何着てても可愛すぎなのよ!
何頭身なの?あなたの頭身は108まであるの?
私がそんな格好してもくたびれたおばさんの寝巻きにしかならないのよ?
「っていうか、前にも言ったでしょ?露出があんまり多いのは止めてって。私が嫌だって。」
「だって真奈さん、そんなこと言ってもこういう格好好きじゃん。」
「じゃあ、私の前だけにしてよ!」
「私は他の人なんて気にしないよ?」
「私が気にするの!」
あーもう。この子は。自分がどれだけ可愛いかも、どれだけえっちな体してるかも分かってない。
世が世なら戦争よ?ほんとに。
「ふふっ。」
「何がおかしいの!」
「いや、真奈さんってほんとに私のこと好きだよね〜。」
「なっ!?」
そりゃ好きよ?好きだけど…!
もう、こういうこと言われるからいつも甘くなっちゃうのよ!今だってもう既にニヤニヤしてきちゃったし…。
「安心して?ほら、カーディガン持ってきてるから。」
「さっき脱いだだけだよ?」なんて言いながら、肩に下げたトートバッグからグレーの上着を取り出す葉那。
あなたねぇ…。
「2人きりになるまで脱がなくていいじゃない。」
「えー、だってドキドキさせたいじゃん?」
…そんな風に言われたら怒れないじゃない。
こういう所も含めて、好きになっちゃったんだから。
「もういいわよ。ほら、行きましょ。」
自分で言っててちょっと恥ずかしいわね。
照れ隠しで、出発を急かしたことも多分バレてるでしょ?
ちょっと顔熱いし。なんなら葉那もちょっとニヤニヤしてるし。
「じゃあ、案内しまーす。」
「うん。よろしく。」
手を繋いで歩き出す。
もちろん、いつも通り指を絡めながら。
「ここだよ〜。」
空いた右手をバスガイドのように上げる葉那。
その先には白い壁の目立つマンションがあった。
「へー。綺麗なところね。」
「そうでしょ?会社のモデルケースで安かったんだ。」
あー。確かにたまにあるわね。そういうの。
それにしても、学生には高いと思うけど。
「流石に寮とかの方が安いんじゃない?」
「そうなんだけどね?お母さんが『怖いから高くても良いところにしなさい。』って。あと『寮は迷惑だからやめてあげて。』だって。」
お母さん。分かります。葉那は危なっかしいですよね。1人にさせられないですよね。
でも「迷惑だからやめてあげて」ってどういうこと?
「あの、葉那…。」
「はい。とうちゃーく。」
聞き返す前に葉那が暮らす部屋に辿り着いてしまう。
〈512〉との部屋番号が記されたドアへ鍵が差し込まれ、恋人の生活が少しずつ明らかになっていく。
それと同時に私は、聞くまでもなく、先程の問いの答えを知ることになる。
「洗濯物とか、気にしないでね。」
玄関から続く廊下に干された下着類。そんなことは別にどうだっていい。外に干すのはちょっと怖いのよね。私だって部屋に干してるもの。
そんなことは気にならないのよ。
「あの、葉那?」
「ん?なに?あっ、荷物だったら適当にどこ置いてもいいよ?」
あのね、そうじゃないのよ。
もう玄関入った時から見えつつあるんだけど…。
「何?この部屋は。」
「何?って、そりゃ葉那のお城だよ?」
コテンって首傾けるのやめて?
今回は可愛くても許さないわよ?
「じゃあ…」
できるだけ怒りを溜めて、事の核心に触れに行く。
葉那にはちょっと悪いけど、これは我慢できそうもない。
「なんなの!この汚部屋は!」
床中に散乱した洋服、大学で使うんだろうテキストやらプリント類、他にもドライヤー、トイレットペーパー、もうとにかく生活に使うもの全てが床に広がっていた。
「汚くないもん。」
「明らかに汚いでしょ!何も片付けてないじゃない!」
「ゴミは捨ててるし、毎日洗濯してるし、皺になると困る服はロフトに掛けてるもん。」
「ホコリも溜まるし、ご飯食べる場所ないじゃない!」
「ご飯はキッチンで食べるし、キッチンは毎日掃除してる。空気清浄機置いてるし、着る服は前日に洗ってる。別にいいじゃん!」
あぁもう!ああ言えばこう言うわね!
そして、論理的に完成するタイプのお部屋って存在するのね。お部屋って怠惰の行き着く先じゃないの?
「嫌!私はこの部屋でリラックスできない。」
「なんでそんな事言うの!ベッドは綺麗にしてるじゃん!」
ここに来たらベッドだけで生活しろってこと?
「そんなの嫌よ。私はテーブルで一緒にご飯食べたり、並んで借りてきた映画見たりしたいの。それにキスする時とかに散らかった部屋が目に入ったりしたらムードが…。」
と、そこまで言ったところでハッとする。
葉那の顔を見ると予想通りのニヤけ面がそこにはあった。
「へ〜、真奈さんそんなこと考えて来たの?えっち〜。」
完全に手のひらで転がされてた。
この後の展開も予想できる。
どうせ、いつも通りの可愛い顔でおでこをくっ付けてくるのよ。手は頬に添えて、目をじっと見つめてくるの。そして、こう言うはず。
「「じゃあ一緒に片付けないとね?」」
やっぱり。
「あ〜、真奈さんの真似っこ!」
「そんなことより一緒にって何よ。葉那が散らかしたんでしょ?」
「え〜?でも、ここ片付け終わらないと私と何もできないよ?」
ほんっとに、もう!この子は!小悪魔って言葉は葉那の為に作られたに違いないわね。じゃないとおかしい。ずる賢くて、意地悪で、それでも可愛くて…大好き。
「手伝うだけだからね?」
「わーい!真奈さん大好き!」
「私も、そう思ってたところ。」
適当な相槌じゃない。
本心からこう言わせてくれる葉那が愛しくてたまらない。
「ほんと!?以心伝心だね。」
「そうね。」
そんな有り余る思いごと、葉那を抱き締める。
彼女の素肌は、いつもより少し熱くなっていた。
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