野比! お前は荒野に立っとれ!

惑星ソラリスのラストの、びしょびし...

第1話

 のび太が教室の扉をあけると、目の前に荒涼とした大地が、見渡す限り何処までも広がっている。そのずっと果てに、鉛筆ですっと引いたような地平線。空は鉛のように重苦しい。そこにぽっかりと空いた穴のような、黒い太陽が浮かんでいる。その太陽に向かって、夥しい数の殉教者たちが膝を折り手を組んだままの姿勢で息絶えている。

 ばたん、と音がする。彼がゆっくりと振り向く。教室の扉が倒れている。彼は片膝を地面につけて、その扉の表面を指でなぞる。

「朽ちている……」

 それから立ち上がって、今しがた出てきたばかりの教室を見据える。もう幾百年も前からそこに晒されていたかのように、どの机もぼろぼろに朽ち果てている。その間をゆっくりと通り抜けながら、教卓のほうへと向かう。成人のものだろうか、やはり同じように朽ちたような頭蓋が、頬を下にするような姿勢で横たわっている。彼はその頭蓋をそっと撫でようとする。彼のしなやかな指先が触れた瞬間、頭蓋がガラス細工のように砕け散る。

「先生……」

 びゅうっと風が吹くと、砕け散った頭蓋もろとも、教室の残骸たちが塵となって飛び去っていく。

 彼は風の先を見据える。その先もやはり地平線。何処までも広がる、灰色の世界。

 何者かの気配を感じ、彼は振り向く。二つの影がある。彼に対して恭順の意を示すように、片膝を折り、それとは反対の拳を地面につけ、首を垂れている。二人とも、赤黒い布切れで両の眼をしかと覆っている。その布の下からは、涙のよう黒い血がとめどなく流れ出て、そのまま乾いた地面に小さな染みをつくっている。

「“暴”、それに“狡”か」

「応────」

 ジャイアンとスネ夫が短く応答する。彼は二人に向かって静かに頷いてみせる。

 それから、彼はかつての友の名前を呼ぶ。

「ねぇ、ドラえもん────どうやら僕は、ここから始めなきゃいけないんだね────」

 コートの襟を立てて肩をすぼめるようにして、彼は歩き出す。その後を少し離れた位置から、“暴”と“狡”が追随する。

 三人はこの世の果てを目指す。殉教者の間を通り抜け、幾千幾万の夜を超えて。

 死せる太陽へ向かって。

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