エピソード3 :逃走劇

 次の日、宿屋を出ると護衛騎士数名を引き連れた高貴な馬車が、目の前に停止した。そして、馬に乗った隊長らしい騎士に「――貴殿が姫様を救った恩人か?」と問われた。


「人違いでは?」


 爽やかに受け流すと、「そうか。 貴殿の名は?」と問われたのでここは素直に「エルデイル・ナディアと言います」と本名で答えた。


 そして1秒でも早くに立ち去ろうと丁寧なお辞儀をして左脚を出すと背後から昨日の少女の声で「――あーっ!」と叫ばれた。その後に「あの人よ! 直ぐに連れてきて!」と聞こえてくると同時に真後ろまで鎧のこすれる音と駆け足が聞こえてくる。


「(マズイ・・・)――ヤバイ・・・」


 咄嗟とっさに周囲を見渡すと、路地が無い。それに今は白昼なので、人の眼が有りすぎる。


「――きみ! ちょっと、良いかな?」


 左肩を掴まれる直前に俺は、魔法創造で開発していた身体強化ブーストを行使した。途端に、力が心臓から血管に乗って身体の隅々まで行き渡らせた。


 そして、両脚に力を加えて瞬発的な脚力で通りを駆け、建物の外壁を駆けのぼりそのまま屋根に軽々と上り建物の間をジャンプや前宙で飛び越えて疾走する。その光景に唖然としながらも、護衛騎士数名が「――待ちなさい!」とか「止まれ!」などと声を出しながら必死に追い続ける。


「――よっ、と・・・。 ほら、こっちだ!」


 俺は疲れを知らないかのように、向かいの屋根や屋台商店の屋根を飛び移っていく。


「ハハッ! ――もう疲れたのか?」


 数時間後。俺を追いかける数は、軍隊的な数に増えていた。


「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」


 息切れをしながら、石畳に座り込んでいる兵士や騎士がいる様を見ていると呆れてくる。


「たった数時間でこれなら、他の国が攻めてきて長期戦になったらそく陥落かんらくだろ。この国は・・・」


 屋根から飛び降りて疲れ果てている護衛騎士の前まで来ると俺は、両腕を挙げて「根性強さは最高だけど、体力が紙一重なのか?」と冗談を交えた。そして、「俺が要るのだろう? 捕まえないのか?」と両腕を目の前に突き出すと「・・・お前は、スピードザルか?」と冗談と呆れのコンボで返答しながら俺の手頸てくび手枷てかせをした。


 高貴そうな馬車の前まで連れてこられた後、中に案内された俺は護衛騎士隊長に軽く会釈えしゃくをしてから中に入った。


 中に入った俺は目の前の少女を見て、「(ああ、昨日の・・・)」と一人で納得した。


・・・・・


 特に会話もないまま国城まで来た後、“陛下に謁見”という言葉を聞いて驚いた。そして誤解を解くために“人助けがモットーです”と答えると、“名誉勲章めいよくんしょう”という話になった。


 いや・・・、ただの人助けが何で勲章くんしょうになる?


 そして今、エノール・フォン・メディスの厳しい疑いの目が俺を捕らえる中、国女イリアの証言と傷を負った兵士1人の証言が飛び交っていた。


「――ですから、お父様。 この方は、勤務放棄の近衛騎士数人に不純性交渉をされそうになっている私を、命がけで守り私のヴァージンを救っていただきました!」


「嘘だ! あいつは俺の部下を2人殺した殺人鬼だ!どうか、極刑を!」


「いいえ。 貴男達が勤務を放棄しなければ、今頃は平和な家族の会話になっていました」


 口論が続く中、ギプスを巻いた兵士の男が俺を指差して顔を青くした。


「――待て・・・、あいつは。 間違いない、14年前に無くなった旧ナディア辺境領の長男じゃないか! 何故なぜ、ここに居る!」


 旧ナディア辺境領という言葉を聞いた陛下が目を細めて「――旧ナディア辺境領、だと・・・?」と繰り返した。


「・・・少し、良いかな?」

「「へ?」」


 一同は呆然としながら、口論を辞めた。

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異世界にテンプレで死亡し転生した俺は、最前線で英雄と称されて無双する! ~異世界フロントライン(ISEFRO)~ @12{アイニ} @savior1of2hero

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