第9話
待ち遠しかった明日がやってきて歓迎するように雀は鳴く。まだ眠っていたいという瞼を開けて冷たい水をかけてシャッキとさせる。
寝癖を直すついでに髪の毛を濡らしてドライヤーで形を整えて、佐倉とのデートの時にしかワックスを手に取る。慣れてない手つきで髪の毛をかきあげて鏡の前でバッチリと決まった自分に少しだけ酔ってから朝食を食べる。
食べ終わった皿を片付けていたら、ポケットに入れていたスマホが振動する。濡れた手をタオルで拭いて、スマホの明かりをつける。
『先輩〜!起きてますか〜』
佐倉からの生存確認メッセージに起きてるよ、とだけ簡単に返して玄関に置いておいた手袋をはめて、靴箱からどんなに歩いても疲れないと謳っていた、商店街の靴屋でこの時のために買っておいた紺色と白がベースの靴を取り出して待ち合わせの中央駅前に向かう。
道の脇にほんのりと残った雪が水溜まりを作り出して、太陽光を反射し昼の街頭になっていた。肌をつくような寒さではなくて、撫でるように気持ちの良い温度でデートにはもってこいの日和だった。
中央駅前に着いたのは待ち合わせ時間の十分前で本当は九時三十分に待ち合わせだったので十分位ならば、簡単に時間が潰せるかと思ってた近くのベンチに座りに行こうとしたが横から不意に頬っぺをつつかれて、歩み始めていた足を止めて驚く。前に進もうとしていた歩幅は行き場をなくして転けそうになるけど、どうにかたえる。佐倉は雪のように白いスカートをなびかせて、天使のような様の服装に似合わない悪魔のような行動を取るのだから世話がない。
「先輩、十分前に着くなんて私とのデートよほど楽しみにしてたんですね」
「そういう佐倉も十分前に着いてるじゃないか」
「……はっ!確かに」
自分の発言を自分に返された佐倉は口に手を当てる。からうつもりが逆にからかわれて分が悪くなったせいか、早く電車に乗りましょうと強引に話題の駅を乗り換える。交通系マネーを改札にタッチすると、横からピーっと警告音が鳴った。見てみると佐倉の交通系マネーが残高不足で改札が犯罪者と認識して進行を阻んでいた。
「先輩〜」
「早くチャージしてこい」
泣き顔で助けを求める佐倉はチャージしにまた待ち合わせの場所に戻って、次はちゃんと改札を通っていた。少しだけのトラブルがあったが、十分前に二人とも着いていたので計画にはなんの支障もなかった。ホームにある電光掲示板は電車が今どこにいるかを教えてくれている。あと一駅で電車が来るので、乗る準備をしようと佐倉に声をかけようと振り返ると、自販機の前でどのジュースにしようか悩んでいる姿があった。
「おーい、佐倉早くしないと電車来ちまうぞ」
「えっ、まだジュースどれにするか決めてないのに。うーん、どれにしよっかな」
あまり急ぐ素振りも見せない佐倉を急かすようにホームに白線の内側にお下がりください、とアナウンスが流れた。
「おい、佐倉電車くるぞ!」
「えっと、えっと。これでいいや!」
ギリギリのところでジュースを買って二人は電車に乗った。雪乃下になんのジュースを買ったのかと聞かれた佐倉は手に持っていたりんごジュースを見せる。
「結局それにしたのか」
「なんだかんだ迷ってもこれにしちゃうんですよね」
「まあ、電車には時間通り乗れたからいいか」
雪乃下は揺れて変わりゆく窓の景色を見ながら時間通りに乗れてよかったと思う。
プレスレットフラワー パ・ラー・アブラハティ @ra-yu482
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。プレスレットフラワーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます