16. 猫と犬
右手に持っている球体の氷を見てから、再びニティカに視線を向けた。口を開けたまま何も喋らないニティカ……どうしたのだろうか。
〈えっと……〉
ニティカと持っている氷を交互に見ながら困惑していた。もしかしたら、氷が大きすぎて困っているのかもしれない。小さな氷にしておくべきだったと思い、もう一度氷を形成しようと慌てて右手を前に出そうとした。
「すっごーい!! ねぇねぇ、動物の形の氷も作れる!?」
「えっ?」
ニティカは目を輝かせながら自分の右手を見ている。動物の形をした氷が欲しいのだろうか。できないこともないが……自分も動物の形なんて形成したことがない。上手く形成できる自信がないが、試してみるのもいいかもしれない。
「多分、作れると思う。なんの動物がいいの?」
「猫と犬!」
「……」
困惑したまま小さな笑みを浮かべていた。二個も形成しろという意味なのだろうか。できれば一個がいいなぁ……とは言えなので、試しに形成してみることにする。
右手を前に出し、静かに目を閉じた。
猫と犬を思い浮かべながら、右手に冷気を集める。
──キィン
〈よしっ!〉
右手の手のひらに小さな猫と犬の形をした二個の氷ができていた。
想像以上に上手くできていたので、嬉しさから思わず笑みがこぼれてしまう。ニティカも喜んでくれるかもしれない。
「ニティカ、これでいい?」
ニティカに見せる為、しゃがんでから軽く握っていた右手を開く。右の手のひらに乗せている猫と犬の形をした小さな氷を見ると、ニティカは更に目を輝かせていた。
「可愛いー! ユフリッズ、凄いじゃない! ありがとう!」
ニティカは氷を受け取ると、満面の笑みを浮かべながら喜んでいた。
「……」
……誰かを喜ばせることが、こんなにも自分にとって嬉しいことだったなんて。
フリゼルス雪山に来る前の自分は誰かを喜ばせるようなことをしていたのだろうか。
──何も思い出せない。
「他にどんな事ができ……っ!?」
驚いた表情でニティカはこちらを見ている。
「……」
涙目でニティカを見ていた。喜んでくれて本当によかったと思うと、目には涙が滲んでいた。
「ど、どうしたの? ごめん、あたし無茶な事言った?」
「ぼ、僕の方こそ、ごめんね! ニティカが喜んでくれてよかったと思って……」
「可愛いすぎて食べづらくなっちゃったけどね。でも、ユフリッズがせっかく作ってくれたから食べるね、本当にありがと!」
そう言うと、ニティカは氷を口の中に入れて噛んだ。噛み砕けば氷はすぐに溶けて水になり水分補給ができる。
喉の渇きを潤したニティカが再び歩き出す。
「さぁ、行こ! ナズナ村へ!」
「うん!」
ニティカと共に登山口からフリゼルス雪山を出た。
霧雪の氷想紀 川之一 @kawayori
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