15. 登山口にて


 フリゼルス雪山の登山口が見えてきていた。


 やっとフリゼルス雪山から出られると思うと、嬉しさで笑みがこぼれる。自分が山を下りている間も氷の魂は何も言ってこなかった。やっと、フリゼルス雪山から出ることを許してくれたのかもしれない。

〈帰ってきたら、氷の魂に謝ろう。僕も言い過ぎたから……〉


 ……本音を氷の魂に言ってしまった。氷の魂は、自分をフリゼルス雪山に閉じ込めているわけではないと分かっていたのに。護衛人ガドラールは常に全元晶を護らなければならない。その為、必ず全元晶の近くにいることがきまりである。


 〈分かってはいるけど……僕も自由に色々な場所へ行ってみたいんだ〉

ずっと気になっていた事がある。他の全元晶を護っている護衛人ガドラール達は、常に側にいるのだろうか。自由に行動が出来ないことに不満を持たないのだろうか。


 もし、他の全元晶の護衛人ガドラールに会うような機会があれば、一度聞いてみようと思っている。


〈ハッ!〉

慌てて首を横に振る。

〈ぼ、僕は何を考えてるんだ。氷の全元晶の護衛人ガドラールなんだから、こんな失礼な事を考えてはいけない。やめとこう……〉

小さく首を横に振っていると、ニティカは白い目でこちらを見ていた。

「どうしたの?」

「えっ? な、何でもないよ! ニティカ、入り口が見えてきたね」

登山口を人差し指で指差すと、ニティカも満面の笑みを浮かべ始める。やっとフリゼルス雪山から出られると思うと嬉しいのだろう。


 「ユフリッズ、早く行こ! もう本当に寒すぎ!」

「う、うん!」

必死に雪を掻き分けながら進むニティカ。自分が片腕で抱えて歩いた方が速いような気もするが、必死に進むニティカを見ると声をかけられずにいた。それに、きっと自分が声をかけてもニティカは断ってくるだろう。

〈僕も……ニティカを見習いたいな。あんなに小さな身体で頼らずに進もうとするんだから。それに比べて僕は……〉

前を見ると、ニティカとの距離が空き始めていることに気が付き、早足で歩き出した。


 登山口に着くと、突然ニティカは積もっている雪の上に倒れた。驚いた自分は慌ててニティカの元へ駆け寄る。

「ど、どうしたの、大丈夫!?」

「ハァ……ちょっと休憩! 何か喉が渇いてきちゃった。この雪って食べて大丈夫かな?」

ニティカは雪を掴んでジッと見つめている。土の地面に積もっているので食べない方がいいとは思うが……。

「喉が渇いているんだね。ちょっと待ってて」


 右手を前に出し、手のひらを上に向ける。すると、冷気が右手に集まり始め、手のひらに乗せられる程の球体の氷が形成された。

「はい、これなら食べても大丈夫だよ」

ニティカはポカーンと口を開けたまま、こちらを見ている。

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