本編
気がつけば私はベッドに眠っていた。
「あぁ!お嬢様!」
メイドのリリーが歓喜の表情をして私を抱きしめた。
「わ、わたし、どうして…」
「倒れて3日も眠っていたんです」
そうだ、私は確か兄様の館へ向かう途中、突然倒れたんだ。
そして道中の記憶の中に私はぼんやりとスーツに身を包んだ男性の顔を思い出した。
男性は私に顔を近づけると、そのまま私に接吻したんだ。
「お嬢さま、まだご気分が優れないようですね。もう少しお休みなさってください」
リリーは私を再び横にして上からしっかりと布団をかけた。
次の朝――
「お嬢様、お客様です」
「誰?」
「お嬢様をお屋敷まで運んでくださった方です。ご親切にお見舞いに来てくださったとかで――お嬢様!」
気がつけば私は走り出していた。
意識が朦朧とする中で1つだけはっきりしていたことがあった。
彼は私と同じ
妖精族―― 通称エルフ。
この国には昔一部の地域の特定の条件下の森に特殊能力を持った部族が住んでいた。彼らは白い肌と銀色の髪を持ち、透き通った緑の瞳を持っていた。彼らは何千年と生きながらえる力を持っており、その中には治癒を早める能力や千里眼、読心術が使えるものなどがいた。しかし、政府はこの能力を恐れ、国を挙げて迫害を行い、何万というエルフが火炙りになったのだ。
私の一族は元を辿ればエルフだ。しかし長い歴史の中で身を潜めて人間として生きるうちに、力を失っていった。人間と混血し、気がつけばエルフの特徴はほとんど失われていた。
私はこの一族の中で覚醒遺伝として珍しくエルフの能力を持ったものとして生まれた。その特徴は能力を使う際に脊髄の上にエルフの紋章となって浮かび上がる。しかし私はまだ私と同じ能力を持った人間に会ったことがない。
親族には多少の能力は残るもののほとんど人間と化していたからだ。
人間とエルフの混血の場合には弱点があった。
それは能力を使うと命を削るということだ。
純血のエルフは長い生命を持ち、体に高度なエネルギーを蓄えていることで超越した能力を使用してもほとんど人間よりも長生きできた。しかし人間と混血したことにより、エルフの能力を使うことは生命を削るようになるようになってしまっていたのだ。
あの日も私は能力を使った。ある程度の覚悟をして。
私の予定では兄様のお屋敷についてから倒れる予定だった。そうすれば兄様が助けてくれると思っていた。でも予想外に私は旅の途中で倒れてしまったのだ。
死を覚悟した。予想した以上に命の消費が激しく、急激に体温が下がり唇は真っ青だった。
意識が遠のき、もうダメだと思った時、誰かが私を助けたのだ。
私は螺旋階段を勢いよく駆け下りた。
今までこんなに早くのこ階段を降りたことはない。淑女として恥ずかしいほど私は走っていた。
「あなたが……」
息も切れ切れに挨拶も忘れて私は客人の前に立ち止まった。
白い肌、緑の瞳、枯れ草のような美しいダークブラウンの髪を風に揺らし、一人の男性が立ってた。
「その分なら大丈夫そうだね。元気そうで安心したよ」
ネグリジェと無造作に束ねられた髪に気が付いたのは数秒後のことだった。
とんがり耳のエルフ姫 シンヤ レイジ @Shinya_Leyzi
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