第111話 大手ダンチューバー事務所の有名人の登場です。
「あら、
「おう。今日はギルド本部の最上階貸切って、蘭丸の誕生パーティーやったんや。んで、上から外眺めてたら、ヘルハウンドが大暴れやろ? これはうちらの出番やって来てみれば、なんとヘルハウンドがベルセルクにクラスチェンジ。これはますます闘志が漲るねぇってことでうちらにやらせてくれ、な? いいやろ、愛染」
ナックルを付けた両の拳をガチンッとぶつける、禅院と呼ばれた女性。
間違いない。
この人はダンチューバー事務所の最大手、〝ヴァルハラプロダクション〟のダンチューバーだ。
名前は、禅院カグラ。
金潜章持ちの18歳で、チャンネル登録者数は約410万人。
鍛え抜かれた肉体と、腰まで伸びた赤いくせ毛がトレードマークの禅院さん。
体にフィットしたアスリートのような装備を好む彼女の戦闘スタイルは、拳による打撃だ。
今も禅院さんの拳には1級武具の〝
但し、そのほかの装備は私服のようだ。
だって某スポーツメーカーのジャージとスニーカーだから。
金剛力士の手だけを装備しているのは、鋳薔薇さんと同じ理由からかもしれない。
「別に構いませんよ。ちゃんとベルセルクを倒してくれるのであれば」
「誰に物、言うとんねん。拳闘神カグラ様やで? 自称やけどな。なっはっは。んじゃ、早速やるとするか。蘭丸」
「そうだね。さっさと済ませるとしよう」
私の横を通る蘭丸さん。
ダンチューバーをやっていて、この人を知らない者はいないだろう。
禅院さんと同じヴァルハラプロダクション所属の男性ダンチューバー。
年齢は21歳で、シーカーランクは星波ちゃんと同じく虹潜章。
名実共もに同事務所のトップであり、チャンネル登録者数は約730万。
188センチという長身且つ、爽やかな風貌、穏やかな口調プラス、サラサラヘア。
更には、傑出した剣技でモンスターを狩る姿は正に、誰もが夢想する勇者の体現でもあった。
蘭丸さんもドラゴンを倒した1人で、相手はリヴァイアサン。
そのリヴァイアサンから与えられた鮮やかな青である
何か気づいたように後ろを振り返り、私を見る蘭丸さん。
?
でも何も言うことなくその場にあった剣を拾うと、鞘から抜いた。
「その剣でいいのか?」
禅院さんが蘭丸さんに問いかける。
「ああ。聖騎士団の剣。無属性だけど等級は2級。これで充分だ。カグラもいるからね」
「おう、うちがいれば百人力や」そこでカグラさんが、もう1人のメンバーに視線を向ける。「
「うん。任せて。ドローンのモードは常にサードパーソンビューにしてあるから、夜が見てるもの全部しっかり撮っちゃいますからネ」
ドローンを斜め後ろに固定している夜と呼ばれた少女。
彼女ももちろんヴァルハラプロダクション所属で、名前は
金潜章持ちの17歳で、チャンネル登録者数は約280万。
今は普段着だけど、ダンジョンでは巫女のような武具を着用している夜さん。
ふんわりボブカットで小動物のような愛くるしい見た目は、同性である私から見ても可愛いと思えた。
夜さんも私と同じ魔法師なので武器はロッド。
使用している魔法の属性は風だったはずだ。
ダンジョン外で魔法が使用できないということで、ライブ配信担当になったのだろう。
私の視線に気づいたのか、夜さんがニコッと笑って頭を下げてくれた。
私も笑顔と会釈で返したのだけど、多分顔が引きつっていたと思う。
だって、いきなりだったのでっ。
蘭丸さんと禅院さんがベルセルクと対峙する。
本当に2人で、レベル470のモンスターを相手にするらしい。
禅院さんは金剛力士の手があるからいいものの、蘭丸さんは2級武具の聖騎士団の剣。
いくら虹と金の潜章持ちで戦いに慣れていると言っても、ちょっと危険なのではないだろうか。
「大丈夫よ。あの人達なら心配しなくても。だって強いから」
私の心配を見透かしたような鋳薔薇さん。
そうだ。
あの2人は強い。
それも圧倒的に。
「そうですよねっ」
私ごときが心配する必要なんてないんだ。
「ところで四葉ちゃんもスマホで撮っておいたほうがいいんじゃない? よっ散歩の締めにはいい素材だと思う」
「え? でもいいんぇすか? 別の事務所の方ですし、勝手に動画配信したら怒られませんかね」
「今のご時世、誰もが配信者よ。スマートフォンという文明の利器のせいで、ね」
「そ、それはそうですけど、収益出ますし……」
「あら、そんなこともちゃんと考えていたのね。ふふ」
はい、一応考えていますっ。
「だったら、配信する前に言っておけば大丈夫よ。収益と言っても、彼らにとっては微々たるものだから気にしないと思うわ」
「はぁ」
ヴァルハラプロダクションのトップダンチューバーですからね。
いっぱい稼いでそうですもんね。
「それにダンチューバーというのは、自分が表現していることを他人に見せて楽しんでほしいという気持ちを誰しもが持っている。言ってしまえば、エンターテイナーね。それがモンスターとのバトルだったら尚更。だから大丈夫よ」
そうですね。
私も視聴者さんのみなさんに、よっ散歩している自分を見て楽しんで欲しいと思ってます。
最近はバトル増し増しになってますけど、こちらも大好評のようで安心してますっ。
私はスマートフォンのカメラを蘭丸さんと禅院さんに向ける。
「オ゛オ゛ォォォォォォッ!!」
制御不能の狂獣、ベルセルクが吠える。
「はっ!」
「いくぜっ」
それが開始のゴングかのように、2人が動いた。
武器以外は無級なのにそう感じさせないのは、さすが虹と金の潜章を有するダンジョンシーカーだ。
ベルセルクまであと3メートルほどというところで、2人が左右に分かれる。
左に走った蘭丸さんに、丸太のような剛腕を打ち下ろすベルセルク。
華麗なステップで交わす蘭丸さん。
ベルセルクの一撃が地面を割り、地響きを立てた。
「よっしゃ、オラァァッ!」
灰色の巨体モンスターの、隙だらけの左足を思い切り殴りつける禅院さん。
メキィィッ。
という音がこちらまで聞こえてくる。
ダメージがしっかり通ったのか、ベルセルクが地面に左足の膝を付いた。
よっしゃああああっ。
と私も歓喜ですっ。
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