第110話 キング・オブ・フライパンの奥義、炸裂!


 奥義は熟練度を上げることで使える技が増えていく。

 単に特級武具を手に入れたから、〝しん〟まですぐに使えるというわけではない。

 

 ならば、今の私の熟練度で使える奥義はおそらく、1番目の〝烈の技〟。


 棍棒の〝烈の技〟なら、技を使用するための発動モーションを知っている。

 2級武具までは、どんな武器も発動モーションは同じ。

 そこにオリジナリティはないから。


 発動モーションを終えたタイミングで〝列の技〟と口にすれば、発動条件はクリアである。

 

 キング・オブ・フライパンが棍棒のカテゴリであることを信じて私は、〝烈の技〟発動へ。


「グ、グルル、ウゥゥゥ……」


 私は両手でフライパンを持って、斜め下に構える。

 最初の奥義、〝烈の技〟ということもあり、発動モーションはこれでOK。

 あとは〝烈の技〟と唱えてトリガーを引き、技名を言えば――……、


「グルルルゥ……?」


 技名っ。

 どうしよう、技名なんて決めてない。


 技名はギルド公認のがいくつかあるけれど、どうしよう。

 それが一番無難だけど、なんかつまらない。

 ただでさえ発動モーションが同じなのだから、せめて名前くらいは変えたいかも。


「グ……ッ」


 えっと、名前、名前、名前…………、

 星波ちゃんみたいな、かっこいいのがいいよね。

 黒の旋風とか黒の咆哮とか、本当にセンスいいよなぁ。

 

 そうだ。

 私の武具って白だし、じゃあ私も星波ちゃんみたいに白から始める名前にしようっ。


 白の、白の、白のぉぉぉぉぉ……。


「グルアアアアアアアアアアアッ!!」


 きゃあああああっ。


 な、名前は――っ、


!!」


 バコオオオオオンッ!!


 私の〝烈の技〟、白のフライッぱーんがヘルハウンドの横っ面にクリーンヒット。

 頭を抱えたくなるほどダサいネーミングだけど、威力はさすが〝烈の技〟だ。


 ヘルハウンドは命の灯が消えたように、その場で横倒しとなった。

 

 私は勝ったのだ。

 

 ダンジョンではない場所。

 しかもエンシェントブーツしか装備していない状態で。


 良かったぁ。


 緊張の糸が切れて座りたくなる私。

 でも駄目だ。

 ヘルハウンドがあと一体いたはず。

 

 そいつは今どこに――……。


 ガサ……。


「あら、ちゃんと倒したみたいね」


 焦った。

 誰かと思えば鋳薔薇さんだ。


「あ、鋳薔薇さんっ。そうなんぇす、私、ヘルハウンドを倒しましたっ。このキング・オブ・フライパンで。烈の技まで使ったんぇすよ」


「それはすごいわね。でも、やれると思ったわ、四葉ちゃんなら。ところでなんでフライパンなのかしら。四葉ちゃんのエンシェントロッドが打撃もいけるのは知っていたけれど、だったらそこの武器でも良かったんじゃない」


「へ?」


 私は地面に落ちている、〝そこの武器〟を見る。


 いかにも等級の高そうなメイスだ。

 

 

 名前は、巌窟王がんくつおう金砕棒かなさいぼう

 等級は、一級

 値段は、1300万円――たっかっ!!


 

 100パーセント私向きの武器だった。

 

 今頃出てくるところに、神の嫌がらせを感じるのは私だけでしょうか?


「何はともあれ、四葉ちゃんが倒してくれたからこれでもう大丈夫ね」


「大丈夫って……え? 3体倒したんぇすか? あと1体は誰が……」


「ギルド職員よ。二人がかりで何とかって感じだったわ。こういうイレギュラーな事態を考慮して、もっと対処に慣れた人員を増やすべきよね。あとでギルド本部の窓口に直接言いに行こうかしら」


 ヘルハウンドは倒され、武具市に平和が戻ったようだ。

 戻ったとはいっても武具市はめちゃくちゃだ。

 被害者だって出ているかもしれない。


 さすがに、よっ散歩はもう中止だ。

 今やるべきことは、被害者の確認と武具市の片付けだろう。


「オ゛オ゛ォォォォォォッ!!」


 天を切り裂くような叫び声。


 えっ!?


「今のは明らかにモンスターの声。まだいたらしいわね。そういえばトラックは2台だったから、もう一台のほうのコンテナに入っていた奴ね。しかもこの叫び方、ヘルハウンドよりも厄介なモンスター」


「や、やっぱり、モンスターなんぇすねっ。ヘルハウンドより厄介なモンスターって一体どんな――」


 ドゴンッ、ドガンッ、バキィッ、ドゥゥゥンッッ!!


 いくつもの露店の屋根が宙に舞う。


 とてつもなく怪力の持ち主が大暴れしているかのように。

 そいつは緑色の屋根を吹き飛ばし、並べられた武具の数々を蹴り飛ばすと、ようやく私達の前に姿を見せた。


 圧倒的な巨漢だった。

 身長は3メートルを少し超えたくらい。

 屈強などという言葉で表現しきれない、灰色じみた岩のような体。

 

 手足は巨木のように太く、この世の全てを蹂躙できるといわんばかりの存在感だ。

 もしかしたらGBレプリカだって破壊できるかもしれない。


 ヘルハウンドとは違う、この人型モンスターを私は知っている。

 この数日間、ちゃんとモンスターの勉強をしてたので、はいっ。


「やっぱり。制御不能の狂獣、ベルセルクね。レベルは470。クラスAダンジョン相当だけど、よくあんなのを捕獲したわよね。どうやら、あちらの団体さんには腕のいいシーカーがいるみたいね」


 相も変わらず冷静な喋り口調の鋳薔薇さん。

 ダンジョン保護活動団体を褒めている場合じゃないですよっ。

 

 レベル470といえば、ケルベロスより20上だ。

 とはいえ、ここがダンジョンで装備も整っていれば、鋳薔薇さんはもちろんのこと私でも勝てる気はする……少しだけ。


 やっぱりネックは装備が心もとないことに集約される。

 こうなったら防具も、なんでもいいから身に着けたほうがいいかもしれない。

 でもそんな暇はなさそうなので、私はとりあえず巌窟王の金砕棒を拾った。


「四葉ちゃん、もしも戦う気でいるなら、あなたは少し待ってなさい。わたくしが最初に相手します。ベルセルクの攻撃パターンをあなたに見せるから、覚えてそれから加勢して」


「わ、分かりましたっ。攻撃パターン勉強したら加勢しますっ」


 いきなり参戦して足手まといにはなりたくない。

 私は両の瞳をカッと見開いた。


 そのとき――、


「ちょい待ち。そいつはうちらにやらせてもらおうか」


 その声に振り返る私。

 2人のダンジョンシーカーが立っていた。

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