第106話 よっ散歩、武具市編の開始ですよ。


 よっ散歩。

 

 ただその内容は、ライブ配信ではなくてアーカイブ動画として残すことにした。

 

 ここはダンジョンではないし、ゲリラ的ライブ配信はなるべく控えたほうがいいと思いまして。

 視聴者によっては不公平に感じるかもなので。


 武具市の撮影がオッケーだというのは確認済みだ。

 クリーンな売買ゆえだろう。

 

 ただ、店主の中には自分を映されるが苦手という人も当然いる。

 なので極力、武具メインで撮影することにした。

 あと店主の前で、武具に対して否定的なことは言わない。

 人を傷つける動画は撮りたくない私だった。


 ということで、スマートフォンで録画開始。


「みなさん、こんにちは。ダンチューバー四葉でーすっ。うぇいうぇいっ。今日はですね、用事があってギルド本部に来たんぇすけど、その帰りに武具市に寄ってまーす。あ、よ、用事なんぇすけど、1つ目は……なんだと思ぃますかぁ? ヒントは潜章カードですっ」


 スマートフォンから「しーん」という擬音が聞こえた。

 

 あ。

 これ、ライブ配信じゃないんだった。


 ちょっと調子の狂う私。


「そ、そうぇすっ。なんと私、今日、潜章カードが銅から銀になりましたーっ。わー、パチパチパチッ。もうね、ダンジョンシーカーになってから2ヵ月ちょっとで、銀潜章になるなんて、これっぽっちも想像してぃなかったのでびっくりです。


 あ、でも自分1人の力で銀潜章をもぎ取ったなんて思ってませんよ? 色んな方の助けがぁったからこそだと思ってます。もちろんそこには、視聴者のみなさんも含まれてますっ。いつも応援ありがとぅございましゅっ」


 テロップで、〝しゅ〟に✖を付ける編集ぅぅぅぅぅっ。


「そして2つ目なんぇすけど、なんだと思ぃますか?」


 って、だから視聴者の皆さんはそこにはいませんよ、私っ。


「手形式を行ってきましたー。私って聖属性の魔法を使ってるじゃなぃですか? だから聖属性に適性があることを願ぃながら行ったんぇすけど――、結果はなんと! 〝大いに適性がある〟でしたーっ。これはホントにめちゃんこ嬉しくて、帰りにおいしいパフェで自分をお祝いしよぅと思ってまーす」


 ライブ配信ならここで、〝おめでとー〟〝良かったねー〟などの祝福の声がコメント欄をたくさん流れていったかもしれない。

 でもスマートフォンの液晶には私の顔だけが映っている。


 ちょっと寂しくは思う。

 だけどこの寂しさが次のライブ配信の糧になるのは間違いない。

 

 早く、みんなに逢いたいなぁ。


「それではさっそく、武具市のよっ散歩を始めよぅと思いまーす。武具、その中でも武器にしぼって、面白いのやかっこいぃのを見つけたらみなさんにご紹介しますね。楽しみぃ♪」


 私はテンション高めに武具市の散歩を始める。


 すると早速、手前のお店に気になる武具があった。


「あ、ちょっと見てください。これ、剣がウネウネェってなってます。え? なんですかね、これ? 熱で変形しちゃったんぇしょうか。等級は3級ですね。お値段は……13万3千円! なかなかいぃお値段ぇすね。ウネウネェってなってますが」


 私がそこまで述べると、髭ずらの店主がしゃべりかけてきた。


「ははは。そのウネウネはそういった仕様なんだよ、お嬢ちゃん。ショーテルって名前なんだけどな、敵の盾を避けて攻撃できるようにそうなってんだ。ま、モンスターは盾なんて持ってねぇけどよ、ガハハッ」


 なるほど、仕様だったんですね。

 勉強になりましたっ。

 でも鞘に入らなそうなので、持ち運ぶのが大変ですね。

 髭の店主さん、ありがとうございました!



 別の店でまた面白いのを発見しましたっ。


「これ、みなさんなんだと思ぃます? 傘ですよね、どう見ても。傘が武器ってどういうことなんぇしょうね。あ、分かりましたっ。もしかして、ウータンバットのうんちを防ぐ道具なのかもしれませんねっ」


 推理を披露する私にセクシーな女性店主が声をかけてきた。


「あら、可愛い配信者さん。ダンチューバーかしら。ところでそれは傘ではなくて傘に見せかけた傘ソードよ。モンスター相手に傘に見せかけたところでなんの意味もないわよねぇ。あなたも言ったけど、頭上からの糞を防ぐにはいいかもしれないわね」


 傘ソードですか。

 なんかスパイが使いそうな武器ですけど、モンスター相手じゃ無意味なギミックかもしれませんねっ。

 セクシーな店主さん、ありがとうございました!

 


 別の店でまた、おや?っていう武器を見つけましたっ。


「これはあれですね、これは絶対あれです、釘バットですっ。でも釘バットですか。なんかファンタジーといぅか喧嘩マンガっぽい武具ぇすよね。お値段は……うっそ!121万4千円!? 等級も2級ぇすかっ! え、でも、釘バットですよねぇ??」


 釘バットの値段と等級に驚く私に、ダンディな男性店員が話しかけてきた。


「お嬢さん、それはポイズンクラブだよ。釘だと思っているそれはポイズンワームといって、クラブをふるたびにモンスターに効く毒ガスをまき散らす寄生虫さ。寝ているわけじゃないから動きはするよ。ほら」


 ほらと言われてバットを見ると、数多の釘のようなポイズンワームがうねうねと動いていた。


 きしょすぎいいいいいいいいいいいっ!!


 ダ、ダンディな店主さん、あらがとございあせたーっ!



 別の店でとてもかっこいい武器をロックオンしましたっ。


「み、みなさんっ、これはすごぃですっ。剣は剣でもこれはかなり近未来的な剣ぇすねっ。装飾やら紋章やらもあって、この真ん中の宝石を触るとなんか起きそうな気がしますねっ」


 私は宝石に触れる。

 すると、


 ガシャンッ、ガキンッ、ガコンッ、グオオオオオッ、ブイィィィィン、プシュウウウウウウゥゥゥ。

 

「す、すごぃですっ。宝石に触ったら剣が銃のような形に変形しましたっ!! こ、これ、絶対1級武具、いや特級武具に間違ぃありませんっ。……等級は――えっ、!? お値段は……書いてない。書けなぃほどの金額ぇしょうかっ。これはとんでもない武器を発見しましたっ!!」


 驚愕していると、不愛想な7、8歳くらいの子供の店員が応対してくれた。


「いやそれ、〝超特級戦士スペシャルマン〟が使っていた剣のおもちゃだけど? 欲しいならタダで上げるよ。オレ、もう飽きちゃったし」


 ……あ、いえ、いらないです。すいません。


 それからも色々な武器を見つけては、動画に撮りまくった私。

 まだ半分くらいの店しか見ていないのだけど、使える素材は充分すぎるほどだ。


 とはいえ、せっかく武具市に来たのだから、もっとほかの店を覗いてみたい私。

 私は、少し休憩してから後半戦を始めることにした。


 露店でジュースを買ってベンチに座り、一息吐く私。

 すると、


「あら? 四葉ちゃんじゃない」


 私を呼ぶ声が聞こえた。


 顔を上げるとそこにはなんと、鋳薔薇さんがいた。

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