第105話 私の適性魔法が今、明らかになります。


「し、失礼しまぁす」


 私は緊張しながら個室へと入る。

 学校の教室程の広さである個室。

 あるのは、奥の机に並べられた属性毎の手形式用の台座と、ちょっと大きめの観葉植物だけだ。


 「こちらへどうぞ~」


 机の向こうに立つギルド職員に呼ばれて、私は机の前に立つ。

 目の前には〝火・水・雷・風・土・氷・闇・聖・無〟毎の9つの台座。

 

「どの魔法属性の適性をお知りになりたいですか~? 湊本様が今、使用している魔法の属性から試すのがいいと思いますけど、どうします~?」


 語尾が特徴的なギルド職員に促されて私は――私は――……、


「じ、じゃあ、えっと……でお願ぃしますっ」


 怖かったんですっ。

 いきなり聖属性試して、〝著しく適性に欠ける〟だったらと思うとっ。


「火ですね~。ではここに右手を置いてください。置いたら、10秒ほどそのままでいてくださいね~」


 と言われて、台座に右手を置く私。

 すると徐々に台座の表面の色が……うっすらとだけ赤くなった。


 ギルド職員の表情が、私を憐れむそれに変わる。


「……申し上げにくいのですが、結果は〝適性に欠ける〟ですね~。でも落ち込むことはないですよ~。〝大いに適性がある〟属性を探して、今からでも使用する魔法を変えればいいだけのことですからね~」


 魔法は物理攻撃系とは違って、使い勝手の良さよりも適性に重きを置く。

 それが常識であり、だからこそギルド職員の言っていることは正しい。

 

 でも、私の場合はそうじゃない。

 エンシェントロッドを使い続ける以上、使用魔法を変更する選択肢はない。


「じゃあ、あの……次は聖属性でお願ぃしますっ」


 私は、聖属性用の台座に右手を置く。

 

 さあ、どうなるだろうか。


 1秒……2秒……3秒……4……5……6……7……8……9……10……11……12…………


 え、12秒超えたのに全く、色が出ないんだけどっ!? そんな……っ!


「あ~、この段階で色が全く出ないとなると、聖属性は〝に欠ける〟になりますね~」


 ギルド職員が残念そうに首を振る。


 まさかの結果だ。

 私には聖属性の適性がない。

 ないどころか、〝著しく適性に欠ける〟だった。


「はあああああああああああああ」


 落ち込む私。


 すると、ギルド職員が、はっとした顔を浮かべて、


「あ、ごめんなさい。この手形式、でした~。こっちが聖属性用ですね~。もう一回、お願いします~」


 はああああっ!?

 雑じゃないですか!?

 仕事との向き合い方っ!!


 なんてことを言える勇気もなくて、ちょびっとだけ頬を膨らませる私だった。


 気を取り直して、聖属性用の台座に手を置く私。

 ものの3、4秒で台座の表面が眩しい程に黄金色に光り出す。

 あまりの眩しさに、ギルド職員がサングラスを装着するほどだった。


 結果。

 私は聖属性に〝大いに適性がある〟だった。


 やったああああああああっ。


 帰りにおいしいパフェを食べてお祝いしようっ。


 ルンルン気分で私は個室を出る。

 私は聖魔法に、〝大いに適性がある〟。

 聖属性のエンシェントシリーズを頂いて、しかもこの結果。


 あとは熟練度さえ上げれば完璧だ。


 全ての武具に共通する〝熟練度〟。

 この熟練度は、武具の等級や適性のようにその時点で決まる要素ではない。

 ある程度の期間使い続けることによって、徐々に上がっていくのだ。


 でも私は不思議だった。

 物理攻撃系武具は分かるけど、言ってしまえば魔法を唱えるだけのロッドに熟練度があることが。

 

 それに納得のいく回答をくれたのは、星波ちゃんだった。

 私は昨日の長電話(2時間14分)の中での会話を思い浮かべる。

 


 ――魔法って、魔力を練り上げると強くなるんだ。


 ――魔力を練り上げる?


 ――うん。例えば味噌汁。あれって放置しておくと水と味噌に分離されるよね。あの状態で飲んでも、味噌汁本来のおいしさは味わえない。魔力も同じことが言えて、魔力を生み出す成分の結びつきが弱いと、比例して効果も落ちてしまうんだ。


 ――なるほど。だから練り上げて魔力の成分の結びつきを強くするんぇすね。


 ――そう。要はその練り上げる速度が、魔法を使えば使うほど上がっていくわけ。魔力の総量上昇と同じようにね。


 ――そういうことだったんぇすね。分かりやすい説明ありがとございますっ。


 

 こうして謎は氷塊したのだった。

 

 ところで私は気になっていることがあった。

 エントランスの窓から外を見ると、数人が談笑しながら歩いている。

 

 その内の一人の手には剣。

 柄から上の剣身には、怪我をしないようにエアパッキンがグルグル巻き。

 良~く見れば、〝お買い上げ〟のシール。


 やっぱりそうだ。

 ギルド本部の入口に行くとき、右手に出店のようなものが見えたけど、あそこは〝武具ぶぐいち〟だったのだ。


 武具市とはその名の通り、武具の売買を行っているところだ。

  

 武具の売買は、〝資格を得た民間企業〟・〝個人〟と2通りの方法があるけれど、武具市は個人のほう。


 とはいっても、国の許可を得て取引する市場なので、厳密には個人とは言えないかもしれない。


 個人間の取引だとトラブルが多いけど、さすがにギルド本部を前にして悪徳なことをする店主はいないだろう。

 ギルド職員も見回りしているので、取引自体はクリーンなはずだ。


 どんな武具があるのかな。


 私はギルド本部から出ると、好奇心という誘惑に素直に従うことにした。

 

 おいしいパフェは後回し。

 もう少しお腹を空かせてからのほうが、おいしく食べれるしねっ。



 ◇



 本日2度目の、


「はへええええええええええええええええええ」


 が、私の口から伸びやかに出た。


 私の通っていた中学校の校庭×3くらいの面積に、整然と並ぶ店、店、店。

 その様は正にフリーマーケットそのものだ。


 色とりどりの屋根を持つ露店。

 店の前に並べられた多種多彩な武具。

 その武具を見ている人(ダンジョンシーカーのはず)と、店主の活発なやり取り。


 この雑多な感じが妙に心を掻き立てる。

 それは多分、お祭りの屋台に似たものを感じているからだろう。


 散歩じゃなくて、バトルメインのダンチューバー目指していたら、もっと早くに来てたんだろうなぁ。


 私は店に並んだ武具を見るために一歩踏み出し、止まる。

 

 あ、そうだ!


 私の頭上でピカっとライトが光る。

 

 ここで、

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