第100話 それぞれの帰る場所。
おっ、戻って来たぞっ。
やったあああああ!
ナユタ王女様!!
良かったぁっ
ソーラさん、ナイスファイトッ!!
うおおおおおおおおおっ!
よっちゃん、会いたかったよ!!
みんな無事でよかった!!
カイさーんっ、ルカさーんっ!
わああああああああっ、パチパチパチッ!!
えっ!!?
ダンジョンの外では歓声が沸き上がっていた。
どうやら多くの人が、私達が脱出してくるのをダンジョンの外で待っていたらしい。
一体、何人いるのだろうか。
100? 200?? あるいは300っ??
「はへええええええええええええ」
とにかく多くて、びっくりする私だった。
「な、なんだよ、これ。俺達、すげぇ注目されてねぇか……?」
「そ、そりゃされるでしょうよ。ナユタ王女の生還なんだから」
顔が強張っているカイさんとルカさん。
場違いだと思っているなら私もですっ。
この状況で最初に発言するとか絶対に無理っ。
って、ライブ配信とかしてる場合ではないのでは!?
私は後ろを向いて小さく、縮こまる。
(み、みなさーんっ。いきなりでアレなんぇすけど、状況が状況なのでライブ配信のほう終了とさせてぃただきます。ごめんなさいっ。な、長い間、お付き合いしてくださってありがとぅございましたっ。みなさんの応援、ほんとうのほんとうに心強かったぇすっ。また次のダンジョンのライブ配信でお会いしましょうっ。ごしょちょーあらがとうござぃませたっ)
ド派手に噛んだあああああっ。
【コメント】
・分かった。お疲れさんっ!
・りょっ!!
・オッケーっ
・確かにこの状況でライブ配信は無理だわなw
・誰かがこれライブ配信で撮ってないかな
・最後www
・次のダンジョンでッ!!
・ごしょちょー???
・なんて言ったん!?
・またね、よっちゃんっ
本当にごめんなさい、皆さん。
今度のライブ配信では、ドローン持参で鮮明な映像と良好な音声でお送りしまーすっ。
その後――。
ナユタ王女が第一声を上げてくれた。
みな、心配を掛けた。余は生きて帰ったぞっ。
覚えているのは最初のそこだけで、あとの言葉は衆人環視による緊張で聞いたそばから忘れてしまった。
視聴者のみなさんにスマートフォン、あるいはドローン越しに見られるのとは訳が違う。
こういった注目のされ方に慣れていない私はとにかく早く、ここから逃げ出したかった。
ナユタ王女とソーラさんの周りに一斉に人が寄ってくる。
国王っぽい人物(マジですか?)や、その側近らしき人達。
日本政府と思わしき人間や、マスコミ関係と推測できる方達。
その他、ナユタ王女と何かしらの繋がりのある者が集まって、彼女を中心に大きなドーナツを形成する。
こちらに向けられる瞳の数が、一気に3分の1くらいになった。
凝り固まった緊張感が和らいでいく私。
とはいえ、それでも居心地がいいとは言えない。
「湊本。悪いんだが、俺達はもう行くわ」
カイさんが、私の耳元に小声で喋りかける。
「えっ、行っちゃうんぇすか? ちゃんとナユタ王女とお別れしたほうが……」
「いいんだよ。あんな状態だしな。それに今がチャンスなんだって。色々とめんどくせぇことに時間取られたくねぇからな」
「それに契約内容は、〝渋谷Bダンジョン探索時の案内、及び護衛〟。つまり私達の役目はもう終わり。報酬は前金ですでにもらっているし、だから帰るのよ」
相方のルカさんも同意のようだ。
「そぅですか。もっと一緒にいたかったぇすけど、分かりました」
「湊本」
「はい?」
カイさんが私の左手を両手で握った。
「助けてもらった感謝をちゃんと言ってなかったよな。本当にありがとう。湊本のおかげで今、俺やルカはここにいる。大したことのねぇ、でも精一杯の生き様をこれからも晒せていける。お前は最高のダンジョンシーカーでありダンチューバーだ。チャンネル登録して応援するぜ」
「カイさん……」
「またどこかで会えるといいわね。それじゃあね、ちっちゃな勇者さん」
カイさんとルカさんが離れていく。
そんな2人を、数十人の人が笑顔で出迎えている。
恰好からしてダンジョンシーカー仲間だろうか。
彼らにもみくちゃにされているカイさんとルカさん。
当たり前だけど、彼らには彼らの帰る場所があるのだ。
脱出の成功を心の底から労い、称え、喜んでくれる仲間のいるホームが。
「……だから勇者じゃないって言ってるじゃなぃですか」
ぽつんと1人残されたというのも相まって、途端に寂しくなる私。
いいな。
私にはそんな場所は――。
「よつばあああああああああああっ!!」
え? 誰っ?
っと声のほうを振り向くとそこには――、
ももちんさんが勢いよく私に抱きついてくる。
「わたたっ。……ももちん、さん?」
「四葉、無事で良かったよぉぉっ。まさかあんな風に別れるとは思ってなくて、だからボク、何もできなくて……っ。本当にごめんねぇぇ。えぐえぐっ」
抱きついたまま肩越しに話すももちんさん。
って、力、強いですね……っ。
「べつにももちんさんは悪くないぇすよ。あんなことになるなんて誰も予想できませんから。だから謝らなぃでください」
「でも、大きな地震が来るかもしれない予兆はあったし、もっと警戒するべきだった。それが事務所の先輩のボクの役目でもあったのにぃ……えぐえぐっ」
「本当にもう気にしなぃでください。てゆーかあの崩落のおかげでナユタ王女やソーラさん。それにカイさんやルカさんに会えたので、結果オーライですっ」
「本当にボクのこと、許してくれる? えぐえぐっ」
「もちろんですっ。最初から怒ってませんから」
「本当の本当に? 怒ってない? えぐえぐっ」
「はいっ。だからもう泣かないで、私にちゃんと顔を見せてくださぃね」
「うん」離れるももちんさんが涙を拭きながら私の前に立ち、顔を上げた。「おがえり、四葉っ」
鼻水がだらだらのぐっちょぐっちょで凄かった。
「は……はい、ただいまっ」
「ちょっと、もももちゃん、顔。それ、配信だったらNGなやつね。四葉ちゃん、無事で何より。おかえりなさい」
あ、その声は――っ。
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