第99話 皆さんお待ちかねのアレの出番ですっ。


 GBレプリカの体が再び赤く光り出す。

 歪な形となった巨大人型ロボットの右手が、肩のビームブレードに伸びる。


 どうやら必殺攻撃のバーストシンフォニーを使用する気らしい。


「みなさん、ちょっと下がってもらっていいぇすか? 今度こそ完全完璧に倒しますので」


 私はエンシェントロッドを構えながら、4人にお願いする。


「み、湊本……っ」


「お願ぃします。下がっていてください」


 私の揺るぎない決意を理解してくれたのか、カイさんは「分かった」とだけを述べて、後ろへと下がる。

 ルカさん、ソーラさんも黙ってカイさんに続く。


「撮影もしたほうがいいじゃろ。ほれ、それをこっちへ」


 ナユタ王女が、撮影を買って出てくれる。

 私は「お願いします」と頭を下げると、スマートフォンを渡した。

 

「……頼んじゃぞ、四葉」


「はい。絶対に次で決めます」


 転移門は消え去った。

 全員が意気消沈して現状を嘆いた。

 ハッピーエンドがすぐそこにあったのに、跡形もなく霧散した。

 

 全て目の前のGBレプリカのせいだ。


 

 

 GBレプリカが握るビームブレードに、赤き殺意の波動が集約される。


「我ぁアストライアと契約せし聖なる汝を崇める者――……」


 ビームブレードの、うねり迸るエネルギーが大気を揺るがす。


「血の盟約ぃ従い魔力マグナの付与を授からん――……」


 GBレプリカがビームブレードを頭上に掲げ――振り下ろす。


「ホーリーヴァレスティッ!!」


 私はエンシェントロッドで宙を切る。

 次の瞬間、燦然さんぜんたる光の柱がうねりながら上昇していく。

 

 目の前の光柱が、ビームブレードから放たれたエネルギーの大波が弾き、その勢いを消失させた。

 

 混じり気の一切ない白で覆われる、ダンジョンの天井。

 ケルベロス戦と同じように、その白の空間から数多の大きな槍が顕現する。

 それは、どこまでも圧倒的で神々しい光景。


 ズダダダダダダダダッ!!


 天空からの裁きを思わせる槍の雨が、GBレプリカのあらゆる箇所に突き刺さる。

 あまりにも一方的な断罪だった。

 

 幾本もの白い槍が消えていく。

 そこに残ったのは、私が勝利者という揺るがない事実のみだった。


「ふぅ……みなさん、終わりました。先に進みましょう」


 誰も口を開かない。

 皆が口を半開きにして私を眺めていた。

 

「? あの皆さん、終わりましたよ?」


「なんなんだよっ、今のっ!!」


 ため込んだ息を吐き出すかのように叫ぶカイさん。

 私を見るその表情には畏怖的なものも垣間見えたけど、多分勘違いですね、はい。


「何って聖属性上位魔法のホーリーヴァレスティぇすよ。ネットとかで見たことぁりませんか?」


「ま、まあ、あるけどよ。あるけど実際にこの目で見て、こんなにすげぇ魔法だとは思わなくて言葉が出なかったわ」


「ですよね。私もそう思ぃます」


 上位魔法はあと1つあるのだけど、そっちもホーリーヴァレスティ並にすごいのだろうか。

 状況的に相応しくなったら今度使ってみよう。


「ほんとね。感動が過ぎると言葉って出ないのよね。……でも少し同情するわね、あれ」


 ルカさんが〝あれ〟と称したモノに目を向ける。

 そこには大小、様々な鉄くずが散乱していた。

 ゲルダムバーストのレプリカだと言わなければ、誰も気づかないだろう。


「やったな、四葉っ! 見事じゃったぞっ。正に勇者そのものじゃったッ」


 ナユタ王女だ。


「ナ、ナユタ王女、勇者は言い過ぎぇすよ。私はどちらかと言ぇば後衛の魔法師ですし、勇者だったら剣を持って先頭に立つカイさんのほうぇすよ」


「そーゆー気遣いは人を傷つけるから気を付けなっ」


 カイさんの声が飛んでくる。


「ならば全知全能の賢者様じゃな。ほれ、視聴者のみなさんにも自分の口から伝えんか。みな、待っとるぞ」


 全知全能の賢者って……。


 私はナユタ王女からスマートフォンを受け取ると、カメラを自分に向けた。


「視聴者のみなさーんっ。しっかり見てくれましたか? 私の怒りのホーリーヴァレスティ。みなさんもいつ使うんだろぅって思っていたと思うんぇすけど、何の告知もなく使っちゃったんでびっくりさせちゃぃました?」



【コメント】

 ・しっかり見届けたよ!マジですごかった!!

 ・なんか使う雰囲気でていたけどもっ

 ・ナユタ王女がちゃんと撮ってくれましたよー

 ・これは嬉しすぎるサプライズ

 ・やっぱりホーリーヴァレスティよ。よっちゃんは

 ・レベチだったなホリヴァレ

 ・やりすぎからのやりすぎとかレプリカに同情しかないw

 ・ガス欠は大丈夫??



 みなさん、しっかり目に焼き付けてくれたようですね。

 確かに中位魔法とはレベルが段違いでしたね。

 上位魔法ってこんなに強力なんだと改めて思いましたっ。

 

「そうそう、ガス欠なんぇすけど、なんか大丈夫そうです。多分、魔力の総量が上がってぃて、しかもマックス状態で使ったからだと思ぃます。でもでも、さすがに魔力の大幅な減少は感じていて、またゲルダムバーストレプリカにお世話になろぅと思います」



【コメント】

 ・ガス欠回避やった!

 ・戦えば戦うほど魔力の総量は上がるからね

 ・全部粉々にしなくて良かったなw

 ・指の一本でも持ち歩いたほうがよくね?

 ・¥10000《レプリカの撃破おめでとう! 最高にかっこよかったよ。ところで大事な話。転移門は別に消えていなくて、上に載ってる腕をどかせばそこにあるはず。魔法で壊しちゃって》



 そうですね。

 今後のことも考えて、指を引きちぎって――、


 って、ええっ!?


 星波ちゃん、その情報は本当ですかっ!!

 だとしたらめちゃんこ朗報じゃないですかっ!


 私は言われた通り、スピリットマーキュリーで左腕を壊す。

 すると下から転移門が、こんにちは。


 私達は全員で手を取り合って抱き合う。

 今度こそひっくり返ることのないハッピーエンド。

 まだこの5人で冒険を続けたいという気持ちはちょっぴりあるけれど、それは口には出せない叶うことのない願い。


 私達は渋谷Bダンジョンの脱出に成功した。

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