第97話 ナユタ王女が何か見つけたようです。ってそれは――っ!!


「ところで四葉よ、一つ聞きたいのじゃがよいか?」


 ナユタ王女が聞いてくる。


「はい、なんでしょぅか」


「配信というのはどう始めればよいのじゃ? いや、余もライブ配信というものに興味を持ってしまってな。国に帰ってからやろうと思っているのじゃ」


 やっぱり興味を持っちゃったみたいですね。

 あれ? でもアクレシア国にはダンジョンがなかったような……。


 という疑問をナユタ王女にぶつけると、


「余がやるのは王宮配信じゃっ。我が王宮はやや閉鎖的なところがある。常々、もっと国民に開かれた王宮であるべきだと思っていたのじゃが、ライブ配信は丁度いいツールだと思ってな。フレンドリーな感じで、国民に王宮を知ってもらうことができるじゃろ? ソーラはどう思う?」


「面白い試みだとは思います」


「そうじゃろ、そうじゃろっ」


 ソーラさんの同意を得て嬉しそうなナユタ王女。

 だったのだけど、


「とはいえ、王宮の内情を晒すようなことをしてはなりません。不測の事態を招かぬよう閉鎖的であるとご理解ください、王女様」


 と不心得を諭されてしまうのだった。


「うぅ……」


 しゅんとするナユタ王女。

 その様は、やっと見つけた遊び道具を取られたかのようだ。

 ソーラさんの眉がぴくりと動く。


「……ではこうしたらいかかでしょう。王宮ではなく国の観光地をめぐりそこでライブ配信するのです。ナユタ王女自ら赴き、その場所の良さを伝えることができれば、国内外問わず多くの人間が訪れて潤いを与えてくれるでしょう。観光地は多種多彩なモノで溢れております。王宮よりもライブ配信のしがいがあると思いますが、いかがでしょうか」


 ナユタ王女の表情に、ぱあぁぁぁっと花が咲いた。


「それはナイスアイデアじゃ、ソーラよ。赤すっぺもたくさんもらえるかもしれんのう。これは楽しみじゃっ」



【コメント】

 ・それ、普通に興味あるかも

 ・国民全員登録したらすぐにトップ配信者だなw

 ・そのときはぜひソーラたんも出してあげてください

 ・王女がやるとか前代未聞すぎて草

 ・赤すぺで財政潤っちゃったりしてw

 ・まずは脱出が先決や



 これは本当にライブ配信をやりそうですね。

 アクレシア国のことを、ナユタ王女を通じて知れる試みはいいと思いますっ。

 ソーラさんも出演したら視聴者さんも増えそうですね。


 それはさておき――脱出です!


「ボスみてぇなの倒してダンジョン踏破って気でいたけど、そうじゃねぇんだよな。ここ、崩落に巻き込まれたさきの未踏の領域だったんだよな」


「あー、聞きたくなかったそれ。現実に戻された瞬間、どっと疲れがでてきたんだけど」


 カイさんとルカさんの顔から明るさが消え、代わりに疲労の色が露わとなる。

 

 でもその気持ちは分かる。

 私達は、をひたすら進んでいるのだ。


 でも誰もそこには言及しない。

 口に出すには、あまりにも残酷で救われない結末だから。

 

 私はぶんぶんと頭を振ると、倒れているGBレプリカの傍へいく。

 投げ出された左足に触れると、手のひらを通して魔力が体内に入ってくるのが分かった。


 そこで、ふと疑問に思う。

 生死問わず同じモンスター(の部位)から永久に魔力の回復ができるのか、と。


 おそらくモンスターに内在する魔力を吸いつくしてしまうと、それ以上は回復できないような気がするけど……。

 色々と調査が必要だなぁ、と思う私だった。

 

 それはさておき――。


 この行為の意味と重要性を知っている4人は、私の魔力が全回復するまで待ってくれてるようだ。


 先はまだまだ長いかもしれない。

 補給できるところで補給しておかなければ。


 ――15分後。


「みなさん、お待たせしました。多分、全回復したと思ぃます」


「おっ。終わったか。我らが勇者様の完全復活ってとこだな」


 とカイさん。

 笑ってるけど揶揄した感じはなかった。


「ゆ、勇者とか恥ずいんで止めてください。そんなガラじゃないぇすから。じ、じゃあ先に進みましょうっ。転移門を見つけるぞー、うぇいうぇいおーっ」


 照れ隠しで余計なことまでしてしまった。

 しかもライブ配信が始まるときの挨拶、混ぜちゃったっ。


「おー、その意気だ、その意気だ。よっ、勇者様」


 カイさんが今度こそ、からかい半分で手を叩き、


「ふふ、可愛い勇者様。どうか我らを転移門までお導きください」


 膝立ちして懇願の仕草のルカさんはどう考えてもふざけていて、


「そうじゃ、えいえいおーじゃ、えいえいおーっ!! ほら、ソーラもせんか」


「……ぇぃぇぃぉ–」

 

 やるきまんまんなナユタ王女の声が大きいと思ったら、ソーラさんの声はめっちゃ小さかった。



【コメント】

 ・うぇいうぇいと混じった!?

 ・今からライブ配信はじまるのかw

 ・なんか久々に、うぇいうぇいしたような気がする

 ・うぇいうぇいおー!!

 ・うぇいうぇいおーっ

 ・いいなそれ。今後も使っていこう

 ・うぇいうぃいおーっ!


 

 う……。

 うぇいうぇいを知っている視聴者さんからは、総突っ込みですね。

 でもなんか、うぇいうぇいの派生として定着しそうな感じですかねっ?

 それはそれで結果オーライですねっ。


 

 私の魔力はほぼ全回復。

 瀕死に近かった4人も元気になってもう少し頑張れそうだ。


 そう、諦めてはだめだ。

 脱出できることを信じて前に進まなくっちゃ。

 どこかに必ずダンジョンの外につながる転移門があるはずだから――っ。


「おい、あれはなんじゃ?」


 勇み足気味に先に進んでいたナユタ王女が、何かを指さしている。

 こちらからはダンジョンの壁が邪魔でよく見えない。


「一人で離れて歩いては危険です。王女様」


 ソーラさんが足早にナユタ王女の元に向かう。

 すると彼女は、ナユタ王女が〝あれ〟と称した物を目にしたのか、首を傾げた。

 ソーラさんもよく分かっていないらしい。


「なんだぁ?」


「動くハチ公とか止めてよ」


 そして、カイさんとルカさんがソーラさんに続く。

 〝あれ〟を目にした2人。

 何か信じがたい物を見つけたようなリアクションに、私の心がざわめく。


 居ても立っても居られない私は、短い距離を超俊足で移動。

 みんなのいるところを少し通り過ぎて、たたらを踏んで止まった私。

 みんなが見ている〝あれ〟を目視して放心した。


 むき出しの鉄骨と瓦礫の中で、ひと際ファンタジーを印象づけるもの。

 

 青い光を放つ、円形の魔法陣。

 それは、まごうことなき転移門だった。

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