第96話 ちっちゃくてごめんなさいっ!
「なにぃぃっ!? 白の龍廟の間でエンシェントドラゴンを倒して、そのエンシェントドラゴンからもらった特級武具がそれで、本当は聖魔法の全てが使えて鳳条星波の指導のおかげでバトルにも慣れてきたが、俺達と合流したときはすでに魔法を使いすぎていて魔力もぎりぎりで運動性能も最悪なので、エンシェントグローブでモンスターから魔力を吸収できることが分かったついさっきまで、力を発揮することができませんでした。ちなみに潜章はダンジョンに潜り始めて日が浅いのでまだ銅です。だとぉぉぉぉぉっ!?」
私が説明したあと、なぜか、ダイジェストのように話すカイさん。
まるで、あとから輪に入った人に要点のみを教えているようだった。
「なるほどね。やけに武具が神々しいと思っていたけど、そういうことだったのね」
ルカさんが私のエンシェントシリーズをしげしげと眺める。
「俺はてっきり、〝3級武具をそれっぽく加工した見た目から入った残念なルーキー〝かと思ったが、まさか特級武具だったとはな」
残念なルーキーっ!
カイさんにそんな風に思われていたなんて。
ちょっとショックですけど、確かにこんな小娘が……と私自身、思ったりもしますっ。
「カイよ、だから言ったじゃろう。四葉が余を魔法で助けてくれたと。四葉はとってもすごいダンジョンシーカーなのじゃ。のう、しちょーしゃの皆さん」
【コメント】
・そうでございます。ナユタ王女
・おっしゃるとおりでございます
・よっちゃんはすごくて可愛いダンジョンシーカーでございます
・百パーセント同意でございます。ナユタ王女
・全てはナユタ王女の仰せのままに
あ、代理でライブ配信やってもらってたままだったっ。
なんかみんな、ナユタ王女の家来みたいになっていますね!?
私はお礼を述べて、ナユタ王女からスマートフォンを返してもらう。
その際、少し寂しそうにしていたナユタ王女。
もしかしたら、ライブ配信の楽しさに気づいちゃったのかもしれない。
「鳳条星波の指導って言ってたけど、友達? あの人ってまだ若いけどすごい大物じゃない。そんな人とどこで知り合ったの? もしかして、おな中とか?」
星波ちゃんとの関係性を聞いてくるルカさん。
そういえば、言っていませんでしたね。
私は、
星波ちゃんが元々憧れていた人で――、
所沢Dの未知の領域でガス欠状態の私を助けてもらい――、
ひょんなことから、彼女の属する潜姫ネクストに特別枠で入ることになり――、
私の歓迎会からの流れで大東Cに潜って、そこで指導してもらった。
という経緯をみんなに話した。
「知り合いどころか、同じ事務所だったのかよ……」
そこでカイさんがスマホを操作する。
「あ、本当だ。オフィシャルサイトのメンバーの項目に載ってるわ。なになに……〝最強のエンシェントドラゴンを倒したキュートな舌足らずっ娘。彼女の魅力はなんといってもひたむきさ。その前向きで一途に物事に取り組む様は多くの視聴者の心を動かすに違いない。チャームポイントは、サイドポニーテールとちっぱい〟」
みんなが私の胸を見た。
そして気まずそうに逸らす。
ちっちゃくてごめんなさいっ!!
「カイよ。それはセクシャルハラスメントというやつじゃ。自重せい」
「そうですね。立派なセクハラでございます。カイ様」
ナユタ王女とソーラさんがカイさんにレッドカードを出す。
「は、はぁっ!? お、俺はこの紹介文を読んだだけですよっ。大体、こんなこと書く奴がわりぃんですよ。このご時世に何、考えてんだか。ったく常識のねぇ奴だぜっ」
私もこの文言はやっぱりどうかと思います!
「潜姫ネクストって大手じゃないけど、今もっとも勢いのある事務所よね。最強って言われている鳳条星波は別格として、残り2人もすごいらしいじゃない。バトルの強さ、それとチャンネル登録者数も。そもそも配信もやりながら強いって何?って感じだけど」
肩をすくめるルカさん。
その仕草は、決して到達できない場所をただ見詰めることしかできない
「それな。俺達はバトル一辺倒であの様だ。色々持ってるものが違うんだろうな」
カイさんも同じように。
「そぅですね。本当にすごい3人なんぇすよ」
「いや、湊本、お前もだろっ」
「いや、湊っちゃんもでしょ」
【コメント】
・いや、よっちゃんもなっ
・個人的には一番、持ってると思っている
・持ってなきゃ扉バーンでエンドラさん倒せんだろ
・カイさん達も充分持ってますよ!
・主人公という自覚を持ちましょうw
・いずれ事務所を背負って立つ少女
同時に突っ込みを入れてくる2人。と視聴者さん。
そんなことはないと謙遜する以外できない私。
といっても私自身、まだまだあの3人には遠く及ばないことは分かっている。
バトルの強さも、チャンネル登録者数も。
でもいつか、自信を持って潜姫ネクストの一員ですって言える日がくるかもしれない。
まだまだ先のことだとは思うけど。
「あ、もしかして道中助けてくれた情報提供者もその3人の誰かだったりするのか」
とカイさん。
「そうぇすね。お友達の星波ちゃんが赤スぺ使って助言してくれました。今もまだライブ配信を視聴してぃると思いますよ」
「そ、そうだよな。そりゃ見てるよな。お礼、言ったほうがいいかな?」
その視線はルカさんへ。
ルカさんは無言で、どうぞどうぞと両手を差し出した。
「う……じ、じゃあ、俺が代表して」
カイさんが居ずまいを正してスマートフォンのカメラの前に立つ。
緊張気味のカイさん。
まるで、自分より権威のある人に話しかけるかのようだ。
「ほ、ほほ、鳳条星波さん。あなたの助言のおかげでみんな生きてます。その節はありがとうごじゃいましたぁっ」
「ぷっ。噛んでるし」
カイさんが噛んで、クスクス笑っているルカさん。
でもカイさん、大丈夫ですよ。
私もしょっちゅう噛みますからっ。
あ、星波ちゃんからコメントきましたっ。
【コメント】
¥10000《どういたしまして。こちらこそ、よっつのこと守ってくれてありがとう。感謝しています》
私はその星波ちゃんからのコメントをカイさんに見せる。
カイさんは少し顔を赤らめると、「いえ、当然のことをしたまでですっ」と直立不動で答えた。
そしてその姿を見て、お腹をおさえて笑うルカさんだった。
星波ちゃん。
わざわざ赤スぺ使ってありがとうございましたっ。
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